ドラフトを知ると野球がもっと楽しくなる

どのチームが「人」を育て強くなるのか

広島~現在も昔も変わらないドラフト巧者

 ドラフトの成果が出るには10年掛かると言われている。いくら有望選手を指名できても、チームが一朝一夕で強くなるわけではない。チームで明確な方針を持って、一年一年積み重ねていくことで、常に上位で優勝を争うことができる。そこで、直近10年に絞り、12球団のドラフトを振り返ってみようと思います。

 

 ドラフト草創期より、もっともドラフトを活用してきたチームが広島カープである。80年代はリーグ優勝2回、Bクラスはわずかに1回と黄金時代を築いた。社会人投手の一本釣りで投手王国をつくり、有望な高校生野手を上位指名で獲得し、猛練習で一流選手を何人も育て上げた。

 93年から06年まで続いた逆指名~希望枠時代は思うように選手が獲れず苦戦したが、希望枠が無くなった07年からちょうど10年後の16年にリーグ優勝を果たした。ドラフトで正しいプロセスを踏めば、チームが強くなることを証明してくれた。

 ちなみに07年は高校生と大学生・社会人の分離ドラフトで、獲得した選手は、高校生1位で安部知裕(福岡工大城東高・内野手)と3位で丸佳浩千葉経大付高・外野手)、大学生・社会人も3位で小窪哲也青学大内野手)、4位で松山竜平九州国際大・外野手)とズラリと主力が並ぶ。

 

●メジャー型の運営で、高い組織力がチームを強くした

 広島は、プロ野球界で唯一、親会社を持たない市民球団として1949年に誕生した。資金力に乏しく、草創期は街頭で募金を集め、チームを存続してきた過去もある。その後、ドラフトを活用し、育成を主眼に置いたチーム運営を続けてきた。

 広島の特徴の一つは組織力の高さだ。オーナーをトップに組織が一本化されており、フロントから現場まで意見交換と問題を共有し、いま何をすべきという目的と役割が明確になっている。

 親会社の顔色を窺うことなく、オーナーが人事権と決裁権を握っているので、メジャー型の運営を実現できている。そのことを如実に表しているのはドラフトだ。

【広島のドラフト基本方針】

 ①今必要なポジションと数年後に必要となるポジションを分類し、優先順位を決める

 ②今必要なポジションは、大学生と社会人から選択する

 ③数年後、必要なポジションは高校生をリストアップする

 ④野手は4番ピッチャーが基本(センスと運動能力が高く、肩も強く足も速い)

 ⑤長所を優先しながら、選手をリストアップする

 非常にわかりやすく、何だそんなことと思うかもしれないが、実現できているのは、現状では広島のほかには日本ハムソフトバンクくらいだ。

 ①~③はその年で戦略も変わるが、④であれば鈴木誠也(12年2位~二松学舎大付高)や堂林翔太(09年2位~中京大中京高)、成長株の中神拓郎(18年4位~市岐阜商高)が当てはまる。
 ⑤では、守備職人の菊池涼介(11年2位~中京学院大)や、打撃センス抜群の西川龍馬(15年5位~王子)は、ウィークポイントを十二分に補えるほど長所が卓越しており、過去のドラフトの成功法則が蓄積しているので、チームの方針がぶれない。

 

●1位指名は社会人投手から大学生投手へ

 直近10年のドラフトの指名人数は60名で、巨人とロッテの並び3番目に少ない。高校生指名が48%(29名)と3番目に多く、大学生は33%(20名)でちょうど真ん中、かつての十八番だった社会人指名は17%(10名)と最も少なく、なんと4年連続で指名がない。

【過去10年のドラフト1位指名選手

 10年⑤ 福井 優也(早大・投手)     高②大②社③(投手⑥野手①)

 11年⑤ 野村 祐輔(明大・投手)     高①大③社⓪(投手②野手②)

 12年④ 高橋 大樹(龍谷大平安高・外野手)高③大①社①(投手⓪野手⑤)

 13年③ 大瀬良大地(九共大・投手)    高①大②社②(投手④野手①)

 14年③ 野間 峻祥(中部学院大・外野手) 高④大②社①(投手④野手③)

 15年④ 岡田 明丈(大商大・投手)    高②大①社④(投手④野手③)

 16年① 矢崎 拓也(慶大・投手)     高④大②社⓪(投手⑤野手①)

 17年① 中村 奨成(広陵高・捕手)    高④大②社⓪(投手④野手②)

 18年① 小園 海斗(報徳学園内野手)  高⑤大②社⓪(投手②野手⑤)

 19年④ 森下 暢仁(明大・投手)     高③大③社⓪(投手③野手③)

 

 1位指名は大学生投手が6名と多く、12球団で最も多い。ちなみに抽選で外したが、10年は大石達也早大~西武)、14年は有原航平(早大日本ハム)、16年の田中正義(創価大~ソフトバンク)と大学生投手の1位指名は本当に積極的だ。

 確かに野村や大瀬良はチームのエースだし、岡田や楽天へ移籍したが福井も戦力になっており、今年の森下の単独指名を見ても1位では確実に戦力になる投手を獲得する姿勢が窺える。さらに未完の大学生投手の薮田和樹(14年2位~亜大)や床田寛樹(16年3位~中部学院大)を上位指名するなど、大学生投手の育成には相当自信を持っているようだ。 
 ただ、気になることが2つある。一つはリーグ優勝した16年から極端に育成志向に偏ってないかという懸念である。高校生指名が多いのは悪いは思わないが、基本方針にあるように何事にもバランスが必要だ。

 もう一つは、地元の中国地方の選手の獲得が近年少ないような気がする。18年は引地秀一郎(倉敷商・投手)が楽天3位で、水谷瞬(石見智翠館・外野手)もソフトバンクが5位で獲得し、内野手を4名も取るならば、水谷を獲得した方がバランスも良かったのでは…。
 基本方針⑤に当てはまっていた、地元・広島経大の柳田悠岐(10年~ソフトバンク2位)、ともに広島新庄高の田口麗斗(13年~巨人3位)や堀瑞輝(16年~日本ハム1位)はチームに不足している左腕で、獲得のチャンスがあっただけに勿体ないことをしたと思う。

 ただ、このことを差し引いても広島のドラフト戦略は群を抜いている。繰り返しになるが、ドラフトを正しく活用すればチームが強くなることを、90年代の西武や、この広島が証明しているのに、なぜ、他のチームが素直に学ばないのか不思議でならない。