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どのチームが「人」を育て強くなるのか

今年のFAはまさかのロッテが主役

 今年のFA(フリーエージェント)は、西武の十亀剣(投手)と秋山翔吾(外野手)、ソフトバンクの福田秀平(外野手)、楽天美馬学と則本昴大(ともに投手)、ロッテの鈴木大地内野手)の6選手が権利を行使し、十亀と則本は宣言残留したが、メジャー移籍を目指す秋山以外の3選手が他球団への移籍を決めた。

 FAの主役になったのは、ドラフトと同じでロッテだ。球団史上初めて2選手(美馬と福田)を獲得し、一方でチームリーダーの鈴木は楽天への移籍を決め、すべてにロッテが係わる結果になった。

 基本FAには参加しない広島や日本ハムに加え、阪神オリックスが現有戦力の底上げを優先し、今年はFAには参戦せず、最終的にはDeNAも参加しなかった。

 

●抜群の安定感を誇る美馬はロッテへ

 真っ先に移籍先を決めたのが美馬だった。美馬は藤代高(茨城)から中大を経て、東京ガスへ進み、2010年に楽天から2位指名され入団した。

 高校時代から度重なるケガに悩まされ、当初は現在のような先発ではなくクローザー候補としての獲得だった。その後、故星野仙一監督が、肘の負担を考慮し先発へ転向させ、楽天が初優勝を果たした2013年には、巨人打線を完璧に封じ込めて2勝を上げ、日本シリーズMVPに輝いた。

 2桁勝利は2017年の一度だけだが、先発8年間で4度、規定投球回数をクリアし、通算51勝(60敗)で防御率3.82を記録している。

 美馬は家族の関係で関東のチームでのプレーを希望し、残留交渉を行った楽天のほかに、ヤクルトと巨人、ロッテの4球団が手を上げた。獲得を目指したチームの共通点は先発投手が不足しているチームである。

 獲得したロッテは、今年のドラフトで即戦力投手を獲得せずに5名で指名を終え、FA宣言の噂があった美馬の獲得を見据えていたのかと思った。昨年の丸佳浩(広島→巨人)もそうだったが、FAでの獲得には綿密な事前調査と非公式の下交渉がポイントになる。

 昨年、丸がFAした段階で、既に巨人は何歩もリードし、後発のロッテに勝ち目はなかった。ただ、今年はロッテが逆のことを行い、巨人は原監督が直接交渉するなどしたが、名門の看板と条件や待遇で優る巨人ですら逆転することはできなかった。山口俊がメジャーへのポスティング移籍を表明するなど、ただでさえ先発の駒不足に泣いた巨人において、美馬を逃したのは大きかった。

 ロッテ移籍のポイントになったのは、井口監督の人脈や今年から24時間体調のケアができるサポート体制も要因だが、早くからロッテが、美馬を高く評価していたことがやはり決め手になったのだろうと思う。

 

●まさかのチームリーダーのFA移籍…大地の穴をだれが埋めるか

 鈴木大地の移籍は衝撃的だった。誰もが認めるロッテの看板選手であり、卓越したキャプテンシーを併せ持つチームリーダーで、勝手に生涯ロッテで移籍はないものと思っていたので驚いた。

 鈴木は桐蔭学園高(神奈川)から東洋大へ進み、2011年にドラフト3位でロッテへ入団。リーダー気質はアマチュア時代から評価され、東洋大では創部以来初めて3年生のときに副主将を任されている。2014年には入団3年目にも係わらず、伊東勤監督に見いだされキャプテンを務めた。

 入団2年目からレギュラーを獲得し、大きなケガや不振もなく2013~14年、2015~18年は全試合に出場している。今年は打率.288、15本塁打、68打点とキャリアハイの数字を残した。鈴木には宣言残留を認めたロッテのほかに、楽天と巨人が手を上げた。当初は西武やソフトバンク、中日も参戦する話もあったが、結果3球団に留まった。

 冒頭、鈴木の移籍は意外だったと述べたが、それほどロッテのなかで鈴木の存在感は大きい。ただ、今年は3年続けた全試合出場があっさり開幕戦で途絶え、その後もレギュラーポジションのないままの起用が続いた。思えば、昨シーズンの後半戦から試合終盤で守備固めや代走で交代することが多くなり、レギュラー選手としての評価してくれるチームを選んだのかなと思う。

 実際、今年のドラフトでは5位で守備に定評のある福田光輝(法大)の指名で鈴木移籍への保険をかけ、楽天から西巻賢二(内野手)を獲得した段階で、鈴木残留の線は薄くなった。

 鈴木は巧打者だが、実は3割を記録したことはない。三塁打が多いが、足もそれほど早くない。内野のどこでも守れ、安定したスローイングは長所だが、守備範囲も広くなく肩も強い方ではない。

 そんな鈴木がロッテで長年レギュラーを務めファンに愛されたのは、常に全力プレーを貫く、練習から手を抜かない野球に対する真摯な姿勢である。楽天はその姿勢を成績以上に評価して入団にこぎつけた。

 一方で巨人は正二塁手がここ数年決まらず、背番号7も空き番で、これ以上ない条件が揃っていたが、パ・リーグでのプレーを希望していた鈴木に脈はなかった。

 今回の鈴木の楽天移籍は、鈴木のキャリアに大きなプラスになると思う。ただ、まだ先の話だが、最後はもう一度ロッテのユニフォームに袖を通し、将来は監督としてロッテに戻ってくることをファンは心待ちにしている。それまで私は、「♯7 SUZUKI」のピンストライプのユニフォームを大切に保管したいと思う。

 

●本人も驚く大争奪戦!福田が新天地に選んだチームは?

 最後に国内FAで移籍を決断したのが福田秀平だ。人的補償が発生しないCランクの選手で、本人も驚いていたが宣言残留を認めたソフトバンクのほかに西武と楽天、ロッテ、中日、ヤクルトの6球団の大争奪戦になった。福田は約1ケ月の熟考を重ね、最後に選択したのはロッテだった。

 福田は進学校でも知られる多摩大聖ケ丘高(東京)から、2008年に高校生1位でソフトバンクに入団。高校時代から高い身体能力が評価され、入団当初はスイッチヒッター内野手だったが、左打ちに専念し、2011年から外野手登録になった。

 福田はレギュラーの経験がなく、実働9年で一度も規定打席に達したことがない。通算打率も.235で、ソフトバンクでは主に代走や守備固めでのスーパーサブの立場だったが、選手層の厚いソフトバンク以外ならレギュラーと言われた。誰しも高い能力は認めたものの、成績だけ見れば決して一流ではない選手に、ここまで争奪戦が過熱するとは本人も驚いただろう。

 手を上げたチームで、もっとも金銭的な条件が良かったのは楽天と言われ、本人が望むレギュラーの可能性だけを考えるならヤクルトと中日だろうと思った。しかし、最終的に福田が迷ったのは、ソフトバンク残留かロッテ移籍で、決めては若手のころに指導を受けた現ロッテの鳥越コーチのからのアプローチだった。

 30歳になった福田は、常勝チームの控えの立場で満足しつつある環境を変えたくFA宣言したと聞いている。控えながらFAの権利を取得し、さらなる高みを目指してチャレンジする姿勢は素晴らしく、素直に応援したい。

 鳥越コーチは「秀平のような馬鹿な選手が必要なんだ」と、福田を口説いたようだが、意図は分かりかねるが、福田の加入でロッテがどう変わるか今から楽しみだ。

 

●巨人はまさかのFA連敗…変わりつつある選手の意識

 今年のFAで驚いたのは、巨人が美馬~鈴木と2連敗したことだ。これまでFAでは無類の強さを発揮し、多少の遅れも名門の看板と、他チームを圧倒する条件(主に金銭)で獲得したが、今年は実らなかった。

「それほどまでの選手ではない」「本番は来年のオフ」「若手育成のチャンス」など、さまざまな意見を目にするが、連敗して良いわけがない。これまでのFA戦略の見直しは必要だ。

 移籍しても活躍できなければ直ぐに干され、活躍しても晩年はあっさり戦力外で放出されるなど、伝統と言えば伝統だが巨人は外様に冷たい印象が拭えない。かつての巨人ブランドや金銭の優位的条件では獲得できなくなってきていることを、今年は真摯に受け止めるべきである。

 今年でいえば美馬は井口監督、福田は鳥越コーチ、FAではないがNPBに復帰する牧田和久楽天)は、かつてのチームメイト石井GMとの「人」の繋がりが決め手になった。昨年の浅村栄斗(楽天)も、以前のチームメイト渡辺直人との関係も移籍の後押しになっている。

 前ロッテの里崎智也氏は、FAのパターンには①夢追い型、②出場機会優先型、③金銭追求型、④チーム愛優先型があると分類しているが、人脈型が新たに加わるのかなと思った今年のFAだった。