ドラフトを知ると野球がもっと楽しくなる

どのチームが「人」を育て強くなるのか

2020年ドラフト寸評~成功・失敗した球団(前編)

 今年は総じて見ると、各チームそれぞれがポイントを抑え、大きな成功も失敗もないドラフトになったと思う。そのなかでも最も上手くいったのは阪神、良く言えば冒険、悪く言えば首を傾げたのが西武だった。ただ、ドラフトの成果が出るのは5年後で、そのときに評価がどう変わるかのか期待が膨らむ。

【12球団ドラフトの評価】

 ◎成功…阪神

 〇合格…日本ハム・中日・オリックス楽天・ヤクルト

 △普通…ロッテ・広島・ソフトバンク・DeNA・巨人

 × 失敗…西武 

 

 コロナ禍のなかで、指名人数減も懸念されたが、今年の本指名選手は74名で、昨年と同数だった。高校生が30名(▲5名)、大学生が32名(+7名)、社会人・独立リーグが12名(▲2名)で、最多指名は阪神の8名、最小はソフトバンク、ロッテの5名で、2年連続で最小の指名になった。

 今年は1位指名に大学生が9名、高校生が2名、社会人が1名と大学生に集中した。コロナ禍のなか甲子園は春夏中止、社会人も全国大会でアピールする場を失い、リーグ戦が中心の大学生に結果集中した。 

 

阪神(85点)

 今年最高の評価をしたのは阪神だ。ドラフトは希望の1位指名選手が獲得できれば成功と言えるが、アマナンバーワン野手の佐藤輝明(近大・内野手を4球団競合のなか獲得できた。まだ粗削りな部分はあるが、走攻守にレベルが高く、一番の魅力は長打力で、将来大山とのクリーンアップに期待が膨らむ。

 阪神のドラフトに最高点を点けたのは、2位以下でも欲しい選手を欲しい順位で獲れたからだ。2位の伊藤将司(JR東日本・投手)は技巧派の左腕で、先発・リリーフともに適性があり、先発左腕が高橋遥のみ、リリーフでも能見の退団が決定的でなかで大きな補強になった。

 3位の佐藤蓮(上武大・投手)は、良い意味で驚いた。阪神もこのような素質型の大学生を上位指名するようになったんだ、と感慨深げに見ていた。佐藤は故障で今年まで登板がなく、故障が癒えた今秋に150キロを連発し、まさに未完の大器だ。

 4位の榮枝裕貴(立命大・捕手)は、阪神が早くに評価していた選手で、守備力が高く梅野の後継候補として、年齢バランスでも会心の指名になった。5位の村上頌樹(東洋大・投手)は、よくこの順位まで残っていたなというのが率直な感想で、高いゲームメーク能力は先発ローテに喰い込む可能性も十分にある。

 6位では俊足巧打の中野拓夢(三菱自動車岡崎・内野手を獲得。中野は堅実な遊撃守備で、12球団ワーストの失策数のなか、レギュラー獲得も夢ではない。7位は唯一の高校生で高寺望夢(上田西高・内野手を指名した。高寺は高校通算31本塁打に、50メートル6秒の俊足で、合同練習会で結果を出して一躍ドラフト候補になったシンデレラボーイだ。8位の石井大智(四国IL高知・投手)は、シンカーが武器の奪三振率の高い投手で、リリーフ陣の層が厚くなる。

 育成選手は岩田将貴(九産大・投手)のみで、岩田は3年春にトミージョン手術を受け復活した左のサイドハンドで、リリーフとして重宝しそうだ。

 今回は補強ポイントを万遍なく指名し、会心のドラフトと言える。一方で育成下手と言われるチームが、佐藤をどう育て行くかに注目したい。あの柳田でさえ、主力に定着したのは4年目で、佐藤を辛抱強く育成できるか…チームの手腕が問われる。

 

日本ハム(80点)

 毎年、その年の1番の選手に行く方針だが、今年はやや違う趣で伊藤大海(苫小牧駒大)のを単独指名した。ただ、これは正しい選択で、伊藤は先発も抑えもできるが、150キロのストレートを武器に大学日本代表のクローザーを務めた実績から、抑えが不在のチームの補強戦略とは合っている。また、伊藤は地元北海道出身で、地元出身の1位選手はマーケティング的効果も高い。どちらにしろ、北の大地に剛腕クローザーが降臨する日も遠くない。

 2位の五十幡亮汰(中大・外野手)は、俊足が注目されているが打力も向上し、走攻守揃った即戦力だ。MLB挑戦を表明している西川の後継者にピッタリで、理想的なリードオフマン候補だ。1年目にレギュラーを獲得できなくても、いま注目されている代走要員として、ベンチに居るだけで相手にプレッシャーをかけられる。

 3位の古川裕大(上武大)の指名には少し首を傾げた…。古川は良い選手だが、22歳~25歳のなかに捕手が5名もひしめき年齢バランスが悪い。主力の清水や宇佐見は、野手に転向するほど打撃が良い訳でもなく、古川の起用法が現時点では見えない。

 4位と5位では高校生を指名し。4位の細川凌平(智弁和歌山高・外野手)も俊足の内外野守れる巧打者で、高校の先輩でもある西川の後継者を狙える逸材だ。5位の根本悠楓(苫小牧中央高・投手)は小柄ながら、中学時に全国制覇した左腕で、下位ながら将来のエース候補と言える。

 6位の今川優馬(JFE東日本・外野手)は、正直もう少し評価が高いかなと思っていた。遠くに飛ばすフルスイングが魅力で、パワーヒッターながら俊足で守備も巧い。未だにファイターズのファンクラブ会員の道産子で、指名された瞬間に号泣した姿が忘れられない。今年は3名の地元北海道の選手を指名し、道内のファンを喜ばせた。それぞれが活躍して新球場移転の際、主力に成長してくれれば最高だ。

 育成選手は2名指名し、育成1位の松本遼大(花巻東高・投手)は長身から投げ下ろすストレートに威力があり、スケールの大きい投手で焦らず支配下を勝ち取りたい。

 マイナス面を挙げれば、今年は先発・抑えともやり繰りが厳しく、エース有原のMLB移籍の可能性もあるなか、投手の指名が少なく補強としては不十分だと思う。また、レギュラー不在の三塁手獲得の課題も解消されなかった。

 

○中日(75点)

 正直、いまの中日に必要なのは野手で、佐藤(阪神)の指名がベストだと思ったが、今年も有望な地元選手の獲得が優先された。かつては槙原や工藤、イチロー、最近では千賀と、地元の有望選手を逃したのを避けたかったのか、最終的には高橋宏斗(中京大中京高)に決め、競合も予想されるなか単独指名を成功できたのは大きい。

 地元志向への縛られ過ぎを懸念しつつも、今年のドラフトもチームの姿勢としては素晴らしいと思う。中日の課題は多く、長打力も機動力も不足しており、エース大野雄のFA移籍の可能性など、状況的に即戦力で固めたいところを、一昨年の根尾、昨年の石川昂に続き、素質豊かな高校生を指名した。

 高橋宏は正真正銘のエース候補で、ストレートの質が高く変化球の精度も高い。根尾がリードオフマン、石川昂が4番、そして高橋宏がエースになったチームはファンならずとも期待が集まる。

 2位の森博人(日体大・投手)も1位で消えてもおかしくなかった投手。スリークオーター気味の腕の位置から投げ込むストレートとカットボールが武器で、先発・リリーフともに適性が高い。ちなみに森も地元の愛知出身だ。

 3位の土田龍空(近江高・内野手は強打の遊撃手で、高校生離れした守備力は既にプロでも十分通用する。ミートの巧い巧打者タイプだが、高校通算30本塁打とパンチ力もあり、打撃が課題の京田もうかうかしていられない。

 土田に続き、4位と5位もともに高校生指名で。4位で左腕のパワーピッチャー福島章太(倉敷工高・投手)、5位の加藤翼(帝京大可児高・投手)は、夏から評価を上げた伸びしろ十分の右腕で奪三振率が高く、ともに将来が楽しみだ。

 6位の三好大倫(JFE西日本・外野手)は、社会人3年目まで投手を務め、野手転向1年でプロ入りした左打ちで、ポテンシャルの高さが魅力だ。大島以外レギュラー不在の手薄な外野陣の一角を担いたい。

 育成指名は3名で全員が投手だ。注目は個人的ではあるが、育成1位の近藤簾(札幌学院大・投手)で、母校にそれほどの思い入れはないが、同校初のプロ野球選手で、やはり指名されると嬉しいもので応援したい。

 マイナスポイントは、課題の攻撃陣のなかで、即戦力の二塁手スラッガーを獲得できなかったのが残念だったが、全体的には良いドラフトになり3年連続の成功ドラフトと言える。

 

オリックス(75点)

 オリックスも中日と同じ感想を持った。優勝から遠ざかること四半世紀、6年連続Bクラス、そして2年連続の最下位に沈んだ。今年は早々に佐藤(阪神)指名を公表するも、抽選に敗れ残念ながら獲得できなかったが、ここからのオリックスの指名には驚かされた。

 目先の結果に捕らわれれば、そのまま即戦力指名に行くところを、昨年に続き将来に目を向けた指名になった。当然、賛否もあるが私はオリックスの姿勢を評価したい。

 1位指名の山下舜平大(福岡大大濠高・投手)は、最速154キロのストレートが武器で、変化球はカーブしかないが、これは監督の方針で投げさせなかっただけで、まさに未完の大器という言葉がふさわしい。

 2~3位では高校生外野手を指名し、2位の元謙太(中京高・外野手)は、恵まれた体格から放つ飛距離が魅力のスラッガーで将来の4番候補。元々は投手で広島の鈴木誠のような打者に成長する可能性を秘めている。

 3位は来田涼斗(明石商高・外野手)で、高校通算34本塁打を放つ長打力と俊足が魅力で、将来はトリプルスリーも狙える。2番大田、3番に来田、4番に元、5番で昨年2位の紅林など並ぶと、想像するだけで本当にワクワクしてくる。そういう可能性を秘めた上位指名になった。

 4位のサブマリン中川颯(立大・投手)の指名も良かった。4年時には不調で評価を落としたが、エースとしてチームを支えた。思い返せば、同じサブマリンの高橋礼も4年時は不調だったが、結果新人王を獲得するなど、高橋礼がダブって見える。

 5位の中川拓真(豊橋中央高・捕手)は年齢的にも必要な補強で、高校通算42本塁打の長打力と強肩で将来の正捕手候補。6位の阿部翔太(日本生命・投手)は即戦力で、最速151キロのストレートに制球力も良く、強気な投球はリリーフで重宝しそうだ。

 昨年8名指名した育成選手も、今年も多く6名指名した。注目は3位の宇田川優希(仙台大・投手)で、上位指名もあると思っていたので、育成指名は意外だった。入団に難色を示しているという報道を目にしたが、是非評価を見返してほしい。

 育成路線は評価したものの、課題の即戦力クローザーや三塁手の獲得はままならず、満点とは言えなかったが、ブレないチーム方針を垣間見たドラフトで、その成否は3~5年後に分かる。

 

楽天(70点)

 今年は4球団競合のなか、即戦力左腕の早川隆久(早大・投手)を見事引き当てた。先発の柱の岸、涌井、則本がともに30歳を超え、期待の松井は先発で結果を残せず終盤はリリーフに回っている。リーグ最多の逆転負けの状況から見ても、先発・リリーフともに投手陣の補強が必要だった。

 1位の早川は155キロの本格派左腕で、変化球の精度も高い。ゲームメークにも長けており、今秋のリーグ戦では圧巻の投球を見せた。当然、先発ローテーション候補で、リーグ屈指の打線をバックに10勝も夢ではない。

 2位の高田孝一(法大・投手)も最速150キロを超える右の本格派で、躍動感あふれるフォームから投げ込むストレートの質と変化球のキレが抜群だ。基本は先発だが、手薄なリリーフへの適性も高いと思う。

 3位で即戦力左腕の藤井聖(ENEOS)を獲得できたのも大きく、よくこの順位まで残っていたを思う。藤井も150キロを超えるストレートを武器に、社会人で急成長した投手で、先発タイプだがリリーフ左腕が不足している状況から出番が増えそうだ。

 4位と6位も投手で、4位の内間拓馬(亜大・投手)も最速150キロの右の本格派だが、即戦力というよりは、素質型の大学生で伸びしろが評価された。6位の内星龍(履正社高・投手)は、昨夏の甲子園優勝時はメンバー外も、冬に急成長を遂げ秘めたポテンシャルが魅力。

 5位は唯一の野手で、地元の入江大樹(仙台育成高・内野手を指名した。柔らかいグラブさばきと強肩の遊撃手で、将来性抜群のスラッガーだ。育成は石田駿(BC栃木・投手)のみの指名になった。

 早川を獲得でき、上位3人で即戦力投手を獲得して成功と言えるドラフトだが、楽天のドラフトは目先のことだけに目を奪われて、将来どういうチームにしたいのかという方針を感じず、個人的に魅力を感じない。今年も1位で早川を獲得できたなら、せめて3位までで年齢的にも必要だった高校生投手を指名してほしかった。 

 

〇ヤクルト(70点)

 とにかく投手が欲しい!今年のヤクルトのテーマは明確だった。早川(楽天)を外し、鈴木もロッテとの競合に敗れたが、1位で木澤尚文(慶大・投手)を獲得できたのは、外れ外れ1位指名でも成功だと思う。

 木澤は競合を避けての単独指名もあると予想していたので、12番目で残っていたのは幸運だと思った。最速155キロのパワーピッチャーで、とにかくハートが強く、まさにクローザーが適任で、短いイニングでその能力が活かされると思う。

 2位では左腕の山野太一(東北福祉大・投手)を指名し、早川と鈴木指名がここで活きてきた。昨年までリーグ戦無敗で、公式戦70イニング連続無失点の記録も持つ。多彩な変化球を駆使して、奪三振能力も高く手薄な先発陣に喰い込む可能性は十分にある。

 3位は打てる捕手の内山壮真(星稜高・捕手)を獲得。昨夏の甲子園準優勝時の主力で、高校通算34本塁打スラッガーだ。年齢的にも高校生捕手が必要で、ポスト中村の座を狙える。また、昨年までは遊撃手を務めておりコンバートの可能性もある。

 4位以降の指名も、チームの課題を抑えた的確な指名になった。4位の元山飛優(東北福祉大内野手は、高い遊撃守備が評価される一方、リーグ戦で首位打者打点王も獲得している。まずは得意の守備からアピールして、正遊撃手候補に名乗りを上げたい。5位の並木秀尊(独協大・外野手)は、五十幡をも凌ぐ俊足で、打撃は発展途上だが文字通り足だけで飯が食える選手だ。

 6位の嘉手苅浩太(日本航空石川高)もよくこの順位まで残っていたと思う。長身から投げ下ろす威力十分のストレートが武器のパワーピッチャーで、将来に主戦になれる可能性は高い。

 育成では4名指名し、そのなかで育成1位の長身左腕・下慎之介(健大高崎高・投手)に注目したい。まだ好不調の波が大きいが、伸びしろ十分で早い段階での支配下登録が期待できる。

 さすがに2年連続の最下位ということもあり、課題が多く、すべてを補強することは難しかったが、先発左腕にクローザー候補、将来の正捕手候補に俊足巧打の野手と最低限の補強はできたと思う。また、育成選手を4名指名したのもチーム強化の姿勢を昨年以上に感じたドラフトになった。あとはオフのFA選手の去就だけが心配だ…。