ドラフトを知ると野球がもっと楽しくなる

どのチームが「人」を育て強くなるのか

楽天~相次ぐ短命監督とちくはぐなドラフトでチームの方針が見えない

 04年に球界を揺るがしたプロ野球再編問題。2リーグ制維持のために誕生したのが東北楽天イーグルスで、73~77年のロッテ以来、27年振りに仙台にプロ野球チームが誕生した。

 期待を一身に浴びての新球団は、スタートから前途多難だった。何せオリックス近鉄が吸収合併され、近鉄が消滅…両チームの主力はオリックスが抱え、楽天に残ったのはピークを過ぎたベテラン選手と実績に乏しい若手選手だった。

 さすがにこのメンバーではどうすることもできず、初年度は断トツの最下位に沈み、初代監督の田尾安志は本当に気の毒だったと思う。その後はBクラスが4年続き、09年に初のAクラス入りを果たしたが、またBクラスが3年続いた。この間に東日本大震災が発生し、楽天は東北復興の大きな希望となった。被災地の思いを胸に、遂に星野監督のもと13年に初優勝を果たすと、巨人を下し球団創設9年目で日本一に輝いた。

 しかし翌年はいきなり最下位に転落し、成績がなかなか安定しない…。楽天となって15シーズン、Aクラスは09年、優勝した13年、17年、19年の4回、一方で最下位は6回を数え強豪チームには程遠い。

 安定しないのは成績だけではなく、監督もこの短期間に7名を数える。初代監督の田尾のあとは、06年~09年まで野村克也、10年はマーティ・ブラウン、11年~14年まで星野仙一、15年は大久保博元、16年から18年途中まで梨田昌孝、平石洋介が監督代行を務め、翌年監督としてAクラスに復帰を果たすも解任…今年からは早くも8代目で三木肇が指揮を執る。

 人数の多さもさることながら、田尾とブラウン、大久保、そして平石は1年で退任である。平石以外はすべて指揮を執った年が最下位だが、田尾と大久保は初の監督で、いくら最下位でも1年で解任は厳しすぎる。平石の解任はいまだに理解できず、どういったチームを目指していくのか、長期的な方針が見えない。

 

●分離ドラフトがチームを底上げし、近年は高校生・野手の上位指名でチーム力アップ

 チームの方針が見えないから、ドラフトにその意思が反映されない。例えば04年の楽天の初めてのドラフトは、誰が見ても1年目から優勝争いはおろか、Aクラス入りも難しいのは明白だった。それならば将来を見越して高校生指名が絶対に必要だったが、指名した6名全員が大学生・社会人の即戦力指名したのにはガッカリした。

 ちなみに04年の高校生1位には、地元・東北高のダルビッシュ有日本ハム)がおり、涌井秀章(西武)も単独の指名である。そんな楽天の転機になったのが、05年~07年の分離ドラフトで、高校生を半ば強制的に指名することになった。もし、分離ドラフトがなければ、大エース・田中将大駒大苫小牧高~06年高①)を果たして指名していただろうか?おそらく即戦力選手の1位指名を続けたと思う。

 実際にこの3年間の内訳は高校生8名、大学生10名、社会人5名で、このわずか3年の分離ドラフトが楽天にとってはラッキーだったし、戦力を押し上げる結果になった。投手では田中の他に、05年の片山博(報徳学園高~05年高①)と青山浩二(八戸大~05年大社③)、翌年は永井怜東洋大~06年大社①)が主力を務めた。

 野手の主力は、05年に銀次(盛岡中央高~05年高③)と桝田慎太郎(智弁学園高~05年高④)、草野大輔(ホンダ熊本~05年大社⑧)、翌年は嶋基宏東洋大~06年大社③)に渡辺直人三菱ふそう川崎~06年大社⑤)のチームリーダー2名を獲得、07年には聖澤諒国学院大~07年大社④)が入団し、13年の優勝に大きく貢献した。

 ただ、ここ10年では72名と多くの選手を獲得しているが、成功率は14%とパ・リーグでは最も低い。指名の割合も高校生37%、大学生はやや多く36%、社会人は27%とほぼ満遍なく指名しており、いずれも指名ゼロの年は10年ない。一方で、13年のように投手を8名指名した年があれば、15年には1名、翌年はまた8名など、偏っているようで、実はバランスも取れているようでなんとも評価し難い指名が、益々どういうチームを目指しているのか分からなくしている。

【過去10年のドラフト1位指名選手

 10年⑥ 塩見 貴洋(八戸大・投手)      高②大②社①(投手②野手③)

 11年⑤ 武藤 好貴(JR北海道・投手)  高③大②社①(投手③野手③)

 12年④ 森  雄大東福岡高・投手)   高④大①社①(投手④野手②)

 13年① 松井 裕樹(桐光学園高・投手)  高④大②社③(投手⑧野手①)

 14年⑥ 安樂 智大(済美高・投手)    高②大②社③(投手④野手③)

 15年⑥ オコエ瑠偉関東一高・外野手)  高③大②社②(投手①野手⑥)

 16年⑤ 藤平 尚真(横浜高・投手)    高③大④社③(投手⑧野手②)

 17年③ 近藤 弘樹(岡山商大・投手)   高①大④社②(投手③野手④)

 18年⑥ 辰巳 涼介(近大・外野手)    高②大⑤社①(投手④野手④)

 19年③ 小深田大翔(大阪ガス内野手)  高③大②社②(投手③野手④)

 

  楽天は04年の一場靖弘(明大~04年自)から始まり14年の安樂まで、14人連続して投手が1位指名で、1位は投手という不文律でもあるのかと思った。しかも統一ドラフトになってからは、08年の藤原紘通(NTT西日本~08年①)から11年の武藤まで、4年連続即戦力投手指名で小粒なチームになっていった。チームをスケールアップしていくうえで、上位での高校生指名と野手指名は必要で、ここにチャレンジすることでチームの本気度が分かる。

 そういう意味で変化が現れたのは11年からで、森を広島との競合のうえ獲得した。その後は松井を5球団、安樂は2球団と3年連続で競合のなかから高校生投手の獲得に成功している。

 そしてようやく14年に、初めて高校生野手の平沢大河(ロッテ)を指名し、抽選で外したあともオコエを指名し方針を貫いた。さらに外れはしたものの、17年は清宮幸太郎日本ハム)と村上宗隆(ヤクルト)、18年の藤原恭大と19年の佐々木朗希(いずれもロッテ)を指名した。高校生野手を3名も1位指名しており、直近5年の結果は野手の1位指名が3名と、チームをさらにスケールアップしていこうとするチャレンジスピリッツが十分に伝わってくる。

 ただ、18年オフから着任した石井GMのドラフトは首を傾げた。18年は藤原のあとに辰巳を指名した。辰巳は良い選手で、辰巳1位に異を挟むつもりはないが、外野には島内宏明(明大~11年⑥)に新人王を獲得した田中和基(立大~16年③)がおり、そこまで外野手にこだわる理由があったのか…。2位指名もいの一番で捕手の太田光(大商大~18年②)を指名したが、嶋がおり堀内謙伍(静岡高~15年④)も伸びているなか緊急性を感じなかった。

 1位で地元東北の雄・吉田輝星(日本ハム)や、2位も仙台出身の梅津晃大(中日)が残っていた。下位で佐藤智輝(山形中央高~18年⑤)や鈴木翔天(富士大~18年⑧)の地元選手を指名するなら、1位吉田、2位梅津でも良かった気がする。

 今年の1位・小深田も驚いた。内野は一塁に銀次、二塁に浅村栄斗(大阪桐蔭高~08年③)、遊撃に茂木栄五郎(早大~15年③)のレギュラーがいるなか、さらにFAでロッテから鈴木大地東洋大~11年③)を獲得するなら、25歳の即戦力、小深田指名は何だったのか?また、小深田は俊足巧打が売りだが、楽天には同じタイプの選手が多く、欲しいのはスラッガーのはずで、紅林弘太郎(オリックス)や井上広大(阪神)がいるなか、狙いの読めない1位指名だった。 

 

●浅村とブラッシュの加入で得点力アップ!安定したリリーフ陣でAクラス入り

 最下位に沈んだ18年シーズンの最大の要因は貧打線で、12球団最低の打率と得点数だった。しかし昨シーズンはチーム打率.251でリーグ2位、得点も614のリーグ3位で大きく改善した。

 その原動力になったのが西武からFAで加入した浅村と、新外国人のブラッシュでともに本塁打33本を放った。銀次と島内が安定した成績を残し、茂木が復調したことでウィーラーを下位打線で使える余裕が生まれた。

 18年新人王の田中の不振が誤算だったが、ルーキーの辰巳がその穴を埋めた。辰巳は打撃こそ物足りなかったものの、チーム一番の13盗塁を上げ、超人的な守備でチームを何度も救った。同じルーキーの渡邊佳明(明大~18年⑥)は、夏場まで得点圏打率5割と勝負強さを見せた。

 投手陣は則本昴大(三重中京大~12年②)が前半戦に間に合わず、岸孝之東北学院大~06年西・大社希)も開幕戦で離脱し、いきなりWエースを欠いた。そんななか美馬学東京ガス~10年②)が規定投球回数を投げ切り8勝、辛島航(飯塚高~08年⑥)が9勝、ケガから復活した石橋良太(ホンダ~15年⑤)も8勝を上げた。

 圧巻だったのがリリーフ陣で、クローザーの松井が防御率1点台でセーブ王を獲得し、森原康平(新日鉄住金広畑~16年⑤)と新外国人のブセニッツも同じ1点台、ベテランの青山に高梨雄平(JX-ENEOS~16年⑨)、宋家豪は2点台と安定した成績を残した。結果、リーグ2位の防御率3.74と投手陣も安定し、7月以外はすべて勝ち越すシーズンになった。

 

●全体的に順位が一つ高く、投手も野手もタイプが同じ好みが出たドラフト

 19年ドラフトは地元の雄・佐々木朗希(ロッテ)と、将来の4番候補・石川昴弥(中日)指名のどちらかが本命視されたなか、佐々木を指名した。残念ながら今年も抽選で外しクジは5連敗まで伸びてしまった。

 19年も石井GMの意思が大きく反映したドラフトで、2年連続で1~2位が野手指名と積極性は感じるが、3位以降はあまりにも隠し球すぎる指名で納得できない。また、指名した投手3名はいずれも即戦力右腕で、不足している左腕の先発候補や将来のエース候補で高校生は抑えておきたいところだった。

 
1位~小深田大翔(大阪ガス内野手)0

 近大時代から1年秋にレギュラーを獲得し、4年間で107本のヒットを積み上げたヒットメーカーである。社会人でも1年目から遊撃のレギュラーになると、高いミート力で広角にヒットを量産した。

 打撃力以外にも50メートル5秒9の俊足に、内野ならどこでも守れるのが強みで、間違いなく社会人ナンバーワン野手で即戦力候補である。タイプ的には近本光司(阪神)よりも、広角に打てるミート力の巧さは川崎宗則(元ソフトバンク)に近い気がする。

 即戦力だがライバルは多い。指名された段階では小深田を遊撃にし、茂木の三塁コンバートが現実味を帯びたが、鈴木大の加入で乗り越える壁ははるかに高くなった。茂木は守備に、鈴木大は走塁に難があるため、打力をアピールしながらセールスポイントの守備走塁をアピールしたいところだ。

2位~黒川 史陽(智弁和歌山高・内野手)24

 まさにポスト浅村の一番手の期待を背負う選手だ。高校通算34本塁打の長打力も魅力だが、広角に打ち分ける打撃の巧さもある。1年から3年まで夏の甲子園は5季連続出場で、3年時には名門校で主将を務めたリーダーシップも魅力だ。

 高校生野手では西巻賢二(仙台育英高~17年⑥)以来、一軍キャンプスタートとなったが、まずは体力作りが先決。楽天の内・外野手は19歳~21歳が不在で、打撃では銀次や茂木、チームリーダーでは浅村と鈴木大とこれ以上ない手本となる選手がいるので、焦ることなく多くを吸収して将来の主軸を目指してほしい。

3位~津留崎大成(慶大・投手)52

 最速153キロのストレートと鋭く落ちるフォークが武器の剛速球右腕。高校時代に右肘の手術をしているが、大学で見事復活を果たし、昨秋の大学選手権で優勝の原動力になった。トレーニングに造詣が深いクレバーな選手だ。

 現段階では先発かリリーフか分からないが、先発はベテランが多く、20代前半で実績のある投手はいない。リリーフならクローザーの松井が先発へ転向し、実績のあるハーマンも移籍し、リリーフ陣に厚みを持たせたいので、どちらにもチャンスは十分にある。

4位~武藤 敦貴(都城東高・外野手)71

 まさに隠し球で、指名されたとき「ん、誰だ」と思い志望届のリストを確認したくらいだ。プロフィールには広角に打ち分ける打力と守備力にセンスが光ると書いてあるが、武藤には悪いが、正直4位でなくても獲得できた選手だと思う。1年からレギュラーでもほぼ無名の高校で、与えられた背番号も「71」と聞いたとき、本当に期待されているのかと思った。

 黒川同様、年齢的には空白の年代で問題ないが、左打ちの外野手は島内に田中、辰巳と渡邊佳もおりライバルは多く、まずはファームで頭角を表してほしい。

5位~福森 耀真(九産大・投手)49

 3年時151キロだったストレートの球速は、さらに154キロまで伸びた。3年時まではチームメイトの浦本千広のほうが評価が高かったが、4年春に3勝を上げWエースとして活躍した。

 しなやかな腕の振りからストレートを投げ込む本格派で、気迫を前面に押し出す投球に負けず嫌いもプロ向きで、ここまで聞くとエースの則本と姿が被る。同学年のライバルに負けない姿勢と、私生活では整理整頓を得意とする点もプロで成功する要素を兼ね備えている。順位以上に期待感を持たせてくれる選手だ。

6位~瀧中 瞭太(ホンダ鈴鹿・投手)57
 18年ドラフトでホンダ鈴鹿には、瀧中を含めて4~5名の候補者がいたが、まさかの指名漏れを味わった。本人もまさかの指名で驚いたようだが、今ドラフトでは同僚の柘植世那(西武)も指名され、一年遅れだがともに夢を掴んだ。

 最速153キロのストレートを軸に、カットボールを武器に奪三振の多い投手で、コーナーをつくコントロールとシュートで右打者の懐を抉る強気の投球も魅力だ。津留崎と同様に先発でもリリーフのどちらでもいける投手で、年齢的にも一年目から結果を残したいところだ。 

7位~水上  桂(明石商高・捕手)78

 公立校ながら昨年春・夏連続で4強に進出した原動力になった。U-18では5試合にスタメンマスクを被り経験を積んだ。当初は大学進学を表明していたが、ギリギリのところで一転プロ入りを表明し指名にこぎつけた。

 今ドラフトは捕手が豊作で、同じ甲子園組でも東妻純平(DeNA)、藤田健斗(阪神)、山瀬慎之介(巨人)、持丸泰輝(広島)がいるなか、U-18に選出されスタメンで起用されたのは、打撃力以上に堅実なリードが評価された。楽天には若い捕手が多いので、まずはデイフェンス面で結果を出し、レギュラー候補に名乗りを上げたい。

育成指名

 育成指名1位は、江川侑斗(大分高・捕手)で、7位の水上同様に守備力が魅力で、強肩強打で昨春のセンバツで評価を不動のものとした。

 2位の小峯新陸(鹿児島城西高・投手)は、140キロのストレートと多彩な変化球を操る長身投手で、ソフトバンクのお株を奪う九州の原石を3名も獲得した。

 3位は唯一の大学生で、山崎真彰(ハワイ大・内野手)を獲得し、内野ならどこでも守れるシュアな打撃が魅力で、ここも隠し球指名になった。

 指名最後の4位で澤野聖悠(誉高・内野手)は強肩の巧打者で俊足で、三拍子揃っているが、小深田に黒川、育成の山崎と全員左打でタイプも被り好みだ出た指名だ。

 

  最後に今オフのストーブリーグはロッテと並び活発だった。FAや移籍を合わせると結果ロッテとは4対3のトレードになった。

 実はドラフトでもロッテとの因縁は深く、ロッテとは5回1位指名で競合しているが、ともに外した清宮(日本ハム)を除いて全敗である。今年はシーズン開幕前からロッテとの対決は注目で、昨シーズンは熾烈なAクラス争いだったが、今年は優勝争いに変わる可能性が十分にある。