ドラフトを知ると野球がもっと楽しくなる

どのチームが「人」を育て強くなるのか

阪神~ドラフト下手は相変わらず?もうあの暗黒時代には戻りたくない

 12球団で一番ドラフトが下手な球団は?」と聞かれたら、申し訳ないが即座に阪神と答える。それだけ阪神のドラフトにはチーム強化の方向性を感じず、中長期的な戦略も感じられず、毎年ツギハギ指名を続けているようにしか思えない。 

 例えば88年のドラフトは、阪神と中日の2人の球団職員の去就に注目が集まった。中日は球団職員の大豊泰昭をしたたかに2位指名し、1位で今中慎二を指名した。一方で阪神は素直というか、バカ正直というか、そのまま中込伸(神崎工高~88年①)を指名した。同じ状況のなか、中日のほうが一枚も二枚も上手だった。

 翌年の90年は野茂英雄近鉄)を中心に、空前の豊作ドラフトになった。野茂を外した阪神は、巨人にスルーされた元木大介がまだいるなか、葛西稔(法大~90年①)を指名し、元木は田淵幸一監督のダイエーが指名した。その年に掛布が引退し、スター候補になり得る将来の4番打者が欲しいなか、「なぜ葛西?」と誰もが唖然とした。

 01年から自由枠指名が始まると、素質豊かな高校生には目もくれず、12球団で唯一制度が終了する04年まで上位2枠を使い切った。ただ、戦力になったのは安藤優也トヨタ自動車~01年自)と能見篤史大阪ガス~04年自)、鳥谷敬早大~03年自)だけとは寂しい限りである。 

 とにかく即戦力志向が強く、投手なら翌年何勝、打者なら一軍半の選手が増えるだけでスケール感が不足している。ドラフト草創期に江夏豊(大阪学院高~66年①)や田淵幸一(法大~68年①)、掛布雅之習志野高~73年⑥)のようなリーグを代表するスーパースターを指名した実績があるだけに寂しい。 

 

●悲願の日本一から暗黒時代へ…2人の名将が礎を築いた

 阪神は元々は巨人の最大のライバルと言われただけあり、リーグを代表する強豪チームだったが、優勝にはなかなか届かなかったが、逆に最下位も少なかった。そんななか85年に悲願の日本一を達成し、日本中に虎フィーバーが巻き起こった。

 だが、そのあとに待っていたのは思い出したくもない暗黒の歴史で、優勝後の80年代後半から90年代は本当に弱かった…。86年からの15シーズンで、Aクラスはわずかに2回、最下位はなんと9回を数えた。

 そんな阪神を変えたのが、闘将・星野仙一で、02年に就任すると5年振りに最下位を脱出し、翌年には優勝を果たした。その後、岡田彰布監督が就任し、翌々年の05年に優勝。岡田が率いた5年間はAクラス4回でチームも強化され、かつての定位置であった最下位は18年の一度だで、優勝争いに食い込めるチームに成長した。

 ドラフトの特徴はとにかく大学生が大好きで、直近10年は37%とロッテに次いで2番目に多い。ただ、そのなかで主戦になっているのが、投手では岩崎優(国士館大~13年⑥)、野手でも梅野隆太郎(福岡大~13年④)と高山俊(明大~15年①)、大山悠輔(白鷗大~16年①)だけではさぞ無念だろう…。しかしそんな大学生好きも、大事なところで方針がぶれてみすみす大物を逃してしまう。

 16年は競合を嫌がり、本命と言われた佐々木千隼(ロッテ)を回避して、大山悠輔を指名した。阪神は「してやったり」と言わんばかりの表情だったが、ファンは驚きの声を上げた。結局、佐々木を1位入札するチームはなく、大本命を単独で獲得できた結果になり、すべての1位指名が終わったときの阪神のテーブルは「やってしまった」と苦笑いし、会場は阪神ファンの落胆に包まれた。

 18年もてっきり1位で地元の辰巳涼介(楽天)と思っていたが、まさかの藤原恭大を(ロッテ)指名してきた。外しはしたが、前年にも清宮幸太郎日本ハム)や安田尚憲(ロッテ)の高校生野手を指名した姿勢は大いに評価できるが、他球団の動向からシミュレーションを重ねれば、辰巳も単独で獲れた選手だった。

 このように大事なところで、獲得できた大学生の大物選手をみすみす逃がしてしまったりすることが、阪神のドラフト下手が目立つ結果になってしまっている。 

【過去10年のドラフト1位指名選手

 10年② 榎田 大樹(東京ガス・投手)     高③大①社①(投手③野手②)

 11年④ 伊藤 隼太(慶大・外野手)    高③大②社⓪(投手③野手②)

 12年⑤ 藤浪晋太郎大阪桐蔭高・投手)  高②大②社②(投手③野手③)

 13年② 岩貞 祐太(横浜商大・投手)   高①大④社①(投手③野手③)

 14年② 横山 裕哉(新日鉄住金鹿島・投手)高①大①社③(投手③野手②)

 15年③ 高山  俊(明大・外野手)    高①大④社①(投手③野手③)

 16年④ 大山 悠輔(白鷗大・内野手)   高②大③社③(投手⑤野手③)

 17年② 馬場 皐輔(仙台大・投手)    高①大④社①(投手④野手②)

 18年⑥ 近本 光司(大阪ガス・外野手)  高②大⓪社④(投手③野手③)

 19年③ 西  純矢(創志学園高・投手)  高⑤大①社⓪(投手③野手③)

 

 過去10年の1位指名選手を見ても即戦力志向が見て取れる。その弊害は年齢構成に表れ、特に野手が酷い。19歳から22歳のいわゆる育成期の選手が、内野手の小幡竜平(延岡学園高~18年②)1人しかおらず背筋が寒くなった。最も多い日本ハムが9名、他球団も最低でも5名はおり、なぜここまで放置したのか謎である。

 反面、25歳には野手だけで7名おり偏りすぎである。捕手の最年少がその25歳の長坂拳弥(東北福祉大~16年⑦)、外野手は23歳の島田海史(上武大~17年④)では、阪神ファンだけではなく心配になってしまう。

 直近10年の指名人数59名はセ・リーグ最小で、08年の統一ドラフト以降、判を押したように5~6名の指名で、6名以上指名したのは8名指名した16年の1回だけである。育成選手も12年から5年間1人も指名せず、これだけの空き年齢があるのに育成選手制度をなぜ有効活用しないことも理解に苦しむ。

 ポジション別の指名では、投手の指名が最も少なく、外野手の指名は最も多い。ただ、出来上がったチームは投高打低で、外野のレギュラーもルーキーの近本に、FAで移籍してきた糸井嘉男(近大~03年日自)と福留孝介日本生命~98年中①)では結果は残念ながら出ていない。

 最後に阪神の本拠地である大阪は、高校野球屈指の強豪地区である。夏は13回、春は11回甲子園を制覇し、両方とも全国最多である。そのなかでもPL学園高が7回(夏④春③)、大阪桐蔭高が8回(夏⑤春③)全国制覇している。これだけの強豪地区ながら、なぜか地元強豪校からの指名は大阪桐蔭の藤浪のみである。

 奇しくも05年の日本シリーズ阪神はロッテに1勝もできずに終えたが、このシリーズ活躍したのがPL出身のサブローと今江敏晃大阪桐蔭西岡剛だった。別に大学生指名が悪い訳とは言わない。ただ、もっと地元とのネットワークも大事にすべきだ。 

 

●リーグナンバーワンの防御率で投手王国を形成!一方で長打力不足は解消されず

 昨シーズンは後半にまさかの6連勝を決め、広島を0.5ゲーム差で振り切り、前年の最下位から3位に順位を上げた。前半好調だったが、6~7月に負け越しが続き、ここまでかなと思ったが、終盤の粘りは見事だった。

 チームを救ったのは盤石のリリーフ陣で、後半クローザーに復帰した藤川球児高知商高~98年①)が16セーブを上げ、島本浩也(福知山成美高~10年育②)はチーム最多の63試合に登板しながら防御率1.67の抜群の安定感を誇り、新外国人のジョンソンと岩崎も防御率1点台だ。さらにベテランの能見、守屋功輝(ホンダ鈴鹿~14年④)、ドリスも50試合に登板し質量とも強力リリーフ陣を形成できた。

 先発ではFAで移籍してきた西勇輝菰野高~08年③)が貫禄の10勝、青柳晃洋(帝京大~15年⑤)も9勝を上げ、ともに規定投球回数を超えた。さらに高橋遥人(亜大~17年②)や中日から移籍したガルシアもローテーションを守った。チーム防御率はリーグ1位の3.46で、まさに投手王国の基盤を築きつつある。

 打線はチーム打率が.251のリーグ4位、盗塁はリーグ1位でセ・リーグで唯一100の大台に乗った。ただ、本塁打は94本で課題の長打力不足は昨シーズンも解消されなかった。糸井がリーグ3位の.314を記録し、ルーキーの近本、糸原健斗(JX-ENEOS~16年⑤)、梅野、大山の5名が規定打席に達した。

 大山は14本塁打、76打点と数字は寂しいがチーム1位の成績を残し、主力選手として独り立ちの目途が立った。ルーキーの近本は、入団当初は活躍を不安視されていたが、セ・リーグ新人記録を塗り替える159安打に盗塁王も獲得し周囲の不安を一蹴した。

 このほか新外国人のマルテ、ルーキー木浪聖也(ホンダ~18年③)も、1年目ではまずまずの成績を上げ、期待の高山や大病から復帰した原口文仁(帝京高~09年⑥)の復調など、来シーズンに向け光明が見えた。

 残念だったのは、一昨年活躍した期待の若手が結果を出せなかったことか…。岩貞と秋山拓巳(西条高~09年④)は投球回数が半減、才木浩人(須磨翔風高~16年③)は6勝から2勝、小野泰己(富士大~16年②)は7勝から勝ち星なしと期待を裏切った。

 野手でも中軸候補の中谷将大(福岡工大城東高~10年③)に北條史也光星学院高~12年②)、陽川尚将(東農大~13年③)が伸び悩み、ファームでは別格の江越大賀(駒大~14年③)も一軍では歯が立たず、期待に応えることができなかった。誰か一人でもブレイクすると打線に厚みを増すのだが…いくら広い甲子園とは言え、本塁打が大山の14本、マルテの12本、福留の10本が上位3人はいくらなんでも寂しすぎる…。

 

●思わず「日本ハムか…」と思った会心ドラフト!甲子園のスター選手の活躍に期待

 一昨年に就任した矢野燿大監督のここ2年のドラフトには変化が見える。一昨年は藤原→辰巳→近本と徹底して外野手を指名し、センターライン強化に努めた。また、96年以来、上位1~3位を野手指名しウィークポイント改善を進めた。

 昨年も奥川を外したあとも、西純を指名し、素質豊かな高校生投手の1位指名を続けた。1位での補強ポイントを決め、外れてもブレない姿勢は評価できる。また、1位~5位まで高校生指名を続け、うち3名が野手とスケール感のあるドラフトになった。

 
1位~西  純矢(創志学園高・投手)15

 3年夏は残念ながら岡山県大会準決勝で敗れ、甲子園の土は踏めなかったが、2年夏の甲子園初戦で、その年のセンバツベスト8の創成館高(長崎)相手に16三振を奪う鮮烈デビューは記憶に新しい。物議は醸し出したが、帽子をとばし、雄たけびを上げ、気合を前面に打ち出した投球はインパクトがあり、佐々木朗希(ロッテ)と奥川恭伸(ヤクルト)、同僚の及川と並び高校BIG4と呼ばれた。

 ストレートは最速154キロ、タテ・ヨコのスライダーとフォークを武器に、完成度の高い投手だ。昨夏のU-18では打力でも目立ち、大会最多本塁打に輝いた。まさしく野球センスの塊で、スケール感のある将来のエース候補と言える。

 リーグ屈指の投手陣をほこる阪神で、焦る必要はない。有望な若手投手も揃っており、チーム内で競争環境も整っている。今度は本拠地になった甲子園で、気合の入ったピッチングをまた見せてほしい。

2位~井上 広大(履正社高・外野手)32

 昨夏、初の全国制覇を決めた履正社高(大阪)の4番で、私はスラッガーで将来の4番候補、地元の強豪校からの上位指名と、2位・井上指名を大きく評価した。高校通算本塁打49本で、決勝戦では奥川から3ランを放っている。 

 まだまだ粗削りで、時間はかかると思う。ただスイングの力強さと飛ばす力は超高校級で、井上が成長すれば10年は4番に困らないチームになる。心配なのは、指名後にプライベートで軽いケガをしたり、施設見学の際に太り気味を指摘されるなど、プロとしての意識を高めてほしい。

3位~及川 雅貴(横浜高・投手)37

 最速153キロのストレートに、140キロ台のスライダーが武器の左腕で、高校BIG4に名を連ねた。U-15では世代ナンバーワン投手と言われ、横浜高進学後も順調に成長したかに思えたが、3年時には本来の投球ができずにU-18の選考にも漏れた。

 ただ、秘めたポテンシャルは本物で、ツボにはまったときは手もつけられないピッチングを見せる。課題の制球力を克服して、西純と並んで左右のエースになってほしい。能見が今年41歳、岩田稔(関大~05年希)も36歳を迎え、阪神の左腕は量的にも不足しており、意外に出番は早いかもしれない。

4位~遠藤  成(東海大相模高・内野手)45

 昨夏の甲子園では背番号1をつけて、チームを4年振りの甲子園に導いた。投手でも最速145キロをほこるが、プロでは野手で勝負する。その野手としては高校通算45本塁打、甲子園でも2本塁打8打点と投打に高いセンスを見せた。野手としての本職は遊撃手だが、U-18では外野手も務めた万能型だ。

 とにかく身体能力の高さは折り紙つきで、阪神の内野陣で左打のスラッガーはおらず、鳥谷コンバート後、遊撃手には北條と木浪がいるがレギュラーは確約されていない。チャンスは十分にあり、まずは得意の打撃でアピールしたい。

5位~藤田 健斗(中京学院大中京高・捕手)59

 昨夏の甲子園でチームを初の4強に導いた。二塁送球1秒79の強肩に加え、主将で4番を務めたまさに中心選手。昨春の日本代表合宿で佐々木(ロッテ)の163キロの球を受けたことでも有名になった。捕手として強肩に高いリーダーシップを兼ね備えているのは強みだ。

 何せ24歳以降の捕手が一人もおらず、藤田が最年少。育成に時間がかかるポジションだが、昨年は梅野以外は坂本誠志郎(明大~15年②)が20試合、長坂は3試合しか出番がなく、梅野がコケれば一気に課題が噴出し、藤田への期待は順位よりも大きい。

6位~小川 一平(東海大九州・投手)66
 最速149キロを超えるストレートが武器で、高校時代は無名だったが進学した東海大九州で頭角を表し、2年生のときに大学選手権出場の主力で注目を浴びた。大学生ながらまだまだ伸びしろのある未完型で、一時は上位指名の隠し球とも言われたポテンシャルを秘めている。

 投球スタイルはストレートを軸に、スライダー、カーブ、ツーシームを駆使し緩急でカウントを整え、得意のチェンジアップで三振を取る。先発でも当然いけるが、中継ぎで重宝されそうな感じがする。

 育成指名
 育成指名1位は、小野寺暖(大商大・外野手)で、リーグMVPを2度受賞した強打者。明るい性格で、本指名されなかった悔しさを露わにする気の強さもプロ向き。

 2位の奥山皓太(静岡大・外野手)は、高校時代は投手で、大学で野手へ転向した。まだ粗削りだが、その分素質の高さが窺える。

 

 とにかく昨年は、これまでの阪神にはなかったインパクトのあるドラフトだった。是非、一時ではなくこの姿勢が続くのを期待したい。最後に直近10年のクジ運は4勝10敗…ここはどうにもならない。