ドラフトを知ると野球がもっと楽しくなる

どのチームが「人」を育て強くなるのか

23年ドラフト中間報告~要チェックの50人

 ペナントレースもいよいよ後半戦に入り、今日から甲子園も始まります。ドラフトまであと2ケ月になり、各チームとも候補者を絞り込んできている。

 今年のドラフトは大学生投手を中心に豊作と言われ、89年(平成元年)に匹敵するほどの大豊作とも言われている。その89年は野茂英雄近鉄)に8球団が競合し、野茂以外のドラフト1位でも佐々岡真司(広島)に与田剛(中日)、潮崎哲也(西武)、西村龍次(ヤクルト)、葛西稔阪神)、佐々木主浩(大洋)、小宮山悟(ロッテ)といった錚々たるメンバーが揃い、佐藤和弘オリックス)のような記憶に残る選手もいた。

 2位以下でも古田敦也(ヤクルト2位)に前田智徳(広島4位)、新庄剛志阪神5位)など一時代を築いた選手のほかに石井浩郎近鉄3位)や岩本勉日本ハム2位)もチームの主力として活躍し、宮地克彦(西武4位)に馬場敏史ダイエー5位)、種田仁(中日6位)は移籍を経て主力として活躍する選手もいた。

 そんな89年匹敵するほどのドラフトと言われれば、今から楽しみでしかない。昨年は実に9球団が事前に1位を公表する異例の形になり、競合したのは浅野翔吾(巨人※阪神と競合)と荘司康誠(楽天※ロッテと競合)のみと、不作と評されても致し方ないドラフトだったが、今年は現時点で1位候補がズラリと並んでおり、ドラフトまであと3ケ月を切りこちらかも目を離せない。

セ・リーグ

 ①ヤクルト…投)即戦力の先発/クローザー 野)ポスト山田の内野手/高校生外野手

 ②DeNA…投)将来のエース候補 野)即戦力の二遊間/将来性のある高校生外野手

 ③阪 神 …投)クローザー候補 野)即戦力の二遊間/右打ちの内野手 

 ④巨 人 …投)将来のエース候補、即戦力の先発/クローザー 野)即戦力捕手

 ⑤広 島 …投)即戦力のリリーフ 野)即戦力スラッガー、将来の4番候補

 ⑥中 日 …投)将来のエース候補、即戦力リリーフ 野)ポスト大島の巧打者

パ・リーグ

 ①オリックス  …投)将来のエース候補、即戦力左腕 野)正捕手候補、将来の4番候補 

 ②ソフトバンク …投)即戦力の先発(複数) 野)即戦力及び将来性のあるスラッガー

 ③西 武 …投)クローザー候補 野)即戦力捕手と外野手、将来の二遊間候補

 ④楽 天 …投)高校生は必須、即戦力リリーフ 野)一塁を除く内野手

 ⑤ロッテ …投)先発候補(高校生/即戦力)野)将来の4番候補、高校生内野手

 ⑥日本ハム…投)即戦力の先発 野)二遊間候補(即戦力も)、高校生外野手

 

●大豊作とも言われる今年は競合必至の逸材が揃う

 現段階で1位競合が予想されるのは、①細野晴希(東洋大・投手)に②常広羽也斗(青学大・投手)、③西舘勇陽(中大)、④上田大河(大商大・投手)の大学生投手に、高校生では⑤前田悠伍(大阪桐蔭高・投手)と⑥東松快征(享栄高・投手)の両左腕。野手では⑦佐々木麟太郎(花巻東高・内野手に⑧度会隆輝(ENEOS・外野手)を複数のチームが1位候補に名前を挙げている。

 このなかでも評価が頭一つ抜けているのが、即戦力の細野と常広、前田と東松の両左腕、そして高校通算140本塁打の佐々木だ。

 最速155キロ左腕の細野は、制球力に課題を残すも奪三振率が高く、豊作と言われている大学生投手になかでも中心を担う逸材。大学選手権で青学大を18年振りの優勝に導いた常広は、決勝で明大を完封しMVPに輝き大舞台での強さもアピールできた。

 即戦力投手はどの球団も欲しいが、そのなかでも先発の層を厚くしたいヤクルトや巨人、広島にソフトバンク、主力投手のFA移籍が噂される日本ハムは欲しい選手だ。

 世代ナンバーワンの呼び声が高い前田は、最速148キロに多彩な変化球で投球術に長け安定感が高い。東松は大きな体から152キロを投げるパワーピッチャーでスタミナもある。ともに県大会予選で敗れ甲子園で見ることは叶わないが、素質の高さは一級品で、投手陣が充実しているオリックス、世代交代を進めるDeNAや楽天もピッタリで、打撃が課題とは言え、地元の中日も東松は外せない選手になる。

 高校通算最多の本塁打数140本を放っている佐々木は将来の4番候補で、111本打った清宮(日本ハム)が7球団競合だったので、それを上回る実績を残している。一方で故障が多く、守備も一塁のみ、ストレートへの対応力など課題が多く、ここにきて大学進学の声も聞こ始めた。ただ、それを差し引いても天性のスラッガーであることに変わりはなく、打撃が課題の西武やロッテ、阪神は是非とも欲しい選手だ。

 このほか、ともに右の本格派の西舘と上田は完成度が高く、西舘はクイックモーションに長け、常時150キロのストレートと鋭いスプリットが武器。上田はストレートで押すだけではなく、変化球を駆使して打ち取る投球もでき、リリーフの素養もある。

 高卒3年目の度会は、横浜高時代にもドラフト上位候補として名前が挙がっていたが、まさかの指名漏れになり、早い段階でのプロを目指し大学ではなく社会人へ進んだ。高校時代はリードオフマンタイプだったが、勝負強さと長打力を兼ね備えた安打製造機で、社会人で中距離打者に成長した。

 

●高校生~左腕3人衆は不在も、佐々木、真鍋、佐倉の左のスラッガーが競う甲子園

 高校生投手では、⑨坂井陽翔(滝川二高・投手)も前田と東松に並ぶ1位候補として評価が高い。186センチの長身から角度のある質の高いストレートとキレのある変化球が武器の右の本格派で上位指名は間違いない逸材。

 坂井に次いで評価が高いのは、いずれも右の本格派の木村優人(霞ヶ浦高・投手)⑪日富直喜(東海大菅生高・投手)、⑫平野大地(専大松戸高・投手)で、木村は力感のないフォームからスピンの利いたストレートは150キロに到達し、変化球も多彩で奪三振率が高い。日富は100キロの堂々の体躯から150キロのストレートとフォークが武器で、力と技を兼ね備えた選手でスタミナもある。

 このなかで、唯一甲子園で見られるのは平野で、今年のセンバツで完封勝利を上げ大舞台での強さも見せた。今夏の県予選では本調子には程遠かったが、甲子園での活躍が期待される。

 平野と同じ千葉には早坂響(幕張総合高・投手)という逸材もいる。平野は高校入学時に投手に転向したが、早坂は昨年までは捕手だったが、投手転向1年でドラフト候補になった選手で、投手としての課題は多々あるが150キロを投げる原石で、将来性ではまさにピカイチの選手と言える。

 このほか、身長192センチの大型右腕の⑭篠崎国忠(修徳高・投手)は、大型投手にありがちな粗さがなくゲームメークに長けている。センバツで好投した⑮升田早人(光高・投手)は、抜群の制球力で得意のスライダーを低めに集める投球術に長けた技巧派。惜しくも県大会決勝で敗れたが、⑯杉原望来(京都国際高・投手)も安定感のある投球が身上で、前田や東松を逃したチームが次に狙ってくる左腕の一人だ。

 佐々木と並ぶスラッガーでは、⑰真鍋慧(広陵高・内野手⑱佐倉侠史朗(九州国際大高・内野手にも注目だ。「広陵ボンズ」の異名を称される真鍋は、率も残せる長距離砲で、豪快なスイング以上にコンタクトに長けている。佐倉は本塁打数こそ佐々木や真鍋に及ばないが、大事なところで結果を残す勝負強さは特筆できる。3選手とも左打ちの一塁手で、今夏の甲子園にも出場しており、誰が主役になるかも注目したい。

 投手と野手の二刀流選手では、⑲武田陸玖(山形中央高・投手)⑳明瀬諒介(鹿児島城西高・外野手)が面白い。武田は、前田と東松と並ぶ超高校級左腕と評されていたが、小柄ながらシャープなスイングから鋭い当たりを量産し野手としての評価が高い。明瀬も152キロを投げる本格派だが、スケール感のある右のスラッガーで、逆方向に打てるパワーが魅力でともに野手としての指名の可能性が高い。

 最後に、捕手の2人を紹介したい。世代ナンバーワン捕手の呼び声高い㉑堀柊那(報徳学園高・捕手)は、二塁送球1秒8の強肩に加え、50メートル6秒台の俊足で走攻守兼ね備えている。㉒鈴木叶(常葉菊川高・捕手)も二塁送球が2秒を切る強肩だが、それ以上に評価されているのがブロッキングインサイドワークなど捕手としての基礎力の高さで、ともに将来の正捕手候補として楽しみな選手だ。

【今夏、甲子園出場のドラフト注目選手】

 投 手…熊谷陽輝(北海高)高橋煌稀・仁田陽翔・湯田統真(仙台育英高)

       平野大地(専大松戸高)近藤愛斗(浜松開誠館高)武内涼太(星稜高)

       山田渓太(大垣日大高)福田幸之助(履正社高)倉重 聡(広陵高)

       森 煌誠(徳島商高)森山 塁(明豊高)玉木綾真(東海大星翔高)

       黒木陽琉(神村学園高)東恩納蒼(沖縄尚学高)

 捕 手…尾形樹人(仙台育英高)高良鷹二郎(智弁学園高)坂根葉矢斗(履正社高)

 内野手…中沢恒貴(八戸学院光星高)佐々木麟太郎(花巻東高)

       山田脩也(仙台育英高)高中一樹(聖光学院高)横山聖哉(上田西高)

       米津煌太(大垣日大高)森田大翔(履正社高)真鍋 慧(広陵高)

       堅田紘可(高知中央高)佐倉侠史朗(九州国際大高)

       百崎蒼生(東海大星翔高)仲田侑仁(沖縄尚学高)

 外野手…橋本航河(仙台育英高)三好元気(聖光学院高)西 綾太(履正社高)

       田上夏衣(広陵高)知花慎之助(沖縄尚学高)

 

●大学生~細野と常広だけではない、投手に上位候補がズラリと並ぶ

 大学生投手は本当に今年は豊富で、本格派右腕の㉓西舘昂汰(専大・投手)、細野に次ぐ左腕で㉔武内夏暉(国学院大・投手)に㉕古謝樹(桐蔭横浜大・投手)、㉖滝田一希(星槎道都大)もドラフト1位候補として名前が挙がる。

 このなかで西舘と武内は即戦力の呼び声高く、西舘は高い制球力を武器にした安定感のある投球が身上。武内は身長185センチの大型左腕で、ボールの出どころが見にくいフォームから、多彩な変化球と制球力で抑える投球で、ともにスタミナもある。

 古謝はゆったりとしたフォームから150キロを超える真っ直ぐとキレのあるスライダーが武器で評価が急上昇している。滝田は昨夏にソフトバンク三軍相手に10奪三振を奪い、一躍ドラフト候補になり、体力や制球力に課題があるものの、伸びしろのある選手で、将来性を評価した1位指名の可能性も高い。

 野手の1位候補では、㉗進藤勇也(上武大・捕手)は、世代ナンバーワンの捕手の呼び声高く、強肩に加えリードやキャッチング、ブロッキングなど捕手として総合的な技術が高く、15年振りの大卒捕手1位指名もあるかも知れない。

 このほかの上位候補でも投手が豊富で、㉘富士隼人(平成国際大・投手)は最速155キロの真っ直ぐを武器に奪三振率13を超える剛腕。㉙下村海翔(青学大・投手)は小柄ながらフォークを決め球に、㉚岩井俊介(名城大・投手)は、回転数が高く伸びのある真っ直ぐとキレのある変化球で三振を量産している。左腕の㉛尾崎完太(法大・投手)も真っ直ぐが150キロを超え、カーブとのコンビネーションで奪三振率が高い。

 高い制球力を武器にしているのは、㉜草加勝(亜大・投手)と㉝高太一(大商大・投手)で、草加は最速150キロの真っ直ぐを低めに集め、今春のリーグ戦では4完封を記録した。高は投手転向5年目、大学で成長した左腕で、コーナーに投げ込める制球力に緩急を使った投球術でゲームメークに長けている。

 安定感では㉞村田賢一(明大・投手)も負けていない。多彩な変化球を駆使して打ち取る投球で、今春のリーグ戦では防御率0点台と安定感は抜群で、真っ直ぐも球速が上がってきている。㉟中岡大河(富士大・投手)も球種が豊富で、キレのある真っ直ぐと変化球でどのボールでもストライクが取れる。

 このほか、最速153キロの変則サイドの㊱松本凌人(名城大・投手)は、パワーのあるボールで先発、リリーフともに適性がある。高校時代は軟式で、大学から硬式に転向した㊲真野凛風(同大・投手)も、鋭いスライダーを武器に今春からリリーフから先発へ転向し、伸びしろに期待の選手。㊳谷脇弘起(立命大・投手)も変幻自在なスライダーが魅力で、フォークも習得したことで投球の幅が拡がり、昨秋から先発へ転向し結果もついてきている。

 野手では、㊴上田希由翔(明大・内野手と㊵廣瀬隆太(慶大・内野手が上位候補に名を連ねる。上田は1年から4番に座るヒットメーカーで、卓越したバットコントロールで広角に長打を打てる。廣瀬は通算18本塁打を放っている貴重な右打ちのスラッガーで、確実性に課題はあるものの規格外のパワーが魅力だ。

 現時点で上位候補ではないが、強肩強打の㊶萩原義輝(流通経大・捕手)は、4季連続で打率3割を超える打てる捕手。㊷辻本倫太郎(仙台大・内野手はダイナミック且つ堅実な守備が魅力の遊撃手で、打撃面もパンチ力があり、走攻守三拍子揃っている。中央では無名だが、㊸村田怜音(皇學館大・内野手は身長196センチのロマン砲で、大学通算23本塁打のパワーが売りの隠し玉だ。

 外野手では、投手との二刀流の㊹田中大聖(太成学院大・外野手)は、投手としても150キロを超える本格派だが、野手としての評価が高く、スピードとパワーを兼ね備えた好打者で、2年秋にはリーグ戦で首位打者を獲得している。㊺桃谷惟吹(立命大・外野手)は大学1年から主力で、広角に打てる巧打者で今春は打率4割を超えた。

 

●社会人~今年も投手中心で、上位候補にはいずれも右の本格派が揃う

 社会人は度会以外の上位候補に乏しくやや寂しい。今年も投手が中心になり、㊻松本健吾(トヨタ自動車・投手)は前評判の高い上位候補で、真っ直ぐを軸に低めに制球された変化球が武器の右の本格派だが、ケガで本調子ではないのが気がかりだ。

 このほか、㊼竹田祐(三菱重工エスト・投手)も多彩な変化球と角度のある真っ直ぐでゲームメークに長けた即戦力右腕。大学から投手に専念した㊽皆川喬涼(東京ガス・投手)も、力感のないフォームから常時145キロ前後の真っ直ぐを投げ込み総合力が高く、ともに先発候補として評価されている。

 一方で㊾川船龍星(日本通運・投手)は、伸びのある真っ直ぐは152キロを超え、フォークを武器に先発以外にもリリーフの役割を担っている。高卒4年目を迎えた㊿広沢優(JFE東日本・投手)は身長189センチの長身から投げ下ろす真っ直ぐが武器で、力で押すだけではない技術も身に付け、念願のプロ入りを目指す。