ドラフトを知ると野球がもっと楽しくなる

どのチームが「人」を育て強くなるのか

埼玉西武~投手の補強が最優先!野手は主力と控えの差を埋めたい

●打って、走って、12球団ナンバーワンの打線も、投手陣は防御率が後退…

 残念ながらCS突破とはならなかったが、今年もこれまでの常識を覆すような打ち勝つ野球で連覇を達成した。昨年は2001年の近鉄以来、チーム防御率最下位での優勝を果たし、「まぁ、1年くらいだったらあるかな」と思っていたが、連覇となるとまさしく強さは本物だ。

 まして今シーズンは、エースの菊池雄星マリナーズ)がメジャー移籍し、主将で打点王の浅村栄斗(楽天)もFAで移籍し苦戦が予想された。さらに昨年最多勝の多和田真三郎は、1勝でシーズン早々離脱してしまった。

 実際にスタートから5割を維持するのがやっとで、首位ソフトバンクに最大8.5ゲーム差あったが、9月からの怒涛の反撃でソフトバンクを捕らえ、最終2ゲーム差をつけての連覇だった。

 強打の山賊打線は、チーム打率は12球団ナンバーワンの.265、盗塁134も1位で、得点が700点を超えたのも西武しかいない。打って、走れて、長打力もあり、どこからでも得点できる力があり、相手投手陣には脅威だ。

 一方で投手陣の弱さも相変わらずで、チーム防御率はさらに後退した。結局、CSでは今年も懸念された投手陣が崩壊し、ソフトバンクに1勝もできずに、2年連続で日本シリーズ出場を逃した。 

【2019年~チーム成績 ※( )は昨年の成績】

 防御率…4.35⑥(4.24⑥)打率….265①(.273①)

 本塁打…174②(196②)盗塁134①(132①)

 得点…756①(792①)失点695⑥(653⑥)得失点差+61(+139)

 

●野手は主力と控えの差が歴然…投手はエースが不在…選手層の薄さが課題

 西武の平均年齢26.7歳は若いチームで、特に破壊力抜群の野手陣は26.4歳と若く、末恐ろしいチームだ。今年は12球団最多の8名が規定打席に達し、木村文紀も2打席不足しただけで、実に1年間レギュラー9名を固定して戦えることができた。

 西武の強さは、個々がそれぞれの強みを活かして、打線として機能しているところだ。1番の秋山翔吾最多安打、2番の源田壮亮は30盗塁でリーグ2位、3番の森友哉首位打者、4番の山川穂高本塁打王、8月から4番を務めた中村剛也打点王、5番の外崎修汰は26本塁打、90打点、22盗塁で総合力の高さを見せ、栗山巧と木村を挟んで、ラストバッターの金子侑司は盗塁王である。

 20本塁打以上が山川のほか、中村、外崎、森、秋山の5名、100打点が中村、山川、森の3名、20盗塁以上が金子侑、源田、外崎がおり、チームと個人成績を見てもどこからでも得点できるスキのない打線である。

 打線とは反面、脆弱な投手陣のなかで今年の優勝の原動力になったのは、後半戦先発で11連勝を上げたニール、両リーグ最多の81試合登板の平井克典(パ・リーグ新記録)、30セーブを上げ復活した増田達至で、この3人の活躍がなければ終盤の逆転優勝はなかっただろう。

 このほか高橋光成が10勝、今井達也とルーキー松本航がともに7勝を上げたが、いずれも防御率4点台で安定感に欠けた。中継ぎ陣も50試合以上に登板したのは、平井と増田のほかには小川龍也しかおらず、本当に平井と増田には頭が下がる。

 

【西武の5年後の主力選手】

 投 手…武隈祥太・平井克典・小川龍也・多和田真三郎・本田圭佑・野田昇吾

     佐野泰雄・斎藤大将・松本 航・高橋光成・今井達也・平良海馬

 捕 手…岡田雅利・森 友哉

 内野手…水口大地・山川穂高・外崎修汰・源田壮亮永江恭平

 外野手…熊代聖人・金子侑司

 

 今から5年後は、戦力は落ちていることが予想される。今年の主戦力では、投手では榎田大樹が34歳、十亀剣が33歳、増田が32歳。野手では中村と栗山が38歳、秋山と木村が32歳を迎える。さらに秋山と十亀はFA移籍が濃厚で、5年度ではなく来シーズンが既に心配だ。

 課題の投手陣は、先発は多和田、松本航、高橋光、今井と数は揃っているが、エース候補としていずれも安定感に欠く。中継ぎ陣は佐野が一人立ちし、若手では平良も出てきたが、ファームでも結果を残した投手が少なく質量ともに不足している。

 野手は中村、栗山、秋山の後釜の育成が必要だ。DHの栗山は外国人選手で宛がえるが、中村と秋山の穴は大きい。レギュラーメンバーの力量はずば抜けているが、控えとの差がありすぎる。相撲に例えれば、三役と前頭どころか十両くらいの差がある。CS後に辻監督もコメントしていたが、短期決戦で投打に戦力の薄さが露呈した。

 また、恒例と言ってしまえばそれまでだが、毎年主力がFAで移籍しており、若手の育成と輩出スピードを上げないと、一気に戦力ダウンになってしまう可能性があるだけに今年は的確にウィークポイントを補強したい。

 

●上位は即戦力投手、野手は年齢に関係なくウィークポイントを補強

 西武の年齢バランスは申し分なく、投手では26歳に6名と集中しているのを除けば、各年齢に1~2名おり、23~24歳の不足は社会人選手で補えば問題ない。野手は年齢バランスを気にすることなく、補強ポイントに絞った指名ができる。

 とにかく西武の強さはドラフトの成功率にある。十亀、増田、高橋光、多和田、今井、松本航は全員が1位指名。野手のレギュラーでも、1位指名が森と木村(入団時は投手)、2位で山川、3位で秋山、金子侑、外崎、源田と上位指名が並び、上位指名選選手がしっかり主戦になっているのが強みだ。

 

【西武の補強ポイント】

 投 手…先発ローテを任せられる即戦力投手と将来のエース候補(左腕)

 捕 手…森のライバルになる高校生または即戦力大学生

 内野手…ポスト中村のスラッガーと内野のバックアップ要員

 外野手…秋山流失に備えて走攻守揃った即戦力

 

 今年の即戦力ナンバーワン投手は森下暢仁(明大・投手)で、素質豊かな高校生指名にもいきたいが、今年も即戦力投手のほうが良いと思う。森下のほかにも、立野和明(東海理化・投手)太田龍JR東日本・投手)の先発に、不足している左腕で河野竜生(JFE西日本・投手)が候補になる。また、クローザーで津森宥紀(東北福祉大・投手)も手薄なブルペン陣にはもってこいの選手だ。

 高校生投手のでは、不足する左腕で及川雅貴(横浜高・投手)宮城大弥(興南高・投手)は上位で消えそうだ。また、浅田将太(有明高・投手)落合秀市(和歌山東高・投手)はBIG4に劣らない素質が魅力で、鈴木寛人(霞ケ浦高・投手)堀田賢慎(青森山田高・投手)は、ドラフト直前に評価が上がっている隠し球の上位候補だ。

 野手の指名を補強ポイントの優先順位は、ポスト秋山の外野手>スラッガー候補の三塁手>内野のバックアップ>森のライバル捕手の順か。

 ポスト秋山では、宇草孔基(法大・外野手)は攻撃的1番打者で、俊足巧打の高部瑛斗(国士館大・外野手)安打製造機柳町達(慶大・外野手)は外野のほかに三塁も守れる。社会人の佐藤直樹JR西日本・外野手)は、評価が急上昇中で上位でないと獲れない。高校生では木下元秀(敦賀気比高・外野手)も走攻守三拍子揃った選手だ。

 ポスト中村の三塁手は、石川昴弥(東邦高・内野手などは西武に入団したらどんな選手になるか楽しみだ。また、勝俣翔貴(国際武道大・内野手は大学でスラッガーに成長し、同じぽっちゃり体形の片山勢三(パナソニック内野手は、イメージ的にもポスト中村にピッタリだ。

 内野のバックアップ要員では、小深田大翔(大阪ガス内野手はレギュラーを狙え、諸見里匠(日本通運内野手は守備なら即一軍レベル。高校生は将来のレギュラー候補で、森敬斗(桐蔭学園高・内野手を筆頭に、地元の韮澤雄也(花咲徳栄高・内野手紅林弘太郎(駿河総合高・内野手は強打の大型遊撃手。上野響平(京都国際高・内野手は守備に定評がある。

 こうなると捕手は下位指名になりそうで、ともに大型捕手の石塚綜一郎(黒沢尻工高・捕手)渡部雅也(日大山形高・捕手)、U-18のレギュラー水上佳(明石商高・捕手)、強肩の小藤翼(早大・捕手)は下位でも獲得できそうだ。

 また、中位から下位では伸びしろにある大学生に即戦力投手を加え、ブルペン陣を強化したい。大学生では早くから松田亘哲(名古屋大・投手)をリストアップしており、稲毛田渉(仙台大・投手)大西広樹(大商大・投手)米田知弘(大阪大谷大・投手)が夏から秋に向け評価を上げた。

 即戦力投手では、萩原僚麻(NTT西日本・投手)小久保気(西濃運輸・投手)中川一斗(JFE西日本・投手)は中継ぎ・抑えタイプで、補強ポイントに合致する。 

 

【西武のドラフトを勝手にシミュレーション】

 1位…立野 和明(東海理化・投手)…本格派右腕で都市対抗優勝に貢献

 2位…宇草 孔基(法大・外野手)…パンチ力もある攻撃的一番打者

 3位…浅田 将太(有明高・投手)…気持ちを前面に出すタフネス右腕

 4位…松田 亘哲(名古屋大・投手)…大学から野球を再開した頭脳派

 5位…上野 響平(京都国際高・内野手)…守備力に定評があり打撃も成長

 6位…小久保 気(西濃運輸・投手)…ストレートで押す強気な投球

 7位…木下 元秀(敦賀気比高・外野手)…二刀流をこなす抜群の身体能力

 

 上位指名選手が着実に主戦になることにより、毎年のようにFAで主力選手が流出しても戦力を維持できたが、やはりどこかで止めなくてはならない。16年はエースの岸孝之楽天)、17年は勝ち頭だった野上亮磨(巨人)、昨年が不動の3番浅村と、ベテラン捕手の炭谷と、半分でも残っていれば…と思ってしまう。

 2年連続のCS敗退を機に、来シーズンから西武も三軍制の準備にかかる。今年は育成含め「量」を確保するドラフトになりそうだ。