ドラフトを知ると野球がもっと楽しくなる

どのチームが「人」を育て強くなるのか

22年戦力展望☆巨人~ドラフトの低迷もあり不安が残る投手陣…若手の台頭が待ち遠しい

 屈辱的な日本シリーズ2年連続0勝で、昨季は日本一奪回に向け、オフは得意の積極的な補強を行った。DeNAから井納翔一(NTT東日本~12年D③)と梶谷隆幸(開星高~06年横③)をFAで両獲りすると、メジャー通算196本塁打のスモークと、韓国プロ野球で40本塁打40盗塁のテームズを獲得。賛否はあったが、シーズン途中に日本ハムから中田翔大阪桐蔭高~07年日①)をも獲得した。

 しかし結果は借金1の3位で終了し、Bクラス転落の危機すらあった。何とかCSファイナルステージまでこぎつけたが、ヤクルトに一矢も報いることができず敗退した。

 シーズンを振り返るとスタートは良く、前半戦も主力の離脱はあったが、貯金10で後半戦に入ると8月末には首位に立っている。しかし、9月に入ると歯車が狂いだし、阪神との首位攻防戦で2敗1分で首位から落ちると、その後は5連敗、10連敗と大きな連敗があり優勝争いから脱落した。

 冒頭に述べた新戦力は、井納は僅か5試合(5回)の登板で0勝、DeNA時代からしょっちゅうケガをしていた梶谷も不安が的中し、7月以降は出番なしに終わった。スモークは途中退団、テームズはデビュー戦でアキレス腱を断裂して1試合で退団した。毒にも薬にもなると言われた中田の獲得も起爆剤にはならず、CSの最終打席で力のない代打三振を喫した姿にかつての面影はなかった。

 終盤戦は連敗続きで、補強の失敗や、矢継ぎ早に投手を変えるマシンガン継投など、全権監督として原監督へファンから批判が集中。若手の台頭など、明るいニュースも少なく、成績以上に何とも後味の悪いシーズンになってしまった。

【過去5年のチーム成績】

    順位   勝敗       打率 本塁打  盗塁   得点 防御率 失点 

 21年 3位 61勝62敗20分 .242  169本   65個  552点  3.63  541点

 20年 1位 67勝45敗  8分 .255  135本   80個  532点  3.34  421点 

 19年 1位 77勝64敗  2分 .257  183本   83個  663点  3.77  573点

 18年 3位 67勝71敗  5分 .257  152本   61個  625点  3.79  575点

 17年 4位 72勝68敗  3分 .249  113本   56個  536点  3.31  504点  

【過去5年のドラフトの主戦力】 

 20年~なし

 19年~なし

 18年~高橋優貴(投手~八戸学院大①)戸郷翔征(投手~聖心ウルスラ高⑥)

 17年~大城卓三(捕手~NTT西日本③)

 16年~なし 

 ドラフトはとにかく酷い…。多少、ひいき目に見ても戦力になっているのは吉川尚輝(中京学院大~16年①)と松原聖弥(明星大~16年育⑤)しかいない。19~20年で13名指名しているが、一軍に出場したのは平内龍太(亜大~20年①)の3試合(0勝)と秋広優人(二松学舎大高~20年⑤)の1打席(無安打)だけで、あとは全員一度も一軍の出場すらなく、ここ2年間のドラフトは、戦力として全く機能していない。まさに背筋が凍る思いだが、その危機感が巨人には圧倒的に不足している。

 育成選手も16年~20年で34名指名しているが、戦力になっているのは松原だけで、投手で支配下になったのは4名で0勝、野手も松原のほか4名いるが、退団した山下航汰(健大高崎高~18年育①)の2安打のみで、とても成功しているとはお世辞にも言えない。

 ドラフトの1位入札で、クジが12連敗と気の毒な部分はあるが、巨人の1位指名を見てみると、高橋こそ主力になっているが、未完の大学生が多く、チームの編成やスカウトのエゴみたいのを感じる。昨年も扇田大勢(関西国際大~21年①)を1位指名したが、悪いが2位以下でも獲れた選手。1位で隅田知一郎(西武)を指名したのなら、同じ左腕で山下輝(ヤクルト)や佐藤隼輔(西武)も残っていたし、即戦力重視なら廣畑敦也(ロッテ)、将来性で森木大智(阪神)なら納得もできたが…。

 その大勢も、チームは先発起用を明言しているが、本人は指名後の会見で「中継ぎや抑えを任される投手になりたい」と述べるなど、チグハグな面が目立ち、ドラフト戦略を根本的に見直す必要があると思う。

●投手陣~エースは誰に?脆弱な先発陣と疲労が心配なリリーフ陣で不安要素が多い

 昨季は9月より先発陣を中4~5日のローテーションに切り替えたものの、思うような成果は出なかった。11勝を上げた高橋も9月以降は1勝のみで、チーム最多投球回数の戸郷も9勝のうち8勝は前半戦の勝ち星、不振で2軍落ちも経験している。

 エースの菅野智之東海大~12年①)も故障頻発で、ここ数年はシーズンを完走できず昨年も6勝で終えた。MLBで結果を残せずチームに復帰した山口俊(柳ケ浦高~05年横①)も2勝と、ここぞという大事なゲームを任せられる柱が不足した。

 先発陣が脆弱なうえに、中4~5日のローテーションでは完投そもそもが頭になく、しわ寄せは当然リリーフ陣に寄る。鍵谷陽平(中大~12年日③)を筆頭に、中川晧太(東海大~15年⑦)に高梨雄平(JX-ENEOS~16年楽⑨)、畠世周(近大~16年②)とクローザーのビエイラの5選手が50試合以上に登板している。左のワンポイントの大江竜聖(二松学舎大高~16年⑥)、デラロサも40試合以上に登板し、さすがに勤続疲労が心配だ。

 こういった状況のなかでも、若手の底上げはほぼなく、戸根千秋(日大~14年②)や桜井俊貴(立命大~15年①)など、いつもの名前が並ぶ。また、田中豊樹(日本文理大~15年日⑤)などは昨年39試合に登板したが、オフには育成契約である。投手陣の層が決して厚くないにも係わらず、正直、何を考えているのか理解できない。

【21年シーズン結果】※☆は規定投球回数クリア

 ・先発…☆戸郷翔征(151回2/3)☆高橋優貴(140回2/3)菅野智之(115回2/3)

     メルセデス(86回)山口 俊(78回1/3)サンチェス(73回)

     今村信貴(63回)

 ・救援…鍵谷陽平(59試合)中川晧太(58試合)ビエイラ(56試合)

       高梨雄平(55試合)畠 世周(52試合)大江竜聖(47試合)

     デラロサ(46試合) 田中豊樹(39試合)

【今年度の予想】

 ・先発…山口 俊 菅野智之 戸郷翔征 メルセデス 高橋優貴

       平内龍太 ※大勢 山﨑伊織 今村信貴 ※山田龍聖 ※アンドリース 

     ※赤星優志 戸田懐生   

 ・中継…デラロサ 鍵谷陽平 中川晧太 畠 世周 高梨雄平 大江竜聖     

       桜井俊貴 戸根千秋 高木京介 

 ・抑え…ビエイラ

 一言でいえば、今季は絶対的なエースがいない。菅野が投手陣の柱なのは間違いないが、ここ数年はケガで満足のいくシーズンがなく、フル稼働を期待するのは酷だ。

 数字だけ見れば高橋と戸郷が先発ローテーション当確で、2人ともエース候補なのだが、ともにキャンプでの評価が芳しくない。高橋は課題の制球難は克服されておらず、戸郷も相変わらずアバウトな投球でローテーション入りは明言されていない。今村信貴(太成学院高~11年②)も昨季は防御率2点台と、数字を見れば悪くないのだが、ベンチからの信頼は今一つで、今年もローテーション争いから始まる。

 既に菅野が開幕投手に内定しており、山口とメルセデスまでは決まりになる。残り2枠を若手と新戦力が争う。新外国人のアンドリースはMLB28勝、制球力の良い技巧派右腕で、まだ来日できていないが日本の野球にフィットしそうな気がする。

 平内や山﨑伊織(東海大~20年②)、戸田懐生(四国IL徳島~20年育⑦)の若手に期待する声が多いが、申し訳ないが実績はゼロに近く、山﨑はルーキーイヤーをリハビリに費やしており今年が実質デビューになる。あとはルーキーの大勢と赤星優志(日大~21年③)等が候補で、ここから一気に何人もブレイクすることは考えにくく、先発陣の薄さは危機的状況と言える。今季も中4~5日ローテーションになるようだが、裏を返せば6人揃わないからだと思ってしまう。

 リリーフ陣も枚数は少ない。鍵谷や中川、高梨など主力は明らかに登板過多で、昨年は東京オリンピックの変則日程でオフの期間が短く、疲労がどこまで回復できているか微妙だ。ましてや今季は延長12回制で、昨年のようなマシンガン継投は出来ない。先発ローテーションから外れた若手を育成しながら起用する形になる。

 そのなかでクローザーのビエイラは注目だ。NPB最速の166キロに、変化球の精度も増して昨年7~8月は月間MVPにも輝いている。まだ29歳と若く、今季はクローザーとして素質が完全開花するかも知れず、どのようにビエイラまで繋ぐかがポイントになる。

 最後に育成契約選手の支配下も急ぐ必要があると思う。故障が癒え先発テストされている堀田賢慎(青森山田高~19年①)をはじめ、横川凱(大阪桐蔭高~18年④)も期待の若手左腕、実績のある田中やオリックスから加入した鈴木優(雪谷高~15年オ⑨)など支配下枠には余裕があり、投手陣が課題なだけに早めの対応が必要だと思うが…。 

 野手陣~今季は一発頼みではなく繋がりのある打線へ、守備は捕手がカギを握る

 昨年は本塁打こそリーグ1位の169本だが、打率.242はリーグ5位と奮わず、盗塁数もリーグ4位で、一発頼みの大味な打線になり得点数もリーグ4位に沈んだ。

 新戦力がことごとく機能しないなか、やはり頼りになったのは主力で、岡本和真(智弁学園高~14年①)が2年連続で本塁打王打点王に輝き、4番として全試合出場を果たした。坂本勇人光星学院高~06年高①)は骨折で、丸佳浩(千葉経大高~07年高③)も不振で離脱期間もあったが、終わってみれば最低限の数字は残した。ウィーラーも安定した数字を残し、毎年当てつけのように新外国人が入団するなか、やはり頼りになったのはウィーラーだった。

 また松原は、巨人として育成選手初の規定打席をクリアし、27試合連続安打を記録するなどでブレイク。12本塁打とパンチ力も見せ、走ってはチーム最多の15盗塁でリードオフマンの役割を十分に果たした。

【21年シーズン結果(試合数/打席数)】☆は規定打席クリア ※は新加入

 捕 手…大城卓三(125/386)炭谷銀仁朗(51/124)田中貴也(43/38)

 内野手…☆岡本和真(143/592)☆坂本勇人(177/487)吉川尚輝(108/329)

       若林基弘(96/242)中島宏之(81/195)廣岡大志(78/117)

     中田 翔(34/106)北村拓己(53/103)

 外野手…☆松原聖弥(135/477)☆丸 佳浩(118/457)☆ウィーラー(121/427)    

     梶谷隆幸(61/246)亀井善行(92/206)スモーク(34/125)   

【昨年の開幕時スタメン】 【昨年の基本オーダー】  

  1)梶谷隆幸⑨      1)松原聖弥⑨      

  2)若林基弘④         2坂本勇人⑥       

  3)坂本勇人⑥           3)丸 佳浩⑧    

  4)岡本和真⑤      4)岡本和真⑤     

  5)丸 佳浩⑧      5)スモーク③     

  6)ウィーラー③     6)ウィーラー⑦      

  7)大城卓三②      7)大城卓三②      

  8)松原聖弥⑦      8)吉川尚輝④

  9)菅野智之①      9)戸郷翔征①  

【今シーズンの開幕一軍候補】

 捕 手…小林誠司 大城卓三 岸田行倫(山瀬慎之助) 

 内野手…増田大輝 吉川尚輝 中島宏之 坂本勇人 中田 翔 岡本和真 廣岡大志

       若林基弘 ウィーラー(湯浅 大 中山礼都 北村拓己 秋広優人) 

 外野手…丸 佳浩 松原聖弥 梶谷隆幸 ※ポランコ 

    (石川慎吾 ※岡田悠希 重信慎之介 ※ウォーカー 八百板卓丸)  

【今シーズン予想~打順】  【今シーズン予想~守備】

  1)松原聖弥⑨      捕 手)大城卓三(岸田行倫) 

  2)坂本勇人⑥      一塁手)中田 翔(北村拓己)

  3)丸 佳浩⑧      二塁手)吉川尚輝(若林基弘)

  4)岡本和真⑤      三塁手)岡本和真

  5)中田 翔③      遊撃手)坂本勇人

  6)ウィーラー⑦     左翼手)ウィーラー(ポランコ)

  7)大城卓三②         中堅手)丸 佳浩

  8)吉川尚輝④      右翼手)松原聖弥(梶谷隆幸

  9)菅野智之①  

 今季は捕手がカギを握る。大城は打撃は良いが守備とリードに課題があり、小林誠司日本生命~13年①)は逆に守備力は高いが打撃がサッパリだ。3割までとは言わないが、せめて2割5分くらい打ってくれれば、大城を一塁や外野で起用できるのだが…。強肩の山瀬慎之助(星稜高~19年⑤)の評価が上がっているが、打撃は発展途上でレギュラーはまだ厳しい。こうなると何故、炭谷(楽天)を放出したのか不思議だ。

 内野は三塁の岡本と、遊撃の坂本が決まりで、一塁は実績のある中田と中島宏之(伊丹北高~00年西⑤)にウィーラーも控えており、調子を見ての起用になる。二塁は吉川がいるが、今季も「ケガがなければ」が条件になり、スイッチヒッターの若林基弘(JX-ENEOS~17年⑥)や打撃に定評のある北村拓己(亜大~17年④))にもチャンスはある。

 本来であれば坂本は年齢的にも負担の少ない三塁で起用し、岡本が一塁に回る布陣が理想で、廣岡大志(智弁学園高~15年ヤ②)や中山礼都(中京大中京高~20年③)は坂本を脅かす活躍に期待したい。

 外野は中堅の丸は決まりで、右翼は松原と梶谷の争いになるが、個人的には余程のことがない限り松原で行って欲しい。左翼はウィーラーと新外国人のポランコ、ウォーカーの助っ人枠になる。

 ポランコはMLB96本塁打の大砲で、昨季も107試合に出場し、足も早くメジャーでは98盗塁も記録している。ウォーカーはメジャー経験はないものの、米独立リーグで2年連続MVPを獲得し、長打力と走力を兼ね備えており、未知数ながら日本野球にフィットして大化けする可能性もある。

 打順でカギを握るのは1番と5番で、松原と梶谷はともに出塁率を上げたい。坂本~丸~岡本と続く2~4番は不動のオーダーと言え、5番が機能すれば気の抜けない打線になり、実績のある中田やポランコが候補になる。今季は投手陣に不安があるだけに、求めれるのは打ち勝つ野球で、超攻撃型オーダーで良いと思う。一方で長打力頼みの一発打線ではなく、湯浅大(健大高崎高~17年⑧)や増田大輝(四国IK徳島~15年育①)は代走のスペシャリスト、小技が使える重信慎之介(早大~15年②)など適材適所の起用法もポイントになると思う。

優勝を狙うには先発投手陣の整備が必要。今季は打ち勝つ野球で優勝を狙う

 今年注目の選手では、投手は山﨑伊織に注目している。大学4年時に肘の手術を受けたなか、ドラフト指名され昨年1年間はリハビリに充てた。肘の故障さえなければ1位競合もあった逸材で、キャンプでも問題なく投げており、今季いきなりローテーションに入ることも夢ではない。

 野手は中山礼都で、これまで坂本の牙城だった遊撃に、坂本にとって代わりそうな若手有望株が出てきた。ファームでは規定打席未達ながら3割を打っており、あとは守備で信頼を勝ち取りたい。まずは与えられた場面でしっかり結果を残していくシーズンになる。

 今季の順位予想は、正直優勝は厳しいかなと思う。打線は良いが、打線は水物で計算できない。やはり投手力が不安でで、特に先発陣は見劣りしてしまう。今季のセ・リーグは本命なしの混戦模様で、優勝もBクラスの可能性もある。