ドラフトを知ると野球がもっと楽しくなる

どのチームが「人」を育て強くなるのか

東北楽天~今年は地元有望選手が多数!期待と悩みの多いドラフト

●下馬評は高くなかったが、昨年の最下位から3位まで躍進

 今年はエースの則本昴大が開幕に間に合わず、昨年最下位だったこともあり、前評判は決して高くなかったが、序盤はソフトバンクと首位争いを繰り広げた。交流戦以降、連敗もあり順位を落としたが、後半は粘り強く戦い、ロッテとのCS争いを制して2年振りにCS進出を決めた。

 昨年、最下位に沈んだチームをシーズン途中から指揮を執り、今シーズン3位まで成績を上げた平石監督の手腕は素直に評価できる。決定ではないとは言え、CS争いの渦中の大事な時期に退任報道が出たのは意外だった。

 今年は投打ともにチームの成績が上がった。防御率と失点数は、ソフトバンクに次いでいずれもリーグ2番目の成績で、Wエース岸孝之と則本が長期間離脱したにも係わらず、この成績は改めて投手陣のレベルの高さを証明した。

 昨年、リーグ最下位だった課題の打撃陣も、チーム打率はソフトバンク日本ハムと並び同率2位、得点数も3位まで改善した。本塁打数は微増、盗塁数減少のなかで、この得点数は、チャンスに畳みかける粘り強い打線が機能したと言える。

 ただ、盗塁数の少なさは課題だ。昨年の69盗塁も少なかったが、今年はさらに減り48盗塁は、日本ハムを並びリーグ最少だ。機動力が身に付けば、さらに攻撃力が増し怖い打線になる。

【2019年~チーム成績 ※( )は昨年の成績】

 防御率…3.74②(3.78③)打率….251②(.241⑥)

 本塁打…141④(132④)盗塁48⑤(69⑥)

 得点…614③(520⑥)失点578②(583③)得失点差+36(▲63)

 

●新戦力の活躍が光ったが、ここ数年結果を出せていないドラフト上位選手

 楽天の平均年齢27.0歳は、12球団のちょうど真ん中で、投手27.1歳、野手26.9歳とバランスが取れている。

 今年は新加入の選手の活躍がチーム力の底上げになった。FAで獲得した浅村栄斗は、全試合に出場し、打率こそ.263で物足りないが、33本塁打92打点と結果を出した。新外国人のブラッシュも日本野球への順応を見せ、本塁打は浅村と同じ33本、打点95で破壊力のある中軸を形成できた。

 大卒ルーキーの活躍も外せない。1位の辰巳涼介(外野手)は打撃こそ課題を残したものの、高い守備力に加え、13盗塁はチーム1位で十分に期待に応えた。2位の太田光(捕手)も55試合にマスクを被り、6位の渡邊佳明(内野手)は得点圏打率が一時期5割を超るなど、チャンスに強い打撃を見せた。

 このほかに、チームリーダーの銀次が打率4位、島内宏明が10位に名を連ね、茂木栄五郎とウィーラーの6名(昨年4名)が規定打席に達した。誤算は昨年の新人王・田中和基の不振で、走れた選手だけにチーム盗塁数の減少に直結した。 

 投手陣では、美馬学規定投球回数をクリアし8勝、ケガから回復した石橋良太も8勝、辛島航が9勝を上げ、いずれも100イニングを超え先発の役割を果たし、岸と則本の穴を埋めた。

 楽天の強固な投手陣を形成しているのは、リーグ屈指の中継ぎ陣だ。クローザーの松井裕樹は、チーム最多の68試合に登板し、38セーブで最多セーブ。セットアッパーの森原康平も64試合登板で33ホールド、ベテランの青山浩二が62試合、ハーマンとブセニッツの両外国人も50試合登板を超えた。特に、松井と森原、ブセニッツは防御率が1点台で、質量ともに中継ぎ陣の厚さを見せつけた。

 ブセニッツは今年の新外国人選手で、在籍人数は少ないが、楽天の外国人選手のスカウトセンスの高さには脱帽する。

楽天の5年後の主力選手】

 投 手…則本昴大・辛島 航・森原康平・石橋良太・高梨雄平・近藤弘樹

     松井裕樹・藤平尚真

 捕 手…足立祐一・太田 光・堀内謙伍

 内野手…浅村栄斗・茂木栄五郎・渡邊佳明

 外野手…島内宏明・田中和基・和田 恋・辰巳涼介・オコエ瑠偉

 

 今年の成績とは裏腹に、5年後は投打に戦力不足が懸念される。とにかくドラフト1位選手が松井(13年)以外、ほとんど期待に応えられていない。投手では17年の近藤、16年の藤平、14年の安樂智大は、今シーズンいずれも登板数が10試合にも届かず未勝利で終わり、野手でも15年のオコエも打率.182で、今年も結果を残せなかった。

 1位だけではなく、2~3位の上位指名も同じで、16年の田中和、15年の茂木以外は戦力になり切れていない。

 投手では則本に続くエース候補だけではなく、先発の枚数が足りない。野手では内野手が不足し、スラッガーは浅村のみと、4番候補の育成も必要で課題が多い。直近5年のドラフトの低迷が、大きな影を落としそうで、投打に対策が急務だ。

  

●年齢バランスが悪く、なぜか偏るドラフト。育成と補強の二兎を追う

 将来的な戦力不足を懸念したが、年齢バランスも悪い。投手陣は23歳から30歳までは満遍なくいるが、19歳~22歳の育成期に投手が3名しかいない…これは12球団最小で、高校生投手の指名不足のツケが回ってくる可能性が高い。

 野手は27歳~30歳の全盛期世代に浅村と島内しかおらず、22歳~25歳の間に15名もいる反面、22歳以下は2名しかいない。さすがにバランスが悪すぎで、これを是正するだけでも暫くかかりそうで、ここ数年は育成と補強のどっちも優先する難しいドラフトを強いられそうだ。

楽天の補強ポイント】

 投 手…将来性のあるエース候補と即戦力の先発左腕

 捕 手…ポスト嶋の育成(太田と堀内のライバル)

 内野手…長打の打てる三塁または俊足の遊撃手

 外野手…長打または俊足の高校生

 

 順位予想の前に、今年も東北に逸材が並ぶ。令和の怪物・佐々木朗希(大船渡高)をはじめ、高校生では成長著しい堀田賢慎(青森山田高・投手)、大型捕手の石塚綜一郎(黒沢尻工高・捕手)渡部雅也(日大山形・捕手)、坂本2世の武岡龍世(八戸学院光星高・内野手がいる。

 即戦力でも津森宥紀(東北福祉大・投手)や東北出身の宮川哲(東芝・投手)郡司裕也(慶大・捕手)佐藤都志也(東洋大・捕手)と上位候補が並び、地元指名だけでも豪華なドラフトのなる。

 昨年、吉田輝星(日本ハム)の指名をスルーしたこともあり、地元の逸材・佐々木指名に行きたいが、戦力的には即戦力投手で行きたいのが本音だと思う。そうなると奥川恭伸(星稜高・投手)森下暢仁(明大・投手)を軸に、河野竜生(JFE西日本・投手)が候補になる。

 一方で野手の一本釣りの可能性もありだ。スラッガーでは三塁手石川昴弥(東邦高・内野手と外野手の井上広大(履正社高)は補強ポイントに合致する。また、森敬斗(桐蔭学園内野手は俊足の遊撃手で、森がレギュラーになれば、茂木を本職の三塁で使うことができる。

 2~3位では、投手では先発を任せられる即戦力、野手なら素質ある高校生を獲得したい。即戦力の先発投手では、太田龍JR東日本・投手)は伸びしろ十分のパワーピッチャー。大学生でも吉田大喜(日体大・投手)望月大希(創価大・投手)は、上位で確実に消える投手だ。また、左腕では坂本裕哉(立命大・投手)も上位候補で、ノーヒッターの橋本侑樹(大商大・投手)も高く評価している。

 野手では地元の武岡をはじめ、韮澤雄也(花咲徳栄内野手遠藤成(東海大相模高・内野手など、素質ある遊撃手を獲得したい。また、原澤健人(スバル・内野手片山勢三(パナソニック内野手は強打の三塁手中村健人(慶大・外野手)楽天が欲しいスラッガーだ。

 4位以降の中~下位は、高校生なら投手と長打力のあるスラッガー、即戦力なら捕手と俊足の野手がねらい目だ。

 高校生投手は、最低でも1名は毎年確保したいところで、地元の堀田に加え、左腕の玉村昇吾(丹生高・投手)米山魁斗(昌平高・投手)は実力も兼ね備えており、下位でも獲得のチャンスがある。また、白川恵翔(池田高・投手)翁長辰佳(日本文理大付高・投手)金城洸汰(北山高・投手)の素質型の指名も面白い。

 スラッガーでは、先述した石塚や菊田紘和(常総学院・外野手)が候補で、スラッガーではないが藤田健斗(中京学院大中京高・捕手)持丸泰輝(旭川大高・捕手)はともにリーダーシップが評価されており、ポスト嶋の可能性も秘めている。

 また、上野響平(京都国際高・内野手は堅実な守備が魅力の遊撃手、木下元秀(敦賀気比高・外野手)は走攻守揃った逸材で、年齢バランス的にも高卒の外野手は1名獲得しておきたい。

 即戦力の野手では、保坂淳介(NTT東日本・捕手)は長打力もある大型選手、同じ捕手の小林遼(JX-ENEOSは、地元仙台出身で、高い総合力が武器で、嶋と太田~堀内の間を埋める選手になる。

 内外野では、安本竜二(法大・内野手勝俣翔貴(国際武道大・内野手は、ともに強打の三塁手で、上位で三塁手を獲得できかった場合は、必ず抑えておきたい選手。また、稲垣誠也(日本通運内野手佐藤デシャーン広之(日本通運・外野手)はともに俊足の即戦力だ。

 

楽天のドラフトを勝手にシミュレーション】

 1位…石川 昴弥(東邦高・内野手)…U-18の打の主軸で将来の4番候補

 2位…吉田 大喜(日体大・投手)…キレのあるストレートが武器の本格派

 3位…武岡 龍世(八戸学院光星高・内野手)…3拍子揃った坂本2世

 4位…橋本 侑樹(大商大・投手)…先発・中継ぎのどちらでもいける実力派

 5位…堀田 賢慎(青森山田高・投手)…昨年から球速UPし150キロ右腕へ

 6位…保坂 淳介(NTT東日本・捕手)…一発が魅力の強肩大型捕手

 7位…菊田 紘和(常総学院高・外野手)…名門で4番を打つ将来の大器

 

 今年は上位候補に投手が多いが、昨年、藤原(ロッテ)→辰巳と野手で攻めた姿勢は評価できる。ただ、野手はすべて大学生で5人指名…そのうち太田を除いて4人が左打の巧打者タイプなど、なぜか偏りが多いのも事実。

 今回も勝手に予想した野手のうち、3人がスラッガータイプで偏ってしまい、改めてバランスは大事だな~と思った。有望な地元選手も含め、楽天がどのような指名を見せるか注目して見てみたい。