ドラフトを知ると野球がもっと楽しくなる

どのチームが「人」を育て強くなるのか

ヤクルト~「運」に見放されドラフトも迷走…成績も安定せずファン泣かせ

 広岡達郎監督のもと、初優勝したのは78年。その後の80年代は長い低迷期に入り、81~90年はすべてBクラスで、最下位4度と優勝にはまったく縁がなかった。

 90年にID野球を提唱した野村克也監督が就任すると、「一年目に種を撒き、二年目に水をやり、三年目に花を咲かせる」のスローガンのもと、就任3年目の92年に本当に優勝してしまった。その後は98年の退任までリーグ優勝4回、日本一3回と黄金時代を迎えた。特に当時最強を誇った西武との92年と93年の日本シリーズは、今でも歴史的な熱戦として語り継がれている。

 野村監督退任後は、01年と15年に優勝を果たしているが、長く好調も続かないが、低迷も続かないチームで、強くも弱くもなく、一言で言うととにかく分からないチームである。ここ10年でAクラスは4回(うち優勝1回)、最下位も3回を数え、いまだに成績が乱高下している。
 要はこれといった成功の戦略もなければ、Bクラスが続いているから何とかしようという危機感もない気がする。そのことを表しているのがドラフトで、ここ10年の成功率7.4%は圧倒的に最下位だ。

 

●1位指名がコケれば全体もコケる…直近10年のドラフト成功率は12球団ワースト

 直近10年のドラフトの指名人数は66名。指名の割合は高校生が33%と少なく、かつて多かった大学生も32%で変わらず、一方で社会人指名が30%を占め2番目に多い。

 ただ、10年~14年の前半5年は高校生7名に対し、大学・社会人が25名と極端な即戦力志向だったが、15年~19年の直近5年は高校生が15名と倍増し、大学・社会人は19名と育成路線の舵を取っている。しかし残念ながらどちらも結果が出ていない…。 

 ポジション別では投手の指名が6割を占め、野手は捕手、内野手、外野手の割合がすべて13%で、捕手指名の割合が最も多く、内野手指名は最も少ない。ただ、捕手指名が多い割には、今オフに楽天から嶋基宏国学院大~07年③)を獲得するなど、中村悠平福井商高~09年③)以外戦力に成り得ていない。

 投手と捕手指名が多いのは、ディフェンスに厚みを持たせたい意図を感じるが、出来上がったチームは打高投低で結果につながっておらず、残念ながらヤクルトのドラフトは戦略と呼べるには程遠い。

【過去10年のドラフト1位指名選手

 10年④ 山田 哲人(履正社高・内野手)    高③大⓪社③(投手②野手④)

 11年② 川上 竜平(光星学院高・外野手) 高①大②社③(投手④野手②)

 12年③ 石山 泰稚(ヤマハ・投手)    高①大②社④(投手⑤野手②)

 13年⑥ 杉浦 稔大(国学院大・投手)   高①大③社②(投手④野手②)

 14年⑥ 竹下 真吾(ヤマハ・投手)    高①大②社④(投手⑤野手②)

 15年① 原  樹里(東洋大・投手)    高④大②社⓪(投手③野手③)

 16年⑤ 寺島 成輝(履正社高・投手)   高③大②社①(投手⑤野手①)

 17年⑥ 村上 宗隆(九州学院高・内野手) 高②大②社④(投手④野手④)

 18年② 清水  昇(国学院大・投手)   高③大③社②(投手⑤野手③)

 19年⑥ 奥川 恭伸(星稜高・投手)    高③大③社⓪(投手④野手②)

 

 そのことは1位指名選手を見れば明らかで、成功は山田哲と石山の2人だけ、それよりも既に3名がチームを去っており、川上と竹下は引退、杉浦は日本ハムへトレードされ、これはD℮Naの4名に次ぐ多さだ。

 将来の主軸候補だった川上は一軍出場ゼロで5年でクビ、エース候補の杉浦は4年目で日本ハムへ移籍し、即戦力左腕だった竹下は、制球難を克服できずに僅か1試合登板で、3年でクビである。
 さらに気になるのは、年々在籍年数が短くなってきていることだ。川上は4年目に背番号が36から69になり、前年には実質的に戦力外候補。杉浦も3年目に先発として3勝を上げたが、翌年未勝利になると直ぐに背番号が18から58になり、その年にトレードである。
 こうなると、本気で育成する気があるのか、本当に思ってしまう。特に1位指名の選手は、チームが熟慮を重ねた選手で、将来の主力を担い、看板選手になることを期待して指名している。その選手とおいそれと簡単に放出するようでは、強いチームには成りえない。

 しつこいようだがヤクルトのドラフト成功率は、直近10年では12球団で最も低い。山田哲のようなレジェンド級の選手に、投手では石山と小川泰弘(創価大~12年②)、秋吉亮(パナソニック~13年③)に、野手では今年新人王を獲得した村上のみだ。それどころか数少ない成功した選手の秋吉は、既に日本ハムへ移籍している。

 少し基準を緩めても投手では原と梅野雄吾(九産大九州高~16年③)、野手では西浦直亨(法大~13年②)しかいない。ではチームを支えているのは誰かというと、12球団で最も高い平均年齢28.4歳のベテラン組だ。

 30歳以上の主力が投手では31歳の石山の他に、36歳の近藤一樹日大三高~01年近⑦)と寺原隼人日南学園高~01年ダ①)、38歳の館山昌平(日大~02年②)、39歳の石川雅規青学大~01年自)、40歳の五十嵐亮太敬愛学園~97年②)で、今季近藤は59試合、五十嵐も45試合に登板している。

 野手では32歳の川端慎吾(市和歌山商高~05年高③)、35歳の大引啓次(法大~06年大③)に雄平(東北高~02年①)、坂口智隆(神戸国際大高~03年近①)、バレンティン、37歳の青木宣親早大~03年③)と畠山和洋専大北上高~00年⑤)がいる。

 ただ、今オフに館山と寺原、畠山が引退し、大引は退団、バレンティンソフトバンクに移籍し、一気に世代交代が進みそうだ。

 では、世代交代の注目の若手選手では、投手ではチーム最多登板の梅野のほかに、先発で4勝を上げた高橋奎二(龍谷大平安高~16年③)や秋吉とのトレードで日本ハムから加入した高梨裕稔(山梨学院大~14年④)に期待がかかる。

 野手では廣岡大志(智弁学園高~16年②)に山崎晃太朗(日大~16年⑤)、日本ハムから加入した太田賢吾(川越工高~15年⑧)が、西浦や中堅の荒木貴裕(近大~09年③)とレギュラー争いに加わってほしい。

 また、投手でも単年だが実績のある風張蓮(東農大オホーツク~14年②)や中尾輝(名古屋経大~16年④)の復活、野手では5本塁打を放ったルーキーの中山翔太(法大~18年②)に、ファームにも濱田太貴(明豊高~18年④)や吉田大成(明治安田生命~18年⑧)が実績を残しており、世代交代をどう進めるかが最大のポイントになる。

 

●一発頼みの大味な打線に、今季も投手陣は崩壊…全球団負け越しのオマケつき

 今年も強力打線と弱体投手陣のチーム構成は変わらず、開幕から4月までは貯金5とまずまずの出足だったが、5~6月にかけてリーグワーストの16連敗…昨年、浮上のきっかけになった交流戦も6勝12敗と振るわず最下位で終えた。また、全球団負け越しのオマケもついた悪夢のシーズンになってしまった。

 ただ、強力打線といっても、チーム打率.244はリーグ最下位で盗塁は62個の5位。一方で、167本塁打と656得点はリーグ2位、狭い神宮球場で一発頼みの大味な打線になっている。

 規定打席には青木とバレンティン、山田哲、雄平、中村、村上の6名が達成しており、そのなかでも村上のブレイクは大きな収穫となった。村上は打率こそリーグ最下位の.231だったが、36本塁打は高卒2年目選手の本塁打歴代タイ記録で、96打点は歴代トップの成績で、長所を伸ばすために、伸び伸びと育てるヤクルトの良い意味での奔放さが好結果につながった。。

 一方でリードオフマンの坂口が骨折で早々と離脱したあとは、外野のレギュラー候補に名を上げた選手はいなく、ベテランのレギュラーを脅かす若手も、村上以外は打力でアピールしたい廣岡は91試合に出場し.203で本塁打10本、守備力に定評のある太田は90試合で.251も13失策と、それぞれ長所で結果を出すことができず、ベテラン頼みのチーム事情が益々露呈したシーズンになった。

 投手陣の防御率4.78は12球団最下位で、失点も唯一の700点超えで、まさしく投壊という言葉が当てはまる。特に本拠地の神宮球場での防御率が5.20と、まったく地の利を活かした試合ができていない。

 エースの小川は規定投球回数に達したものの、防御率はただ一人4点台の4.57で、5勝12敗と大きく負け越した。ベテラン石川の8勝がチーム最多勝で、昨年活躍したブキャナンも負傷で4勝で終わり、あっさり自由契約になってしまった。

 昨年の躍進を支えた中継ぎ陣も総崩れで、クローザーの石山は不調でわずかに10S、中尾は12試合、風張は14試合と試合数が激減した。梅野とハフがチーム最多の68試合、マクガフやベテランの近藤が奮闘するも、いずれも防御率は3点台で安定感に欠けた。

 8名中5名の即戦力ルーキーも、残念ながら一人として戦力にはなっていない。同じ防御率リーグ最下位でも優勝した西武との違いは、ドラフトの成功率の低さで、外国人選手獲得のセンスの良さを、なぜドラフトで活かすことができないのか本当に不思議でならない。

 今オフはFAに参戦し、不足する先発で美馬学楽天)、外野のレギュラー候補で福田秀平(ソフトバンク)獲得に動いたが、いずれもロッテに攫われた。

 その一方で、喉から手が出るほど欲しい先発で涌井秀章(ロッテ)は金銭トレードで楽天への移籍が決まり、同じくロッテを自由契約になったボルシンガーは打たせて取る投手で、ともに現状にフィットする選手だと思うが動いた気配がない。

 野手でもオリックスを退団したロメロや、巨人のゲレーロなどはバレンティンの穴を埋めるには最適だと思う。美馬や福田の獲得に動いたのなら、もう少し実績のある選手に対し積極的に動いても良いと思う。

 とにかく課題が多い。投手陣の整備が最優先課題だが、同じくらい若返りが必要だ。早い話になるが、来年のオフには小川と山田哲の投打の要がFAを取得し、他球団への移籍の可能性があるだけに、野村監督ではないが3~4年の中長期的視点に立ってチームを建て直す必要がある。

 

●今ドラフトの目玉・奥川を獲得し、上位は大学生投手、下位は高校生野手に絞り込み

 12球団最下位の防御率アップのために今年は上位4人を投手で指名し、下位で高校生野手を獲得した。

 高津新監督を迎え、即戦力で神宮のスター選手・森下(広島)の指名で間違いないと思っていたところ、ドラフト直前に奥川指名を公言したのは驚いたが、今季、2軍監督を務めていた経験から、現状より将来を見据えた指名は評価できる。

 野村監督のもと黄金時代の中心選手だった高津監督が、長期的視野に立ったチーム作りを進める姿勢が現れたドラフトで、まず種を撒く1年になり、成績が乱高下することなく常に優勝争いができるチーム作りを期待したい。

 
1位~奥川 恭伸(星稜高・投手)11

 奥川は今夏の甲子園準優勝投手で、その活躍は記憶に新しい。4季連続でチームを甲子園に導き、自身は2年連続でU-18に選出されている。今年のドラフトの目玉選手の一人で、巨人と阪神の3球団が競合したなか、女神はヤクルトにようやく微笑んだ。

 それというのも、09年の菊池雄星(西武→マリナーズ)から続いていた1位競合の連敗が遂に11連敗で止まった。ちなみにヤクルトは16年の寺島以外はすべて競合で、さすがにこれだけ抽選で外すと単独指名に傾くところだが、欲しい選手に果敢に挑む姿勢は素晴らしいと思う。

 その奥川だが、完成度が高く現時点では間違いなく高校ナンバーワン投手だ。154キロのストレートとキレのあるスライダーを軸に、豊富な変化球を駆使し甲子園で見せた投球術も素晴らしく、高卒ながら即戦力の呼び声が高い。

 実際にヤクルトの先発陣は、小川と石川を中心に、原と高梨、高橋が横一線で、次に清水や寺島のドラフト1位選手と新外国人選手が続く。ただ正直層は薄く、奥川を早い段階で使いたい気持ちは分かるが、ここはじっくり育ててほしい。

 なぜならヤクルトの高卒1位選手で活躍した例は少なく、なんと成功したのは91年の石井一久(現楽天GM)まで遡らなくてはならない。直近でも05年の村中恭平は先発を実質6年務めたあと中継ぎに転向し、今年戦力外で退団した。07年の佐藤由規も実働は僅かに3年で、4年間(12~15年)一軍登板がないまま、今年楽天に移籍した。08年の赤川克紀も実働2年、在籍7年でクビである。今年の抽選の連敗同様に、高卒1位投手の負の連鎖も断ち切りたいところだ

2位~吉田 大喜(日体大・投手)28 

 高校3年時にあの激戦区・大阪で、公立の大冠高がベスト4に勝ち進んだときのエース。大学で故障も克服し、状況次第では1位指名もあった選手で、ヤクルトが2位で吉田を獲得できたのは大きい。

 元々コントロールには定評があり、大学で球速もアップ。151キロのストレートとスプリットを武器に、大学選抜ではセットアッパーを務めた。プロでも短いイニングなら十分に活けると思うが、ここは本人も希望しているように先発育てたい。

 個人的には昨年の1位の清水より完成度は上だと思い、開幕からの先発ローテーション入りも夢ではない。公立の星が、投手育成に長けた日体大で大きく成長、1学年先輩の松本航(西武)や東妻(ロッテ)の活躍に続きたい。

3位~杉山 晃基(創価大・投手)35

 大学1年春から登板機会に恵まれ、2年生のときより主戦を務め、創価大の150キロトリオのエース格として活躍した。

 東京新大学リーグでは頭一つ抜けた存在で、154キロの重いストレートはプロでも十分武器になる。不調時でも粘り強くゲームメークでき、マウンド度胸も十分のタフな投手で、先発でも中継ぎでもいけるだろう。

4位~大西 広樹(大商大・投手)44

 チームメイトのノーヒッター・橋本(中日)の影に隠れがちだが、2年春から先発に定着すると関西6大学リーグで通算27勝を上げ、2度のベストナイン、3度の最優秀投手賞を受賞し実績は十分だ。

 148キロのストレートとスライダーを軸に、スプリットにフォーク、ナックルと多彩な変化球を駆使し、ピンチにも動じない強心臓が魅力の投手だ。

 2~4位の大学生投手はいずれも右腕の22歳で、同い年には先発左腕の高橋がいる。同じ右腕でもタイプは異なり、吉田は総合力が高く先発型、杉山の重いストレートは魅力でクローザー、大西はロングリリーフからの適性を見極めたいが、技巧派の先発タイプに近いと思う。

 さすがにタイプは違うとは言え、同じ世代の投手を3名も一気に獲るのは得策ではないが、奥川を獲得できたことで、大胆に大学生投手を並べることができた。 

5位~長岡 秀樹(八千代松陰高・内野手)58

 高校生の内野手では、遊撃手に逸材が多いことは確かだ。長岡は50メートル6秒の俊足に高校通算19本塁打を記録し、堅実な守備にも定評がある。走攻守に優れたセンスは認めるが、プロでは何か一つ特徴がほしい。

 打撃は教えることはできるが、守備と走塁はセンスまたはポテンシャルである。センスを教えることができず、まずは自慢の守備走塁でアピールしたいところだ。

6位~武岡 龍世(八戸学院光星高・内野手)60

 こちらも長岡同様、走攻守に優れた遊撃手で、先輩の坂本(巨人)2世とも言われた選手だ。50メートル5秒後半、通算本塁打も23本。広角に打ち分ける巧打の打撃に定評がある攻撃型の選手だが、今夏の甲子園ではいずれも感じることができなかった。

 3年進級時には上位候補に名前が挙がっていたが、評価が上がらず6位での指名になった。長岡とは違い、得意の打撃でレギュラーを目指してほしい。

 長岡と武岡は同じ右投左打の遊撃手で、昨年は根尾(中日)を1位指名したように、宮本慎也の三塁コンバート以降、遊撃手のレギュラーが決まっていない。昨年指名した村上は一塁または三塁、同じ強打者の濱田太貴(明豊高~18年④)も外野手で、俊足巧打の内野手奥村展征日大山形高~13年巨④)しかいない。

 今ドラフトは、大学生右腕3名と高校生遊撃手2名の極端に偏った形になったが、いずれもポッカリと穴の開いた補強ポイントを抑えた良いドラフトになった。

 一番良いのは、入団前から既に競争環境が明確になっていることで、これって結構重要な要素だと思う。

 残念だったのは育成指名がゼロなことで、チームの戦力の底上げや競争環境の醸成からも育成選手をもっと活用してほしかった。支配下から育成にする消極的な活用ではなく、もっと攻めてほしかった。

 投手では米山魁斗(昌平高)や高橋佑樹(慶大)の両左腕に、北山比呂(日体大)もいたし、外野手は20歳~22歳が不在で、俊足の金子莉久(白鴎大)や菅田大介(奈良学園大)はピッタリだと思ったが…。