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どのチームが「人」を育て強くなるのか

22年甲子園ドラフト候補20名

 今年の甲子園もいよいよ残すところ決勝戦となり、豊富な投手陣を中心にチームの総合力で勝ち抜いてきた仙台育英高(宮城)と、準々決勝で1強と言われた優勝候補の大本命。大阪桐蔭高を破った下関国際高(山口)がともに初優勝を狙う。

 東北勢は、吉田輝星(日本ハム)を中心とした金足旋風以来3年振り、夏は10回目、仙台育英は3回目の決勝進出で、春夏合わせて東北勢初の優勝を狙う。山口県勢も決勝進出は桑田・清原のKKコンビを擁したPL学園と戦った宇部商以来、37年振りで、優勝となると昭和33年の柳井高以来64年振りになる。

 毎日、熱い戦いが繰り広げられているが、今夏の甲子園大会でのドラフト候補選手をピックアップしたいと思います。

 

●今夏の甲子園の主役、「投」の山田、「打」の浅野はともに上位指名候補

 どちらかというと、不作と言われた今夏の甲子園大会で投打の主役になったのが、投手では山田陽翔(近江高・投手)、打者では浅野翔吾(高松商高・外野手)の2人で、準々決勝での直接対決は見応えがあった。

 そのなかで、ドラフト1位候補として評価を確立したのが浅野だ。大会前からも上位候補だったのは間違いないが、甲子園で放った3本の本塁打、8割を超える出塁率で、高校生のなかにひとり大人が混ざっているような別格の存在感だった。

 特に、初戦の佐久長聖高(長野)戦で見せた1本目と、山田から放った3本目が圧巻だった。1本目は逆風のなか高々と打球を打ち上げ、甲子園の右中間まで飛ばした。右打席から高校生でなかなかあそこまで飛ばせる選手は記憶にない。

 また、山田から放った3本目もライナー性の打球でバックスクリーンに放り込み、山田は試合には勝ったが、浅野との勝負は完敗だったとコメントしている。よく通算本塁打数のみ注目されるが、誰から打ったのかというのが大事で、甲子園の大舞台で山田から打ったという点で、これ以上ない価値ある1本になった。

 当初は身長170センチと小柄なことが評価を難しくしていたが、そんな不安も今夏の活躍で払拭した。外野手ながら三塁や遊撃も守れ、強肩で俊足。1番打者や中軸も任せられ、トリプルスリーも狙えるとの評価で1位競合の可能性も十分にある。

 山田は2年からエースで4番を務め、昨夏ベスト4、今春のセンバツは準優勝、そして今夏もベスト4と大舞台で着実に結果を残している。最速148キロのストレートも良いが、何よりもカットボールやスライダーの変化球の質が素晴らしく、勝負所でギアを上げる勝負勘もある。三回戦の海星高(長崎)戦では、徹底マークされながら満塁本塁打も含む大活躍を見せ、大舞台で力を発揮できるのはプロ向きの選手と言える。

 一方で175センチと投手としては小柄なのと、総合力は高いが先発では厳しいと不安視する声もある。ただ、松井裕樹楽天)や堀瑞樹(日本ハム)のように、高卒1位で早い段階からリリーフエースになっている選手もおり、指名は間違いないだろう。また、打者としての評価も相変わらず高く、現在は典型的なプルヒッターだが、今夏の打席を観ていると、個人的には打者指名でも面白いと思っている。

 

●森下はプロ志望を明言、評価を上げた日高と松尾の進路に注目

 浅野と山田以外に指名が確実視されているのが、投手では田中晴也(日本文理高・投手)森下瑠大(京都国際高・投手)日高暖己(冨島高・投手)の3投手でいずれも初戦で敗れはしたが高評価を得ている。

 田中は186センチと堂々の体つきから、しなやかなフォームで最速150キロを投げる右の本格派。今大会では県大会で右手人差し指の皮がめくれ、本調子ではなかったが、それでも148キロを投げ、課題と言われた制球力も向上し、悪いながらもゲームメーク出来ており成長を感じさせた。

 森下は左ひじの故障で、何とか甲子園に間に合ったが、本来のピッチングとは程遠いものだった。ただ、制球力に長けた昨夏ベスト4の実力は折り紙つきで、本人も試合後ンプロ志望を明言しており、じっくり故障を治して欲しい。

 一方で森下は打者としての評価が高く、投手でダメだったら野手転向と言う選択肢もあり、指名しやすい選手だと思う。故障と今大会の結果で上位指名確実とは言えなくなったが、戦力的に余裕のあるチームからの上位指名の可能性は十分にある。

 日高はバランスの良い投球フォームから、腕を振って最速148キロのストレートに変化球も含め、左右どちらでも内外角を突ける制球力もある。驚いたのは、本格的に投手に専念したのが昨秋で、僅か1年ほどの投手歴しかなく、とんでもない伸びしろを秘めている。上位とは言わないが、プロで体を作れば化ける可能性は高い。

 野手では松尾汐恩(大阪桐蔭高・捕手)の評価が急上昇し、上位指名でないと獲れないだろう。元々は遊撃手で、高校から捕手へ転向した。経験が浅くキャッチングやブロッキングに課題はあるが、強肩でとにかく打撃が良い。

 細身ながらリストの強さと柔らかせ今大会でも3本塁打を放ち、史上10人目の通算5本塁打を甲子園で放っている。捕手の経験の浅さから内野手での起用の声もあるが、内山壮真(ヤクルト)も同じような状況ながら捕手で頭角を表しており、打てる捕手として成長して欲しいと思う。

 

●指名が期待される伸びしろ十分の逸材!野手は捕手と外野手に期待の選手が並ぶ

 今大会で評価を上げたのが宮原明弥(海星高・投手)で、初戦で田中(日本文理)と投げ合い完封勝利を上げた。特別ストレートが早い訳ではないが、変化球と合わせてまとまったピッチングが印象的で、観ていて大崩れしない安心感があった。

 川原嗣貴(大阪桐蔭高・投手)もピンチでも動ずりことなく、自分の間で投げる落ち着いた投球で、安定感の高さでは抜群だった。ただ、188センチの長身を活かした力で圧倒するような投球も期待していたので、少し物足りなさも感じたが、将来性は間違いなく高い。

 今夏、あまり投球機会に恵まれなかったが、背番号10の武元一輝(智弁和歌山高・投手)のポテンシャルの高さも光った。187センチの恵まれた体から球持ちも良く、川原とは逆に、荒れ球のなかで指にかかった時のボールの質は威力十分。やや肘が低く出るので、高身長を活かした角度のあるボールが投げられるようになると、いずれ球速も150キを超えてくるだろう。伸びしろ十分で是非プロで観てみたい。

 このほか、別所孝亮(大阪桐蔭高・投手)は準々決勝で先発し敗れたものの、150キロのストレートを投げるポテンシャルの高さが、変わらず評価されている。有馬伽久(愛工大名電気高・投手)は安定感のある左腕で総合力で勝負するプロ向きの選手で、打者としてのセンスも良い。

 最後に、仲井慎(下関国際高・内野手は背番号6ながら、県大会ではエースナンバーの古賀より登板イニングが多い。大阪桐蔭高戦でもリリーフで登板し、トリプルプレーの際の落ち着いたマウンドさばきや、高めのボール球でも打者が思わず手を出す伸びのあるストレートは、球速表示以上に早く感じているだろう。よくある野手投げではなく、面白い選手だと感じた。

 野手では捕手に逸材が多く、松尾以外に野田海人(九州国際大高・捕手)山浅龍之介(聖光学院高・捕手)を推す声が多い。

 野田は肩だけなら今大会ナンバーワンで、投手も兼任している。打撃に課題はあるものの、ブロッキングなど巧い守備型の捕手。「打」が松尾で「守」が野田なら、山浅は両方を兼ね備え総合力が高い。2年春からレギュラーを掴み、今大会ではチームを初のベスト4に導いた。遠投110メートルの強肩に、送球もスムーズでスローイングも正確で守備力が高い。打撃では以前は左投手を苦にしていたが、打っても5番と打撃力が着実に向上し、強打の捕手として成長した。

 外野手にも面白い選手がおり、海老根優大(大阪桐蔭高・外野手)は、182センチ86キロの大柄な体格だが、強肩を誇る守備と走塁は一級品。打撃は時間がかかりそうだが、プロ入り後で何とでもなる。パンチ力もある意外性のある打撃で、スケールの大きい華のある選手になり得る素材が光る。

 スピードなら黒田義信(九州国際大高・外野手)も負けていない。今大会でもセーフティバントで一塁到達3秒台の俊足を見せた。ただ、本来はパンチ力も備えた好打者で、走攻守兼ね備えたプロ向きの選手と言える。

 スケールの大きさなら前田一輝(鳴門高・外野手)は、190センチを超える大柄の選手で、初戦で山田(近江高)から3塁打を放っている。投げてはストレートは140キロを超える強肩で、雰囲気的に杉本裕太郎(オリックス)を彷彿するスケール感がある。投打に印象を残した石川ケニー(明秀日立高・外野手)もスケール感がある。現段階では打撃以外に目を見張るものがないが、将来性に期待する声は大きい。

 捕手と外野手に比べ、今大会は内野手が不足気味だった。そのなかで戸井零士(天理高・内野手は、初戦で3安打をマークし、広角に打ち分けるクラッチッターで長打力もある。大型遊撃手ながら守備も堅実で、キャプテンシーも高くプロで活躍する要素を兼ね備えている。

 最後に、村上宗隆(ヤクルト)の弟という言葉が付いて回るが、村上慶太(九州学院高・内野手も将来性を感じる。高校時代の実績は兄に及ばず、守備も一塁と言うのは気になるが、189センチの堂々とした体躯でホームランバッターの素養は高い。

 

●強豪校の一校集中が顕著の10年間。鳥取はベスト8から66年遠ざかる

 最後に甲子園の県勢の状況について調べてみました。12年の94回大会から、今年の104回大会(20年の102回大会は中止)の過去10大会で見てみると、優勝は関東勢4度と近畿勢5度で席捲している。

 近畿勢は大阪桐蔭が12年と14年、100回記念大会の18年の3度全国制覇し、19年は履正社(大阪)、昨年は智弁和歌山(和歌山)が制している。関西は大阪中心だが、関東勢は13年の前橋育英(群馬)、15年の東海大相模(神奈川)、16年の作新学院(栃木)、17年の花咲徳栄(埼玉)が優勝し、15年からは3年連続で関東勢が制している。

 先述したが、東北は春夏通じて初の全国制覇、中国地方も88年の広島商以来34年振りの優勝になり、11年の日大三西東京)以来10年続いた関東・近畿勢以外の優勝チームになる。

 また、ベスト8進出も見てみると、直近の10大会で、強豪校への集中が分かる。最多は5度の大阪だが、そのうち4度は大阪桐蔭。次に多い4度進出している宮城と福島、高知はいずれも仙台育英聖光学院明徳義塾で、3度の青森と滋賀もすべて八戸学院光星と近江の成績だ。このほか同じ3度では西東京と奈良、福岡が進出している。

 一方で一度もベスト8に進出していないのは、北北海道、静岡、長野、鳥取、佐賀、長崎、鹿児島の7地域で、北北海道と佐賀はベスト16もない。最長は鳥取の66年で56年(昭和33年)の米子東以来、半世紀以上ベスト8から遠ざかっている。次が長野の28年、北北海道の27年なので、鳥取の長さが際立っている。

 ちなみに南北海道、山形、千葉、山梨、新潟、富山、石川、岐阜、愛知、三重、京都、和歌山、岡山、広島、島根、愛媛、大分の17地域も1度しかなく、強豪県と言われる愛知や京都、和歌山、広島、愛媛、鹿児島の不振は意外で、北海道、東海・北陸、中国地方がこの間苦戦している。

 県勢の一校集中も多く、最多は9度出場の聖光学院(福島)と作新学院(栃木)、明徳義塾(高知)で、鳴門(徳島)が8度、仙台育英(宮城)と大阪桐蔭(大阪)、智弁和歌山(和歌山)は7度出場している。

 更に6度は八戸学院光星(青森)、前橋育英(群馬)、横浜(神奈川)、日本文理(新潟)、高岡商(富山)、星綾(石川)、敦賀気比(福井)、近江(滋賀)の8校で、、木更津総合(千葉)、二松学舎大付(東東京)、山梨学院(山梨)、佐久長聖(長野)、愛工大名電(愛知)の7校が5度出場し、20都府県が1強状況になり、岩手は盛岡大付(岩手)と花巻東、埼玉は花咲徳栄(埼玉)と浦和学院、奈良は天理と智弁学園、沖縄は沖縄尚学興南が2強状況になっている。