ドラフトを知ると野球がもっと楽しくなる

どのチームが「人」を育て強くなるのか

20年ドラフト候補中間報告~厳選50名

 今年のドラフトは、とにかく難しい。新型コロナウィルスの影響により、選手を見極める機会が失われている。そもそも休校による部活動の自粛や、相次ぐ大会の中止で活動が停止していることに加え、全国を飛び回るスカウトも、県の往来が制限されているなか従来のように動くことができない。

 一番難しいのが高校生の判断だ。大学生や社会人はまだ秋に大会があり、それぞれ甲子園や過去の主要な大会での実績もあるので、何とか見極めることができる。ただ、高校生は成長のスピードが驚くほど早く、2年の冬から一冬超えて大きく化ける選手がたくさん出てくる。その成長度合いを春のセンバツから始まり、練習試合や春季大会を経て、夏の大会で見極めていく。

 しかしセンバツが中止になり、その後の春の地区大会も中止になっている。それどころか休校により、練習自体も行われていない。こうなると夏の甲子園と地区予選しかないが、地区大会で負ければ7月で引退を迎える。以降、公式戦の機会がないため、上位候補の選手ならいざ知らず、指名が当落選上の選手ならば、アピールする機会が限られてしまう。 

 いくら練習で良くても、試合で結果を出せなければ意味がない。私は学生時代、陸上競技をしていたが、陸上の結果はタイムとして明確な指標が残る。ただ、野球やサッカーの場合は、やはりゲームを見ないことには始まらない。大学生も今年は6月から8月に延期された全日本大学選手権が史上初めての中止になり、より少ない機会でアピールをしなくてはならない状況になってきた。

 今年はそもそも夏季東京五輪の関係で、ドラフト会議が例年より遅い11月5日に予定されている。ドラフトの延期も協議の席上に上がるかもしれないが、高校生と大学生の進路選択を考えれば、それ以上延ばすのは難しい。ドラフトまであと半年、少しでも好転していくように応援していきたい。

 しかしそんななか、正式決定ではないにせよ夏の甲子園大会中止の報道が出た。コロナウィルス感染予防については、自分なりの意見はあるが、ここでは述べない。ただ、このままの状況で甲子園大会中止は避けて欲しい。従来の形に捉われず開催形式や時季など、甲子園を目指した3年生に、どんな形でも公式戦として引退の花道は用意してあげるべきだ。これは野球に限らず、すべての競技やコンテストで大人が考えるべき課題だと思う。 

●昨年はS評価が4人でいずれもドラフト1位!2選手は一気に評価を上げた

 まず昨年、この時点で「S」評価だったのは、佐々木朗希(大船渡高→ロッテ①)、奥川恭伸(星稜高→ヤクルト①)、西純矢(創志学園高→阪神①)、森下暢仁(明大→広島①)のいずれも投手で、結果、佐々木は4球団、奥川は3球団、森下は単独で1位入札されている。

「A」評価の選手では、投手では井上広輝(日大三高→西武⑥)、及川雅貴(横浜高→阪神③)、宮城大弥(興南高→オリックス①)、津森宥紀(東北福祉大ソフトバンク③)、太田龍JR東日本→巨人②)、河野竜生(JFE西日本→日本ハム①)、立野和明(東海理化日本ハム②)、宮川哲(東芝→西武①)で、故障を不安視された井上以外はすべて上位指名されている。

 野手では森敬斗(桐蔭学園高→DeNA①)、石川昂弥(東邦高→中日①)、海野隆司(東海大ソフトバンク②)、佐藤都志也(東洋大→ロッテ②)が「A」評価で、石川は3球団競合、森も1位入札指名になった。

 この他、昨年のドラフト1位の小深田大翔(大阪ガス楽天①)は「B」評価、堀田賢慎(青森山田高→巨人①)と佐藤直樹JR西日本ソフトバンク①)に至っては、名前すら挙がっていなかった。小深田は元々評価が高かったが、堀田は夏以降に急成長し、佐藤は数少ない即戦力外野手として、各球団の動向から指名順位が上がった。

●今年は大学生と社会人に逸材多い!高校生は実績十分の候補者が並ぶ

 今年は現時点で「S」評価の選手はいないが、不作と言えばそうではない。大学生全般と社会人投手に逸材が多い。今年は高校生の評価が難しく、中位から下位指名評価の選手の進学や就職を選択する選手が増えると思われ、大学生・社会人からの指名が中心になるかもしれない。

【A⁺…1位競合が予想される選手】

 中森俊介(明石商高・投手)…先発・リリーフどちらでもいける150キロ右腕

 伊藤大海(苫小牧駒大・投手)…155キロの直球と強気がウリのクローザー候補

 来田涼斗(明石商高・外野手)…走攻守3拍子揃った野球センス抜群の巧打者

 佐藤輝明(近大・外野手)…将来トリプルスリーを狙えるスラッガーの糸井2世

 中森と来田は、ともに昨年の春夏甲子園でベスト4の中心選手で実績も十分。伊藤はリリーフ陣に不安を抱えるチームには魅力で、佐藤は現時点ではナンバーワン野手で、外野のレギュラーを1年目から狙える。

【A…1位入札が予想される選手】

 高橋宏斗(中京大中京高・投手)…昨秋の明治神宮大会で鮮烈デビューし全国区へ

 早川隆久(早大・投手)…総合力に優れ、ゲームメークに長けた大学NO1左腕

 山崎伊織(東海大・投手)…伝家の宝刀スライダーとカットボールを駆使する本格派

 栗林良史(トヨタ自動車・投手)…最速153キロが武器にタフネス右腕で高い総合力

 西川僚祐(東海大相模高・外野手)…名門校で1年生から4番、高校通算53本塁打

 早川と栗林は即戦力で、特にサウスポーの早川は左腕不足のチームは是非とも欲しい。高橋は速球派で伸びしろ十分、西川も将来の主軸候補で評価が高い。山崎は実力と実績は申し分ないが、昨年11月に肘の違和感を訴え、夏ごろの復帰になりそうで回復が待たれる。

【A⁻…1位指名が予想される選手】

 宇田川優希(仙台大・投手)…長身から投げ下ろすフォークが武器で成長を続ける

 佐藤宏樹(慶大・投手)…キレのあるスライダーが武器の左腕で故障も癒えた

 木澤尚文(慶大・投手)…最速155キロの直球で押し込む投球が魅力で抑えにも適性

 入江大生(明大・投手)…恵まれた体格で打者としても評価が高く、伸びしろ十分

 森 博人(日体大・投手)…直球に磨きをかけたクローザーも、今年は先発に挑戦

 佐々木健(NTT東日本・投手)…最速152キロ左腕で、課題は制球力とメンタル

 山本晃希(日本製鉄かずさマジック・投手)…i威力抜群のストレートに長けた投球術

 小野大夏(ホンダ・投手)…高校時代は捕手の強肩で、威力のあるストレートが武器

 大江克哉(NTT西日本・投手)…経験豊富なスリークオーターで課題は制球力

 牧 秀悟(中大・内野手)…大学日本代表の4番で、高い守備力とシュアな打撃

 五十幡亮汰(中大・外野手)…“超”がつく韋駄天で、将来のリードオフマン候補

 中野拓夢(三菱自動車岡崎・内野手)…フォア・ザ・チームの打線のつなぎ役で堅守

 今川優馬(JFE東日本・外野手)…スケール大きい大砲で明るい性格のスター候補

 このなかでは、佐々木と小野と、五十幡と今川は以前より評価が高かったが、大学生では宇田川は変化球の質が高まり、木澤と森は役割の変更にチャレンジ、社会人の山本と大江は投球術を覚えピッチングの幅が広がることで評価が高まった。佐藤と牧は、1位候補に名前を挙げるチームもおり、入江は今年いっぱいで最も伸びしろが期待できる選手だ。

【B⁺…外れ1位指名もある上位候補】

 小林樹斗(智弁和歌山高・投手)…キレで勝負する総合力の高い右腕で安定感が抜群

 村上頌樹(東洋大・投手)…智弁学園で春センバツ優勝投手。着実に成長したエース

 内山壮真(星稜高・捕手)…名門校で1年から遊撃レギュラー。今年は主将も務める

 井上朋也(花咲徳栄高・外野手)…高校通算47本塁打で逆方向にも長打を打てる

 古川裕大(上武大・捕手)…広角に打てる巧打者で3年時に大学選抜に選出された

 小林は昨夏の甲子園3回戦で星稜高の奥川と投げ合った実績があり、内山は昨夏準優勝の主力、井上も1年生から甲子園を経験しており、実績は証明されている。

【B…上位指名が有力視される選手】

 川瀬堅斗(大分商高・投手)…長身から投げ下ろす角度のあるストレートが武器

 笠島尚樹(敦賀気比高・投手)…スリークオーターの制球力の高い技巧派右腕

 鈴木昭汰(法大・投手)…両サイドに投げ分ける制球力とスライダーが武器

 平川裕太(鷺宮製作所・投手)…小柄だが大学時代からクローザーを務めた強心臓

 度会隆輝(横浜高・内野手)…名門校で1年からベンチ入り。広角に打ち分ける技術

 山村崇嘉(東海大相模高・内野手)…高校通算44本塁打スラッガーで投手も兼任

 榮枝裕貴(立命大・捕手)…大学屈指の強肩と守備力で評価が急上昇中で期待値高い

 元山優飛(東北福祉大内野手)…広角に打ち分ける技術と高い守備力の遊撃手

 矢野雅哉(亜大・内野手)…50メートル5秒9の俊足と強肩で広角に打つ打撃も非凡

 並木秀尊(独協大・外野手)…大学屈指の俊足と脚力で典型的なリードオフマン

 この他の有力選手を紹介すると、高校生では岩崎峻典(履正社高・投手)は昨夏の甲子園優勝の主力、入江大樹(仙台育英高・内野手)は大型遊撃手、鵜沼魁斗(東海大相模高・外野手)は俊足にパンチ力もあるリードオフマンだ。

 大学生では高い奪三振率を誇る大道温貴(八戸学院大・投手)、高野脩汰(関大・投手)は関西No1サウスポーだ。小川龍成(国学院大・内野手)はアグレッシブな守備でキャプテンシーもあり、児玉亮涼(九産大内野手)も遊撃守備は一級品だ。赤尾光祐(東海大札幌・外野手)は右の長距離砲で注目されている。

 社会人では、本格派右腕の伊藤優輔(三菱日立パワーシステムズ・投手)はクローザー、変則右腕の川瀬航作(日本製鉄広畑・投手)はニーズがありそうだ。野手では峯本匠(JFE東日本・内野手)は左の巧打者、チームメイトの平山快(JFE東日本・内野手)は右のスラッガー、向山基生(NTT東日本・外野手)は高いレベルの走攻守にパンチ力もある。

 最後に甲子園大会の開催が危ぶまれているが、報道通り中止だと本当に寂しい。甲子園は選手の野球人生を変える場だ。近年では16年の今井達也(作新学院高→西武①)、18年の吉田輝星(金足農高日本ハム①)は、大会が始まるまでは単なる好投手だったが、大会終了後には1位候補までに成長した。こういう成長の機会が無くなるのは本当に残念だ…一縷の望みに期待したい。