ドラフトを知ると野球がもっと楽しくなる

どのチームが「人」を育て強くなるのか

2019年ドラフト寸評~成功・失敗した球団(後編)

 今年はスケール(感)で言えば、セ・リーグのほうが成功では…という声がある。確かに高校BIG4は、佐々木朗希を除いて全員セ・リーグ、さらに石川や井上のスラッガーに、森下も広島が獲得した。

 セ・リーグの高校生指名は23名、パ・リーグの11名で2倍だ。反面、社会人(独立リーグ含む)はセ・リーグ2名に対し、パ・リーグは12名 を数える。偶然なのかもしれないが、セ・リーグの各チームが全体的に育成に舵を取った感がある。

 今年の交流戦パ・リーグが圧倒し、日本シリーズで巨人は、ソフトバンクの前で野球をさせてもらえず、1勝も出来ずに終えた。現実としてセ・リーグは、リーグ全体でレベルを上げていかなくてはならない。まだ暫くはパ・リーグ優勢が続くと思うが、この事実から目を背けることなく、今年のドラフトを契機に差を縮めてきたい。

 

△巨人(70点)

 今年の日本シリーズ第3戦の先発が、ルーキー高橋という現状から、先発投手を含めた投手陣の駒不足は明らかだった。最後まで佐々木(ロッテ)、奥川(ヤクルト)、森下(広島)で悩んだ感があり、最終的には奥川を指名したが、クジ運の悪さは変わらずで、外れ1位で指名した宮川(西武)も外し、抽選は13連敗まで伸びてしまった…。

 奥川→宮川に見られるように、とにかく1位で即戦力投手が欲しかった。結果、1位指名は堀田賢慎(青森山田高・投手)になった訳だが、この時点で吉田(ヤクルト)や立野(日本ハム)の即戦力が残っていた。ただ、2位の指名順位が11番目では堀田は間違いなく残っておらず、育成に舵を取らざるにならなかった。やはり1位指名を2回も外すと、全体のドラフト戦略が難しくなることを痛感した。

 結果、昨年と同じ6名中高校生5名の指名になった。昨年と違い、今年及第点を付けたのは、指名した選手の順位や選択が申し分なかった。堀田は学年が上がるごとに成長を見せる投手で、十分将来のエース候補になれる。

 3位の菊田拡和(常総学院高・内野手は高校通算58本のスラッガー、4位で左腕の井上温大(前橋商高・投手)、5位は強肩の山瀬慎之介(星稜高・捕手)、6位の伊藤海斗(酒田南高・外野手)は、プロでは野手に専念するスラッガーだ。

 唯一の即戦力で、2位の太田龍JR東日本・投手)は制球力が課題も、昨秋の段階では1位競合候補だっただけにポテンシャルは高い。

 ただ、チームの補強ポイントの即戦力投手、ポスト坂本の遊撃手の獲得はできなかった。FAで済む話なのかもしれないが、競争させていかないとチーム力は上がらない。

 

ソフトバンク(65点)

 大方の予想は佐々木(ロッテ)だったが、早い段階で石川(中日)に決めていたようだ。マスコミも利用して、ずっと佐々木本命を匂わせた情報操作は見事だったが、石川の評価が上がり3球団競合になったのは誤算だった。

 その石川を外し、1位指名したのが佐藤直樹JR西日本・外野手)で、20歳代で右打の主力が今宮と甲斐しかおらず、とにかく右打者が必要な状況が分かる。佐藤は夏あたりから急に名前が出るようになり、社会人野手の不足もあって1位指名まで上り詰め、強肩と俊足は一軍クラスなので出番が増えそうだ。昨年は駅員として日本シリーズの観戦客の整理にあたり、翌年1位指名なのだから、こういったエピソードも面白い。

 2位では大学ナンバーワン捕手の海野隆司(東海大・捕手)で、こちらも右打者だ。海野は強肩で甲斐のライバルになり得る良い選手だが、21歳~23歳に4人も捕手がいる状況のなか、必要だったのか疑問だ。3位の津森宥紀(東北福祉大・投手)も、横手投げで大学時代からクローザーを務め、ブルペン陣は厚くなるが、ここも同い年で4名もおり、年齢バランスで首を傾げた。

 下位では再び野手を指名し、4位の小林珠維(東海大札幌高・内野手は、投手でも評価が高かったが、高校通算30本のスラッガーで、プロでは野手に専念する。5位の柳町達(慶大・内野手は、左打の俊足巧打の選手で外野も守れるのが強みだ。

 海野、津森、柳町ともっと上で指名されると思っていた大学生を獲れたのは良いが、年齢バランスが悪く、加えて2年連続で高校生投手の指名がないのはどうかと思う。育成でも高校生投手は1名しかおらず、らしくないドラフトが2年続いた。 

 

△西武(65点)

 パ・リーグを2連覇しながら、2年連続で日本シリーズ進出を逃した要因の一つが、2年連続リーグ最低防御率の投手陣で、ポストシーズンではことごとく打ち込まれた。今年はとにかく投手、投手で8名中5名、上位3名に即戦力投手を並べた。とにかく即戦力投手で森下(広島)が本命だと思っていたので、正直、佐々木(ロッテ)公言は驚いた。ただ、即戦力投手が欲しいなかでも、佐々木を指名した姿勢は評価できる。

 その佐々木を外し、巨人と競合して1位で獲得できたのが宮川哲(東芝・投手)で、森下と並んで間違いなく即戦力だ。スタミナに課題はあるが、三振の取れる投手で中継ぎなら開幕一軍は間違いないと思う。2位の浜屋将太(三菱日立PS・投手)は、先発・中継ぎどちらもOKだが、左の先発が榎田しかいないので、ここは先発で育てたい。

 ただ、良かったのはここまでで、3位以降は補強ポイントを十分に埋めることができなかった。3位の松岡洸希(BC武蔵・投手)は、投手転向1年半で伸びしろはあるが、折り返しの13番目で指名するなら、津森(ソフトバンク)や郡司(中日)、地元の韮澤(広島)もいた。4位で両打の遊撃手・川野涼多(九州学院内野手、5位で強肩の守備型捕手の柘植世那(ホンダ鈴鹿・捕手)を指名するなら尚更だった。

 6位の井上広輝(日大三高・投手)は、上位候補だったがケガで評価が上がらず、7位の上間永遠(四国徳島・投手も故障を抱え、プロでじっくり治せばよいが、リスクも大きい。最後に8位の岸潤一郎(四国徳島・内野手は、高知・明徳高から4年後のドラフト1位を目指し大学に進むもケガで中退。一度は完全に野球から離れたが、独立リーグで野手に転向し、順位とプロセスは違うがプロ入りが叶い本当に嬉しかった。

 

× D℮NA(65点)

 ドラフト前に、ラミレス監督はサプライズがあると言っていたので、即戦力の森下(広島)ではなく、佐々木(ロッテ)か筒香のメジャー移籍に備え石川(中日)、昨年から欲しかった遊撃手で地元の森敬斗(桐蔭学園高・内野手かなと思っていたので、森指名には驚きはしなかったが、単独はないだろうというのが正直な感想だ。

 確かに森は良い選手で、補強ポイントにも合致するが、競合を避けていては強いチームにはならず、その意思がD℮NAから伝わらない。2位で先発候補のサウスポー坂本裕哉(立命大・投手)、3位で中継ぎなら即戦力のスリークオーター伊勢大夢(明大・投手)を指名し、単年で見れば悪くはない。

 ただ、12年にD℮NAになってから、高校生投手の上位指名は、17年3位の阪口しかおらずスケールの大きさを感じない。2~3位は即戦力が暗黙の了解になっており、森を獲るのなら、なぜ地元・横浜高の及川(阪神)をスルーしたのか…。

 4位の東妻純平(智弁和歌山高・捕手)も悪くないが、年齢バランス的には捕手こそ即戦力に行くべきで、森を指名しておきながら5位で同じ遊撃手の田部隼人(開星高・内野手を獲得する必要があったのだろうか。

 6位の蝦名達夫(青森大・外野手)は俊足で長打力もあり、7位の浅田将太(有明高・投手)も今夏評価を落としたが素質は申し分なく、下位指名は良かったが、どうも全体的に見てしっくりこないのが伝統になりつつある。さらに育成ドラフトは席には着いたものの指名はなし。1位は単独、2~3位は即戦力、4~5位で高校生、下位は未完の大器…少し型にはまりすぎではないかと今年も感じ、失敗ドラフトとした。

  

× 日本ハム(60点)

 思わず「どうした…日ハム」とうな垂れたドラフトだった。いの一番に佐々木(ロッテ)を公言したものの抽選で外し、社会人ナンバーワン左腕の河野竜生(JFE西日本・投手)オリックスとの競合で、1位候補だった立野和明(東海理化・投手)を2位で指名でき、ともに高卒3年目の若い即戦力投手を2人獲得できたのは大きい。

 3位の上野響平(京都国際高・内野手も文句ない指名で、小柄だが守備の巧い遊撃手だ。打撃も力をつけており上位指名でなければ獲れなく、上位指名は申し分なかったが、4位以降が酷かった…。

 4位の鈴木健矢(JX-ENEOS・投手)は、サイドスロー右腕の中継ぎ・ワンポイントで、5位の望月大希(創価大・投手)は、長身から投げおろすストレートが魅力。6位の梅林優貴(広島文化学園大・捕手)は強肩、7位の片岡奨人(東日本国際大・外野手)は俊足巧打で地元出身で、誤解がないように言うが、彼らはみんな良い選手だ。

 ただ、鈴木や望月は先発よりは、単にブルペン陣を厚くする補強で、欲しいの先発投手なはず。上位で即戦力を獲得できたなら、育成の旗を下げることなく、上沢のように将来のエース候補として、下位で高校生投手に行くべきだった。梅林はそもそも今年、捕手指名は年齢バランスでも必要ないし、片岡も左打者ばかりの外野陣に、さらに左を加える必要性を感じない。

 終わってみれば、高校生は育成含めても上野1人で、育成の旗印はどこへ消えたのか。確かに育成の遅れによる戦力不足が露呈し夏場に大失速し、即戦力でチーム力を上げる必要があるのは理解するが…スケール感のない凡庸なドラフトだった。

 

× 楽天(50点)

 1位は佐々木(ロッテ)にするか、右のスラッガー三塁手と補強ポイントに完全に合致する石川(中日)で揺れていたが、最後は地元の佐々木を指名できた。ただ、抽選で外したあとの1位が驚きで、小深田大翔(大阪ガス内野手を指名してきた。

 確かに小深田は社会人ナンバーワンの内野手で、遊撃に収まれば茂木を本職の三塁で起用できる。ただ、昨年の同僚・近本(阪神)よりは打撃力が見劣りし、2位でも獲れたのではが本音だ。同じ1位で行くにしても、佐々木を指名したのだから、エース候補で西(阪神)や地元の堀田(巨人)を挟んでも良かったと思う。

 小深田に限らず、今回は全体指名順位が高い。2位の黒川史陽(智弁和歌山高・内野手や3位の津留崎大成(慶大・投手)は、申し訳ないが十分に下位で獲れた選手で、4位の武藤敦貴(都城東高・外野手)にいたっては隠し球すぎて、思わずプロ志望届一覧を点検してしまった。

 5位の福森耀真(九産大・投手)と7位の水上佳(明石商高・捕手)は順当だが、6位もサプライズの瀧中瞭太(ホンダ鈴鹿・投手)で、本人も指名はないと思って準備していなかった話を聞いて、「そりゃ、そうだろうな」と妙に納得してしまった。

 センターライン強化で小深田や二塁手の黒川を上位指名した理由も分からなくはない。ただ、やはり良くも悪くも石井GMの意思が反映したドラフトで、「どうだ俺の眼力」と言わんばかりで悪手が多かった。

 また今年は、東北に関係(出身地や学校)する選手が総勢16名プロ入りしたが、楽天は残念ながらゼロで、どうしても評価することができなかった。

 

 最後に、今年指名漏れした有力選手で落合秀市(和歌山東高・投手)がいる。落合は以前より野球に向かう姿勢や性格を不安視する声があったが、指名漏れには正直驚いた。ただ、その答えはドラフト終了20分後に待っていた。

 本指名を終えると、落合は育成ドラフトを見ることなく、野球は辞めて就職すると帰路についた。監督は「こういった性格がプロに敬遠された」とコメントしていたが、まったくその通りで、プロは心技体の一つでも欠けていれば大成しない。改めてスカウトの調査力の凄さを垣間みたエピソードだった。