ドラフトを知ると野球がもっと楽しくなる

どのチームが「人」を育て強くなるのか

巨人~隠れた逸材よりも、必要なのはエースとスター候補

●スタートからの好調を維持し、交流戦以降は首位を独走し4年振りV

 アンチ巨人のファンが避けてほしいことの一つが、原辰徳監督の再々登板だった。いろいろと賛否はあるが、勝てる監督なのは間違いなく、就任1年目で4年振りのリーグ優勝に導いた。FAで丸佳浩を獲得したが、主力のマギーが退団しており、ほぼプラスマイナスゼロのなかでの優勝で、ただただその手腕を評価するほかない。

 チーム成績は投打に変わりがない。セ・リーグのチーム防御率が今年は高く、昨年より若干改善したにもかかわらずリーグ4位。得点力は丸の加入分、本塁打と盗塁が上乗せされたが、チーム打率は昨シーズンと全く同じだ。

 今年は開幕から好調を維持し、一時期3位に後退するも、6月半ばに首位に立つとそのまま独走体制でシーズンを終えた。昨年は得失点差プラスながら借金4の3位で、チグハグな戦いだったが、今年は得失点差のプラスをしっかり勝ち星に繋げた。

【2019年~チーム成績 ※( )は昨年の成績】

 防御率…3.77④(3.79①)打率….257②(.257④)

 本塁打…183①(152③)盗塁83②(61⑤)

 得点…663①(625③)失点573③(575①)得失点差+90(+50)

 

●主力の高齢化が近づいてきており、将来に不安を感じる陣容

 巨人の平均年齢は27.4歳やや高く、特に投手陣は27.7歳で、ヤクルトに次いで高い。その投手陣だが、エース菅野智之は不振に苦しみながらも11勝を上げ、山口俊が15勝で最多勝と最高勝率のタイトルを獲得した。さらにメルセデスと、昨年まで勝ち星のなかった15年1位の桜井俊貴がともに8勝を上げた。

 開幕当初はリリーフ陣が不安定で、終盤に逆転負けすることが多かったが、そのピンチを救ったのが中川皓太で、チーム最多の67試合登板で21セーブ、17ホールドで中継ぎ陣を支えた。中川以外で50試合登板を超えたのは、田口麗斗と高木京介のみで、状況や選手の調子に応じた起用で乗り切った。

 また、ベテランの大竹寛を後半から中継ぎで起用したり、昨年6位の高校生ルーキー戸郷翔征を、終盤の大事な試合で抜擢するなど、形に捉われない用兵が冴えた。

 野手は、坂本勇人と丸、若き主砲の岡本和真、ベテランの亀井善行規定打席をクリアしチームを支えた。特に坂本勇は打率こそ昨年を下回ったものの、40本塁打94打点はキャリアハイの成績だ。丸と岡本は、打撃成績(打率・本塁打数・打点)はすべて昨年を下回ったものの、ともに要所での活躍が光った。一方で亀井は昨年より打撃成績を上げ、37歳のベテランが奮起した。

 このほか大城卓三とゲレーロが300打席を超え、シーズン通して主力として結果を残した。捕手は大城のほかに、小林誠司とFA移籍の炭谷銀仁朗を併用し、内野手では若林晃弘に山本泰寛、外野で重信慎之介の若手中堅が出番を増やし経験を積んだ。

 出場試合数は少ないが、インパクトを残したのが山下航汰で、昨年健大高崎高から入団した育成1位指名の選手が、ファームで首位打者になり、支配下→一軍デビューと階段を駆け上がった。

 

【巨人の5年後の主力選手】

 投 手…菅野智之・田原誠次・高木京介鍵谷陽平宮國椋丞・桜井俊貴

     中川皓太・今村信貴・古川侑利・田口麗斗・高橋優貴

 捕 手…小林誠司・大城卓三

 内野手…山本泰寛・若林晃弘・田中俊太・吉川尚輝・岡本和真

 外野手…丸 佳浩・重信慎之介

 

 今シーズンの優勝と裏腹に、5年後は投打に心配だ…。実績があるのが菅野と田口しかおらず、先発の桜井、古川、高橋は実績に乏しい。戸郷や高田萌生、大江竜聖と楽しみな若手がいるのが救いだが、期待値のほうが高く先発の駒は不足している。救援陣も中川、鍵谷のほか2~3枚は足りない。

 野手も主力は丸と岡本のみで、来年は坂本勇が32歳、陽岱鋼33歳、亀井は38歳になる。大城と吉川尚は主力としての活躍が期待できるが、ほかはレギュラー候補というよりは控えで層を厚くする選手だ。

 毎年、補強ポイントに合致したFA選手がいるわけでもなく、外国人選手が当たるわけでもない。補強頼みではなく、ドラフトを軸にしたチーム編成に迫られている。

 

●今年は上位でエース候補と即戦力投手、ポスト坂本勇と亀井の獲得も必要

 巨人の5年後に心配材料が多いのは、直近5年のドラフトが酷すぎた…。15年は8名中5名が大学生と偏り、17年は社会人捕手を続けて指名するなど、8名指名して高校生は1名という極端な即戦力指名。すると昨年は一転して、6名中5名が高校生指名の育成路線になるなど、その場しのぎの指名が続いている。

 そうなると年齢バランスなどあったものではない。投手は30歳と25歳に6名いるが、28~29歳は移籍してきた鍵谷のみというバランスの悪さだ。

 野手も26歳に8名、24歳に4名と集中する反面、21~23歳は岡本しかいない。27歳~30歳の全盛期の選手も、ビヤヌエバを除く5名中3名が移籍組で、人数の少なさにも驚いたが、生え抜きの少なさにもっと驚いてしまった。

 

【巨人の補強ポイント】

 投 手…将来性のあるエース候補と即戦力投手(先発・中継ぎともに右腕)

 捕 手…将来のレギュラー候補

 内野手…二遊間を守れる即戦力または高校生スラッガー

 外野手…走攻守揃ったポスト亀井

 

 今年の1位指名は、佐々木朗希(大船渡高・投手)奥川恭伸(星稜高・内野手のどちらかになるだろう。ともに将来のエース候補であり、名門チームの顔になれるスター選手だが、常に注目されるのが宿命のチームだけに、個人的には奥川のほうが合っているような気がする。

 外した場合の1位指名は、一転して野手指名があるかもしれない。森敬斗(桐蔭学園高・内野手は外野も守れる俊足で、坂本勇の後継者になれる逸材。三塁手石川昴弥(東邦高・内野手スラッガーで、岡本と石川のクリーンアップは想像しただけでも楽しみだ。また、大学生捕手ナンバーワンと言われる海野隆司(東海大・捕手)は即戦力で、状況次第では打撃の良い大城を野手で使えるようになり、攻撃力が増す打線が組める。

 また、即戦力右腕では立野和明(東海理化・投手)太田龍JR東日本・投手)は、先発型のエース候補。クローザー候補で津森宥紀(東北福祉大・投手)は、巨人にはいない変則右腕で面白い存在になりそうだ。

 2位以降の上位指名では、1位で投手を獲れなかったのであれば、将来のエース候補で高校生なら井上広輝(日大三高・投手)浅田将汰(有明高・投手)落合秀市(和歌山東高・投手)は、多くの球団がマークするスケールの大きい選手だ。

 大学生で吉田大喜(日体大・投手)は、1位で消えてもおかしくない即戦力で、杉山晃基(創価大・投手)は、素質型のまだ伸びしろもある大器だ。

 野手の上位指名は、二遊間の即戦力に絞ったほうが良い。そうなると小深田大翔(大阪ガス)しか見当たらないが、小深田が遊撃に入れば、坂本勇を負担の少ない三塁に回すことも可能になる。

 4位以降の下位指名では、戦力が充実しているうちに年齢バランスを是正したい。投手なら大学生または高卒→社会人3年目がねらい目になる。大学生では、評価上昇中の伊勢大夢(明大・投手)、未完の大器型の望月大希(創価大・投手)北山比呂(日体大・投手)の下位指名も面白い。

 社会人なら、下位では難しいが浜屋将太(三菱日立パワーシステムズ・投手)、上背はないが最速152キロの小木田敦也(TDK・投手)は、間違いなくブルぺン陣を厚くする。

 捕手は高校生は必ず1名獲得したい。強肩の山瀬慎之介(星稜高・捕手)、強打の東妻純平(智弁和歌山高・捕手)、好守巧打の藤田健斗(中京学院大中京高・捕手)はレギュラー候補で、今年豊富な高校生捕手を逃す手はない。

 内野は二遊間の即戦力以外は必要ないが、ポスト坂本勇の候補で、後輩の武岡龍世(八戸学院光星高・内野手紅林弘太郎(駿河総合高・内野手が残っていれば獲得に動いても良い。

 ポスト亀井の外野手も、投手と同じで大学生または社会人高卒3年目を狙いたい。一番は宇草孔基(法大・外野手)柳町達(慶大・外野手)だが、間違いなく上位で消える選手で、スラッガー中村健人(慶大・外野手)や走攻守揃った菅田大介(奈良学園大・外野手)、打撃センスの光る船曳海(法大・外野手)は、下位でも獲得できるチャンスがある。

 社会人なら、走攻守揃ったスラッガー佐藤直樹JR西日本・外野手)は、数少ない高卒3年目の野手で、他球団からの評価も上がってきている。 

  

【巨人のドラフトを勝手にシミュレーション】

 1位…津森 宥紀(東北福祉大・投手)…右サイドスローのクローザー候補

 2位…小深田大翔(大阪ガス内野手)…二遊間を守る俊足の安打製造機

 3位…落合 秀市(和歌山東高・投手)…メジャーも注目するエース候補

 4位…伊勢 大夢(明大・投手)…安定感抜群で先発・中継ぎもこなす

 5位…山瀬慎之介(星稜高・捕手)…鉄砲肩が自慢の将来の正捕手候補

 6位…小木田敦也(TDK・投手)…キレのあるスライダーと多彩な変化球

 7位…菅田 大介(奈良学園大・外野手)…投手もこなす高い身体能力

 

 一昨年の清宮幸太郎日本ハム)、昨年の根尾昂(中日)と、競合を避けた単独指名から、有力選手に果敢に行く姿勢は評価できる。ただ、そのあとが良くない…地味だが実力のある大学生、化ければとんでもない選手になる超素質型の高校生指名など、スカウトの自己陶酔型の指名が目立つ。

 球界の盟主として、短長期的に立った王道のドラフトの展開すれば、毎年のようなFA選手の獲得や、「下手な鉄砲数打てば当たる」で、9人も外国人選手を抱える必要もなくなると思う。ただ、アンチ巨人ファンは、このまま迷走するドラフトを望んでいるのかもしれないが…(笑)