ドラフトを知ると野球がもっと楽しくなる

どのチームが「人」を育て強くなるのか

ソフトバンク~将来のエースと主力の後継者選びで失敗のできないドラフト

●リーグナンバー1の投手陣も、柳田の離脱が痛すぎで2年連続でV逸

 ここ数年、プロ野球の新盟主になったのがソフトバンクだ。ソフトバンクダイエーの後を受け、プロ野球に参入したのが2005年。それからの15シーズン、Aクラスは実に13回、うちリーグ優勝が5回、日本一が5回(18年は2位から)と、まさしく圧倒的な強さを誇っている。

 ただ、去年今年はやや陰りが見えた印象だ。昨年はオールスターまで5割キープがやっとで、夏場から猛追したが首位には届かず、西武に独走を許した。今年は逆に前半から好調で、独走体制に入っていたが、後半勢いにのれず西武に逆転Vを許してしまった。

 最大の要因は主力選手の長期離脱が続き、今年は投手なら先発の東浜巨とバンデンハーク、中継ぎ・抑えでは石川柊太に岩嵜翔、サファテが不在だった。

 野手でも、主力中の主力である柳田悠岐に、中村晃今宮健太、上林誠知のレギュラーが離脱した。さらに夏場に絶好調だったグラシアルまでも、母国キューバ代表として一時期戦列を離れ、今年も満足のいく陣容で臨めなかった。ただ、それでも2位になるのだから、選手層が本当に厚い。

 ソフトバンクと言えば強打のイメージがあるが、今年は投手力で勝ち抜いた。チーム打率と本塁打数は前年を下回り、盗塁は増えたものの得点力が大きく後退した。相手を圧倒する強さから、勝ち方を知っている試合巧者ぶりが目立った。

【2019年~チーム成績 ※( )は昨年の成績】

 防御率…3.63①(3.90④)打率….251②(.266②)

 本塁打…183①(202①)盗塁113③(80⑤)

 得点…582④(685②)失点564①(579②)得失点差+18(+106)

 

●質量ともに豊富な投手陣に比べ、野手は主力と控えの差が埋まらず

 ソフトバンクの平均年齢は27.3歳やや高く、投手陣は26.5歳と日本ハムに次いで若いが、打撃陣は28.1歳で、ロッテに次いで高い。

 まずはリーグナンバーワンの投手陣だが、エースの千賀滉大が若い先発陣を支えた。リーグ最多の180イニングで13勝、9/6のロッテ戦ではノーヒットノーランも記録、奪三振は両リーグでただ一人200を超え、227奪三振と圧巻の投球を見せた。サブマリンの高橋礼も、規定投球回数を投げ12勝。千賀と並びエース級の活躍を見せ、文句なしの新人王候補最右翼だ。

 救援陣は、クローザーの森唯斗が35セーブを上げ、モイネロと嘉弥真新也、松田遼馬が50試合以上に登板した。そのなかでチーム最多登板だったのは、ルーキーの甲斐野央で、65試合で28ホールドは主戦級の活躍だった。

 もう一人忘れてならないのが、15年1位の高橋純平の覚醒で、昨年まで通算1試合登板が、今年は45試合17ホールドを上げ、甲斐野と高橋純の活躍が、盤石の中継ぎ陣の維持に貢献した。

 一方で野手陣は、柳田の離脱が成績に直結した。昨年は打率.352で首位打者、36本塁打102打点のチーム三冠が、今年は38試合出場に留まり、7本塁打23打点で、柳田の存在の大きさを痛感したシーズンになった。

 そのなかでデスパイネが成績を上げ、ベテランの松田宣浩内川聖一、甲斐拓也が規定打席に達した。規定打席にわずかに不足したが、グラシアルは打率.319、28本塁打の好成績を上げた。このほか、今宮と牧原大成が400打席、明石健志が300打席を超え、シーズン通して主力として結果を残した。

 若手で目立ったのは、シーズン前に育成から支配下になった周東佑京。超がつく俊足で25盗塁、代走でコールされるだけで観客を湧かす選手にまで成長した。ただ、周東以外は今ひとつ若手が伸び切れておらず、これほど主力が離脱してもレギュラーを奪取した選手はいなかった。

 

ソフトバンクの5年後の主力選手】

 投 手…岩嵜 翔・嘉弥真新也・二保 旭・東浜 巨・加治屋蓮・石川柊太

     森 唯斗・武田翔太・千賀滉大・松田遼馬・高橋 礼・大竹耕太郎

     椎野 新・甲斐野央・高橋純

 捕 手…甲斐拓也・栗原陵矢

 内野手高田知季今宮健太・牧原大成

 外野手…中村 晃・福田秀平・釜元 豪・上林誠知・周東佑京

 

 投手陣に不安はない。千賀、東浜、武田の実績もある先発陣に、高橋礼や大竹が加わり質量ともに豊富だ。中継ぎ・抑えも、今年活躍した布陣に岩嵜や加治屋、石川が復調すれば、5年後も安泰だ。

 心配なのはケガ人の多さとドラフト上位投手の不振で、14年1位~松本裕樹は1勝、15年2位~小澤怜史は育成選手になり、16年1位~田中正義はわずかに1試合登板、2位~古谷優人と17年1位~吉住晴斗はファームでも結果を出せていない。

 野手はポスト〇〇が、あちこちで発生する。来季、内川は38歳、松田宣が37歳、柳田も32歳で後継者選びが喫緊の課題になる。さらに貴重な控えの、高谷裕亮が39歳、川島慶三37歳、長谷川勇也36歳と世代交代の波がすぐそこに来ている。

 現状、ポスト柳田には上林がいるが、内川と松田宣の後継者が見当たらない。直近5年、ソフトバンクの3位指名はすべて高校生野手で、今年の野村大樹(内野手)と17年の増田珠(内野手)はまだとやかく言う年数ではないが、16年~九鬼隆平と15年~谷川原健太(ともに捕手)は出てくる気配すらない。14年の古澤勝吾は育成になり、結果として、上林以降獲得した野手が、控えにすらなれておれず、選手層の厚さは認める一方で不安要素も大きい。

 

●今年はエース候補を上位で、ポスト内川、松田、柳田の後継者を指名したい

 年齢バランスは見事の一言で、投手・野手ともにバランス良く選手がいる。強いて言えば21歳が九鬼しかいないことだが、ここは次年度の大学生選手で補強できるので問題ない。

 昨年のドラフトは、1位で小園(広島・内野手)を外し、次に辰巳(楽天・外野手)も外し甲斐野を獲得した。2位で5年ぶりに社会人投手の杉山一樹を指名したかと思えば、4位で板東湧悟、7位で奥村政稔の社会人3投手指名もまた5年振りだった。野手の主力の後継者育成と、獲得した高校生投手の伸び悩みで、珍しく危機感を感じさせるドラフトだった。

 

ソフトバンクの補強ポイント】

 投 手…将来性のあるエース候補

 捕 手…甲斐のライバルになり得る控え

 内野手…遊撃手以外の後継者探し

 外野手…長打の打てるスラッガー

 

 今年の1位指名は、佐々木朗希(大船渡高・投手)で間違いないだろう。投手陣は、昨年の補強があるので、中途半端に中継ぎの枚数を増やし、戦力をだぶつかせるよりは、主力になる高校生を指名したほうが良い。今年、加入したMLBドラフト1位のスチュアートとともに、佐々木が切磋琢磨し、将来日米のWエースが誕生すれば、スケールの大きいチームになる。

 外れ1位でも高校生投手に行くべきで、西純矢(創志学園高・投手)井上広輝(日大三高・投手)、左腕で宮城大弥(興南高・投手)は、佐々木を外しても遜色ない指名になる。

 一方で、昨年のような野手指名もありだ。俊足の森敬斗(桐蔭学園高・内野手や、ポスト松田で石川昴弥(東邦高・内野手、ポスト柳田で井上広大(履正社高・外野手)、さらに打てる捕手の佐藤都志也(東洋大・捕手)も十分にあり得る。

 3位以降では、補強ポイント別に述べたいと思う。高校生投手ならエース候補で、前佑囲斗(津田学園・投手)浅田将汰(有明高・投手)落合秀市(和歌山東高・投手)は上位で消える逸材。左腕の井上温大(前橋商高・投手)米山魁乙(昌平高・投手)は、下位での指名になるがスケール感のある選手だ。

 また大学生でも、望月大希(創価大・投手)吉村貢司郎(国学院大・投手)北山比呂(日体大・投手)は、まさしく未完の大学生で下位指名も面白い。

 ポスト松田の三塁手では、大学生なら勝俣翔貴(国際武道大・内野手安本竜二(法大・内野手はともにスラッガーで、松田の後継者にピッタリだ。また、柳町達(慶大・外野手)は俊足の巧打者で、本職は外野だが三塁も守れる。

 社会人では走攻守揃った小深田大翔(大阪ガス内野手スラッガー原澤健人(スバル・内野手は即戦力指名もありだ。小深田は二遊間も守れ、原澤は一塁もOKで、高いレベルで複数ポジションをこなせる。

 ポスト柳田では、右打ちの中村健人(慶大・外野手)と、左打ちの加藤雅樹(早大・外野手)はともにスラッガーで、足は早くないがパンチ力が魅力の選手。長打力は落ちるが、宇草孔基(法大・外野手)は攻撃的な一番打者で、間違いなく上位で消える選手だ。社会人外野手は今年不作だが、ともにスラッガー佐藤直樹JR西日本・外野手)前野幹博(ヤマハ・外野手)の評価が上がっている。

 甲斐のライバル捕手は年齢バランスでは、大卒→社会人がベストで、坂淳介(NTT東日本・捕手)は長打力があり補強ポイントに合致する。

 下位や育成では、ソフトバンク得意の一芸に秀でた選手の指名が楽しみだ。地元九州の翁長佳辰(日本文理大付・投手)小峯新陸(鹿児島城西高・投手)はストレートに威力があり、川野涼多(九州学院高・内野手は俊足に加えパンチ力も備わってきた。

 ほかには粗削りだが、ストレートに力のある赤塚健利(中京学院大中京高・投手)、非凡な打撃センスが評価されている持丸泰輝(旭川大高・捕手)、打てる二塁手黒川史陽(智弁和歌山高・内野手、規格外の長距離砲・菊田紘和(常総学院高・外野手)もいる。

 大学生でもパワフルな打撃が売りの大下誠一郎(白鴎大内野手に、周東並みの俊足を誇る、チームメイトの金子莉久(白鴎大・外野手)。地元の快速右腕・福森耀真(九産大・投手)杉尾剛史(宮崎産経大・投手)も楽しみな原石だ。

  

ソフトバンクのドラフトを勝手にシミュレーション】

 1位…宮城 大弥(興南高・投手)…守備も巧く総合力の高い150キロ左腕

 2位…井上 広輝(日大三高・投手)…すべての球種が一級品のセンスの塊

 3位…勝俣 翔貴(国際武道大・内野手)…アベレージも残せる長距離砲

 4位…中村 健人(慶大・外野手)…飛距離が魅力の典型的なスラッガー

 5位…望月 大希(創価大・投手)…長身から投げ下ろす角度のある投球

 6位…前野 幹博(ヤマハ・外野手)…名門で覚醒した遅咲きスラッガー

 7位…川野 涼多(九州学院高・内野手)…俊足巧打のスイッチヒッター

 

 今年も補強テーマは変わらず、ポスト内川、松田、柳田の後継者を指名したい。また、昨年FAした浅村(楽天)獲得に手を上げたように、長年不在が続いている正二塁手候補も補強ポイントになる。

 ただ、今年は投手が豊富なので、野手の上位指名の可能性を残しつつ、確実に将来のエース候補を獲得したいところだ。千賀のメジャー挑戦希望や、福田のFAなどの主力流失の可能性もあり、例年以上に失敗できないドラフトになる。