ドラフトを知ると野球がもっと楽しくなる

どのチームが「人」を育て強くなるのか

ソフトバンク~厚い選手層で球界の新盟主へ、ただ最近はドラフト不発気味

 豊富な資金力を背景に球界の新盟主となったソフトバンク。充実した練習施設に緻密なデータ分析をするスタッフ、三軍制でチームの底上げを行い、活躍した選手は高年俸で評価し、優勝するとオーナーが胴上げされる。フロントと現場の連携がしっかりとできており、暫くは低迷することが考えにくいチームだ。

 選手も1億円プレーヤーがゴロゴロいて、さぞかしFA選手を好待遇で獲得していると勘違いしている人もいるが、いやいやソフトバンクこそ育成のチームと言える。主力選手の指名順位を見てみたい。

 投手・千賀滉大(蒲郡高~10年育④)、捕手・甲斐拓也(楊志館高~10年育⑥)、一塁手内川聖一(横浜からFA)、二塁手・牧原大成(城北高~10年育⑤)、三塁手松田宣浩(亜大~05年大社希)、遊撃手・今宮健太(明豊高~09年①)、左翼手中村晃(帝京高~07年高③)、中堅手柳田悠岐(広島経済大~10年②)、右翼手・上林誠知(仙台育英高~13年④)と外国人選手を除いた陣容である。

 FAで獲得したのは内川のみで、ほかはすべて自前で育成した選手だ。特に千賀と甲斐、牧原は育成選手で、柳田やクローザーの森唯斗三菱自動車倉敷~13年②)も順位は2位だが、ドラフト時は無名選手で、全日本レベルの選手まで育成した手腕にはただただ驚くしかない。

 昨シーズンも新人王の高橋礼(専大~17年②)は4年時には調子を落とし、指名すら危ぶまれた投手で、侍ジャパンで一躍全国区になった韋駄天・周東佑京(東農大オホーツク~17年育②)も育成指名。まさにどこまで強さが続くのだろうと思う。

 

●ドラフトを育成の場として活用、チームに競争環境を生み出し圧倒的な強さを誇る

 あまり関係ないがホークスの歴史を振り返ってみたい。私は間もなく50歳になるが、私が子どもの頃、とにかく南海ホークスは弱かった。中学生くらいになり、かつては強豪チームだったと分かったときにも素直に信じることができなかった。

 73年に南海として最後の優勝を果たすと、その後78年から球団譲渡する88年まで最下位5回、5位が4回でチームの歴史に幕を下ろした。89年に福岡ダイエーホークスに変わっても負の歴史は変わらず、99年に優勝するまでBクラスは南海~ダイエーに跨り21年間も続いた。

 そのダイエーに変革をもたらせたのが、球界の寝業師と言われた根本陸夫で、93年に西武のフロントからダイエーの監督に就任するとドラフトでチームを作り変えた。93年には、その年のドラフトの目玉・小久保裕紀青学大~93年②)の争奪戦に勝利し逆指名を取りつけると、あえて小久保を2位にし、1位で渡辺秀一(神奈川大~93年①)を指名しアッと言わせた。

 翌94年は、駒大進学が確定的だった城島健司(別府大付高~94年①)を強行指名し獲得、翌年は斎藤和巳(南京都高~95年①)をエースに育て上げ、96年には王貞治監督の即戦力投手獲得の要望を押し切り、井口忠仁青学大~96年①)、松中信彦新日鉄君津~96年②)、柴原洋九州共立大~96年③)の野手を指名し、結果99年の優勝に結びついた。

 その後は、ダイエーの04年まで優勝4回うち日本一2回でBクラスはなし。05年にソフトバンクに変わってからは優勝6回で日本一も6回(うち2位からが2回)、Bクラスはわずかに2回と圧倒的な強さを誇っている。

 まさしくドラフトを育成の場として活用しており、不足している戦力を豊富な資金力でFAや外国人選手で補い、一芸に秀でた選手を育成選手で獲得し3軍制を敷くことでチーム内に競争原理を生んでいる。この姿勢こそが球界の新盟主と呼ばれる所以で、単にFA選手だけをかき集めているだけでは強くはなれないことを証明している。

【過去10年のドラフト1位指名選手

 10年① 山下 斐紹(習志野高・捕手)     高④大①社⓪(投手③野手②)

 11年① 武田 翔太(宮崎日大高・投手   高③大①社①(投手③野手②)

 12年③ 東浜  巨(亜大・投手)     高②大③社①(投手④野手②)

 13年④ 加治屋 蓮(JR九州・投手)   高①大⓪社③(投手③野手①)

 14年① 松本 裕樹(盛岡大付高・投手)  高④大①社⓪(投手③野手②)

 15年① 高橋 純平(県岐阜商高・投手)  高⑥大⓪社⓪(投手③野手③)

 16年② 田中 正義(創価大・投手)    高③大①社⓪(投手②野手②)

 17年① 吉住 晴斗(鶴岡東高・投手)   高③大②社⓪(投手④野手①)

 18年② 甲斐野 央(東洋大・投手)    高②大②社③(投手⑤野手②)

 19年② 佐藤 直樹(JR西日本・外野手) 高①大③社①(投手①野手④)

 

 ただ、ソフトバンクのドラフトも万全ではない。過去10年の1位指名選手を見ても「ん?」と思ったはずだ。主戦は武田と東浜のみで、昨シーズン甲斐野が活躍するまで芳しい結果は出ていない。

 加治屋は一昨年に中継ぎでブレイク、高橋純も昨シーズン中継ぎで3勝を上げた。ただ、2人とも期待されているのは中継ぎではないはずで、1年くらいの活躍では1位選手としては物足りない。松本は通算4勝、5球団競合の田中はケガで未勝利…というかまだ11試合しか登板機会がなく、選手層は確かに厚く主力になるのは容易ではないが、それにしても出てくるスピードが遅すぎる。

 ソフトバンクのここ10年の指名人数は59名は、阪神と並んでもっとも少ない。指名の割合は高校生が最も多く56%と半数を数える。大学生27%、社会人17%と育成主体ドラフトが際立っている。

 特に14年~17年は、将来の主力を見据えた高校生指名中心で、19名中16名が高校生指名である。もう一段スケールの大きいチームを目指した指名で、このこと自体を否定するつもりはないが、何事にもバランスは必要であまりに偏りすぎである。

 さらに残念ながら、この4年間に指名された高校生選手で主力選手は一人もおらず、投手では松本の4勝、野手は川瀬晃(大分商高~15年⑥)の12安打が最多で、30歳を超えた主力を脅かす選手の出現が望まれる。

 その反動ではないと思うが、18年~19年は大学生と社会人指名が多く、昨年は実に本多雄一三菱重工名古屋~05年大社⑤)以来となる社会人野手を14年振りに指名し、世代交代の遅れに危機感を持っていることを感じさせる指名となった。

 

●投打に主力を欠くも、ぶ厚い選手層で要所をカバーし3年連続日本一輝く

 昨シーズンは序盤から貯金を重ね首位を走っていたが、最後の最後で西武に抜かれシーズンは2位で終えた。かつてはポストシーズンで惜敗していたが、今は逆に短期決戦で無類の強さを見せ、CSのファーストステージ2戦目から破竹の10連勝で3年連続の日本一に輝いた。

 その躍進を支えたのが投手陣で、防御率3.63はリーグ1位。先発では千賀が13勝と最高防御率、高橋礼は12勝を上げ新人王に輝いた。大竹耕太郎(早大~17年育④)やミランダがローテーションを守り、後半戦は武田がリリーフから先発に復帰、ベテラン和田毅早大~02年自)も復活を果たした。

 圧巻は救援陣で、モイネロは60試合に登板して防御率1点台、森と嘉弥真新也(JX-ENEOS~11年⑤)、松田遼馬(波佐見高~11年⑤)も50試合に登板し、高橋純も中継ぎで結果を残した。圧巻はルーキー甲斐野で、チーム最多の65試合に登板し、侍ジャパンにも選出され大車輪の活躍を見せた。

 ただ、一昨年活躍した東浜は7試合、バンデンハークも3試合登板に留まった。ブルペン陣も石川柊太(創価大~13年育①)と岩嵜翔市船橋高~07年高①)が2試合、サファテは全休で、これだけ主力が離脱してもリーグ防御率1位とはまさに脱帽と言うしかない。

 攻撃陣も一昨年に続きチーム打率2位、本塁打1位で破壊力のある打線を維持できている。ちなみに一昨年大活躍した柳田はケガで38試合7本塁打、レギュラーで規定打席に達した中村と上林が不振に陥ったなかでも、投手陣と同じく打線も維持できた戦力の厚さは圧巻だった。

 実は打撃10傑には一人もおらず松田の.260が最高で、規定打席に達したのも甲斐と内川、デスパイネの4名で一昨年から1名減だが、今宮と牧原、グラシアルが400打席を超え、この7名でレギュラー陣を形成した。本塁打デスパイネの36本を筆頭に、松田が30本、グラシアルが28本と破壊力のある中軸を形成した。

 内野では明石健志山梨学院大付高~03年④)、外野には福田秀平(多摩大聖ケ丘高~06年高①)のスーパーサブが控え、代打では長谷川勇也専大~06年大社⑤)に左キラー川島慶三九州国際大~05年日大社③)、代走には足のスペシャリスト周東がおり、他球団では間違いなくレギュラーの控え選手が要所で活躍し、層の厚さを見せつけた。

 ただ、20代のレギュラーが甲斐と今宮、牧原に上林しかおらず、野手の世代交代は喫緊の課題だ。

 

●高校生主体から即戦力志向へシフト?野手の世代交代が喫緊の課題

 14年から続けた高校生主体の指名が実を結ばず、一昨年は大学生、社会人中心の指名になった。ただ、これはあくまで結果論で、本当に欲しかったのはポスト内川、松田であり、柳田に続く選手である。

 17年は清宮幸太郎日本ハム)と安田尚憲(ロッテ)、18年は小園海斗(広島)と辰巳涼介(楽天)、そして昨年は石川昴弥(中日)を外している。1位指名を見ても、ソフトバンクがどれだけ野手は欲しい分かる。昨年は結果、投手1名野手4名の指名になったが、積極性よりもむしろウィークポイントの改善に努めたドラフトになった。

 最後に直近10年のクジ運だが4勝9敗…ここ3年に限れば0勝6敗と完全に見放されている。

 
1位~佐藤 直樹(JR西日本・外野手)30

 夏くらいまでは単なるドラフト候補の一人だったが、昨年の都市対抗で活躍。ドラフト会議が近づくにつれ評価が急上昇し、社会人野手ナンバーワンの呼び声のなか1位指名になった。

 50メートル5秒8の俊足に遠投120メートルの強肩は既に一軍レベルで、打撃は中距離打者で、プロでは貴重な右打ちの俊足のリードオフマンタイプの選手だ。今年の外野陣は、グラシアルやバレンティンと守備に不安があるだけに、イニング後半で守備固めの出番は間違いなく増える。また、ソフトバンクは一番打者が決まっておらず好守でピンポイントの指名になった。

 報徳学園高から大学を経由せず社会人に進みは、高卒1年目からレギュラーを獲得した選手で、まだ成長過程で伸びしろも十分にある。まずはセールスポイントの守備と走塁で一軍に定着したい。

2位~海野 隆司(東海大・捕手)62

 大学生捕手が豊作だったなか、大学ナンバーワン捕手と呼ばれ、好守の完成度が高い即戦力。二塁送球タイム1.7秒の強肩は既にプロレベルで、国際大会ではトップレベルの大学生投手を好リードで牽引した。捕手の不足しているチームから1位単独指名もあると思っていたので、22番目に名前が呼ばれたのが意外だった。

 現状、正捕手の甲斐との控えの差が大きく、ベテランの高谷裕亮(白鷗大~06年大社③)も今年39歳になり、第二の捕手としての出番は早そうだ。受け継いだ背番号は、甲斐がつけていた番号で、ここに正捕手としての期待の高さが窺える。

3位~津森 宥紀(東北福祉大・投手)11

 海野の順位も意外だったが、津森も3位で獲得できるとは思わなかった。サイドスローから最速149キロのキレのあるストレートを投げ込み、そのストレートは浮き沈みする球筋で、分かっていても打てない魔球と呼ばれている。また、変化球も多彩で3年時には大学日本一の原動力になった。

 プロでは救援タイプで、ホークスは現状、右のブルペン陣は本格派が多く、変則の津森が加わることでさらに層が厚くなり、戦術も広がるため出番は多そうな気がする。力強いパ・リーグ打者相手にどのようなピッチングをするのか今から楽しみだ。

4位~小林 珠維(東海大札幌高・内野手)69

 恵まれた体格から投手としては最速151キロ、打者としては高校通算30本塁打を放ったまさに4番でエースのチームの大黒柱。投打にスケールの大きい選手で、プロではどちらで指名されるか注目していたが、遠投120メートルの強肩も活かし、ホークスはポスト松田の候補として野手指名した。

 野手の世代交代はこの間解消されていない課題で、スラッガーとしての期待値は当然高い。高校生の4位といえば、イチロー前田智徳中村紀洋の強打者を生み、道産子のスラッガー鈴木貴久以来おらず、私の地元選手だけに活躍を期待したい。

5位~柳町  達(慶大・内野手)32

 繰り返しで申し訳ないが、海野も津森に続き、柳町の5位指名も意外だった。高い身体能力を活かした走攻守3拍子揃った選手で、ミート力に優れ、東京6大学で通算100安打を超えたヒットメーカー。また、三塁のほかに外野も守れる典型的なリードオフマンタイプだ。

 佐藤、小林の段でも触れたが、野手の世代交代は喫緊の課題で、且つ強力打線を誇るが一番打者の牧原は出塁率が低く、周東も打撃が課題で、下位ながら柳町への期待値は高い。内外野守れるのも強みで、開幕一軍も十分に狙える。 

 育成指名
 育成指名1位は、石塚綜一郎(黒沢尻工高・捕手)で、捕手ながら投手として143キロ、打者では高校通算39本塁打、二塁送球タイム1.8秒の強肩で好守でセンスが光る。

 2位の大関友久(仙台大・投手)は、186センチの長身左腕でストレートには角度があり、変化球も多彩な将来性豊かな大型左腕。

 3位の伊藤大将(八戸学院光星高・内野手は、ヤクルト6位の武岡龍世と二遊間を組み、全国大会での実績は十分。走攻守に隙のないバランス型の選手だ。

 4位は勝連大稀(興南高・内野手で、オリックス1位の宮城大弥に続き同校からの指名になった。守備範囲が広く的確な送球で守備力に定評がある。

 続く5位の舟越秀虎(城北高・外野手)は、身体能力抜群の外野手で、陸上部にも勧誘された経験があるアスリート型。

 6位の荒木翔太(千原台高・内野手は、5位の舟越と同じ熊本県の高校からの指名になった。力強い打撃に脚力も備えている。

 育成最後の7位は、村上舜(山形中央高・投手)で、最速143キロのキレのあるストレートが武器の左腕で、昨夏はチームを県大会準優勝に導いた。

 

 本指名は即戦力と喫緊の課題である野手指名に集中し、育成は素質豊かな高校生6名を指名するなど、トータルバランスの取れたまずまずのドラフトになった。ただ、高校生に限っていえば、広島へ移籍した曽根海成(京都国際高~13年育③)以来、育成選手からの一軍出場はなく、高卒野手の輩出スピードを上げたいところだ。

 最後に、直近10年の12球団のドラフト戦略を読んでいただきありがとうございます。開幕まであと1月半、楽しみですね。