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どのチームが「人」を育て強くなるのか

23年戦力展望☆ソフトバンク~大型補強で優勝候補の筆頭!世代交代も進み、常勝軍団再構築を目指す

 藤本博史監督を迎え、開幕8連勝と絶好のスタートを切った。しかし、シーズン早々に栗原陵矢(春江工高~14年②)が左ひざのケガでシーズン絶望、クローザーの森唯斗三菱自動車倉敷~13年②)も不振で二軍落ちするなど、主力選手が相次いで離脱。ただ、選手層の厚さと若手の台頭で乗り切り、9/15に優勝マジックが点灯した。

 そこからオリックスと一進一退の攻防を続けながら、141試合目にマジック1でリーグ優勝に王手をかけた。しかし、残り2試合でまさかの連敗…逆にオリックスは連勝で最後の最後で勝率で並ばれ、直接対決の勝率差で優勝を逃した。雪辱を晴らすべき臨んだファイナルステージも1勝するのがやっとで2年連続のV逸になった。

 今季は稀に見る大型補強を敢行し、一方で初の4軍制を敷くなど、補強と育成を並行して進め、再度常勝軍団を目指すシーズンになる。

【過去5年のチーム成績】

    順位   勝敗      打率 本塁打  盗塁   得点  防御率 失点

    22年 2位   76勝65敗  2分 .255  108本   86個  555点  3.07  471点

 21年 4位 60勝62敗21分 .247  132本   92個  564点  3.25  493点

 20年 1位 73勝42敗  5分 .249  126本   99個  531点  2.92  389点

 19年 2位 76勝62敗  5分 .251  183本 113個  582点  3.63     564点

 18年 2位 82勝60敗  1分 .266  202本   80個  685点  3.90  579点

【過去5年のドラフトの主戦力】

 21年~野村 勇(内野手~NTT西日本④) 

 20年~なし

 19年~津森宥紀(投手~東北福祉大③)

    18年~泉 圭輔(投手~金沢星稜大⑥)

 17年~周東佑京(内野手~東農大オホーツク育②) 

 選手層の厚さで育成に定評があり、ドラフトが上手く進んでいる印象があるが、直近5年は決して成果が出ているとは言えない。

 投手なら津森と泉のほかにも、椎野新(国士館大~17年④)や甲斐野央(東洋大~18年①)などリリーフばかりで、先発投手がおらず、昨シーズンのV逸の要因の一つになった。ただ昨年、ようやく大関友久(仙台大~19年育②)に板東湧梧(JR東日本~18年④)が結果を残し、今季は大関開幕投手に指名され、主力誕生に期待したい。

 打者もレギュラーと呼べる選手がおらず、野村勇は内外野守れるユーティリティが災いしたか定位置確保には至らず、周東はさすがに代走要員ではないが、レギュラー獲得には至っていない。即戦力入団の佐藤直樹JR西日本~19年①)に海野隆司(東海大~19年②)、柳町達(慶大~19年⑤)もライバルが多く、まだ時間がかかりそうだ。

 このほかにも、13名指名した高校生選手のうち、投手は田浦文丸(秀岳館高~17年⑤)の1勝、打者は野村大樹(早実高~18年③)の20安打が最高で、8選手は一軍出場すらない。また、上位指名選手の活躍が少ない一方、育成選手も17年こそ5名支配下登録されたが、18年~21年の33名のうち、支配下大関と渡邊陸(神村学園高~18年育①)のみと翳りが見え、今季の大型補強に踏み切ったことも理解できる。

 

●投手陣~課題はエース千賀が抜けた先発陣の再編とリーグワーストの与四球の減少

 昨季もチームを支えたのはリリーフ陣で、当初は森をクローザーに据え、モイネロと又吉克樹(四国IL香川~13年中②)のセットアッパー構想だったが、森が不振で二軍調整になり先発へ転向。又吉も骨折で離脱し、リリーフ陣の再編を迫られた。

 モイネロを抑えにし、8回に定着したのが広島を戦力外になり、独立リーグを経て育成選手でNPBに復帰した藤井晧哉(おかやま山陽高~14年広④)で、開幕前に支配下登録された苦労人は55試合で防御率1点台の活躍を見せた。

 左キラーの嘉弥真新也(JX-ENEOS~11年⑤)は、チーム最多の56試合に登板し、6年連続の50試合登板で防御率は圧巻の0.99。松本裕樹(盛岡大付高~14年①)もシーズン途中から勝ちパターンに定着し、津森と甲斐野は防御率2点台、泉も前半はケガで出遅れたが、後半戦60試合で30試合登板とフル回転した。

 先発はエースの千賀滉大が7年連続、東浜巨(亜大~12年①)は5年振りに2桁勝利を上げたが、石川柊太(創価大~13年育①)は負け越し、大関は病気治療で離脱、和田毅早大~02年自)も17試合登板に留まるなど、先発投手のやり繰りに苦労した。

【22年シーズン結果】※☆は規定投球回数クリア

 ・先発…☆千賀滉大(144回)石川柊太(136回1/3)東浜 巨(136回)

     大関友久(101回1/3)レイ(100回)和田 毅(81回)

     板東湧梧(62回1/3)

 ・救援…嘉弥真新也(56試合)藤井晧哉(55試合)モイネロ(53試合)

       津森宥紀(51試合)松本裕樹(44試合)又吉克樹(31試合)

       泉 圭輔(30試合)森 唯斗(29試合)

【今年度の予想】

 ・先発…東浜 巨 ※有原航平 和田 毅 石川柊太 藤井晧哉 大関友久

      (武田翔太 ※大津亮介 ※ガンケル 森 唯斗 杉山一樹 板東湧悟)

 ・中継…津森宥紀 又吉克樹 泉 圭輔 嘉弥真新也 松本裕樹

      (甲斐野央 椎野 新 高橋純平 田浦文丸 ※古川侑利 笠谷俊介)

 ・抑え…モイネロ ※オスナ 

 本人の念願がようやく叶った格好だが、エース千賀のMLB移籍は痛い。実績のある東浜と石川、開幕投手大関が軸で、NPBに復帰した有原航平(早大~14年日①)までは決まりだと言えるが、あとは未知数と言える。残り3枠は、先発転向の藤井、ベテランの和田、先発転向の森、昨年後半に先発ローテに定着した板東も候補になる。

 このほか、毎年、期待の選手で名前の挙がる杉山一樹(三菱重工広島~18年②)に、ここ数年故障続きの武田翔太宮崎日大~11年①)が控え、即戦力右腕の大津亮介(日本製鉄鹿島~22年②)、阪神でNPB通算3年15勝のガンケルも新たに加入した。層が厚くなったとまでは言えないが、昨年より枚数は増えたと言える。

 リリーフ陣は、ロッテからオスナが加入し一番の補強になった。19年にメジャーで最多セーブにも輝いた実績に偽りはなく、昨年ロッテに途中加入し、29試合で10ホールド、9セーブで防御率は0.91で圧巻の数字を残した。

 オスナをクローザーに据え、セットアッパーでモイネロと又吉、松本が揃う布陣は強固で、ここに嘉弥真や津森など、ワンポイントに滅法強い投手が控える。さらに160キロ右腕の甲斐野に新加入の古川侑利(有田工高~13年楽④)、泉や椎野はロングリリーフもでき、層も厚く数的にも問題ない。先発投手が5回までゲームを作ることができれば、鉄壁のリリーフ陣で乗り切れるだろう。

 

●野手陣~今季の課題はチームバッティングの向上!目指す野球を実現できるか

 野手の誤算は栗原のケガによる離脱で、開幕5試合目で左ひざを負傷すると、シーズン復帰が絶望になった衝撃は大きかった。藤本監督は栗原と柳田悠岐(広島経大~10年②)、甲斐拓也(楊志館高~10年育⑥)のレギュラーを明言していたなかで、栗原の開幕早々の離脱で早くも構想が狂ってしまった。

 栗原の離脱に加え、柳田も本調子とは言えず、グラシアルにも衰えが目立つなか、チームを救ったのは今宮健太(明豊高~09年①)と牧原大成(城北高~10年育⑤)の2人だった。レギュラー白紙を言い渡された今宮は、昨季は打撃の好不調の波が少なく実力でレギュラーを奪い返した。内外野を守れる牧原も、藤本監督より試合の流れを変える「ジョーカー」と評され、二塁と三塁、遊撃、中堅を守り、途中出場で存在感を示しレギュラーを獲得。規定打席には2打席不足したが、打率.301の好成績を残した。

 このほか若手の活躍も目立ち、三森大貴(青森山田高~16年④)が一番・二塁に定着。ルーキー野村勇は10本塁打でパンチ力もあることをアピールし、柳町は外野の全ポジションを守り、得点圏打率3割の勝負強さを見せた。ファームではリチャード(沖縄尚学高~17年育③)が3年連続本塁打王、昨季は打点と合わせ2冠に輝いた。

 一方で、主力のグラシアルとデスパイネがチームを去り、松田宣言も出場機会を求め巨人へ移籍するなど、懸念されていた世代交代は否応なしに進んでいる。

【22年シーズン結果(試合数/打席数)】☆は規定打席クリア ※は新加入

 捕 手…甲斐拓也(130/323)

 内野手…☆今宮健太(130/510)牧原大成(120/441)三森大貴(102/437)

     中村 晃(114/435)グラシアル(90/386)周東佑京(80/319)

     野村 勇(97/203)ガルビス(30/130)川瀬 晃(73/106)

     松田宣浩(43/106)     

 外野手…柳田悠岐(117/437)柳町 達(107/364)デスパイネ(89/331)

       上林誠知(33/100)

【昨年の開幕時スタメン】 【昨年の基本オーダー】  

  1)三森大貴④      1)三森大貴④     

  2)今宮健太         2牧原大成⑧        

  3)柳田悠岐⑨      3)柳田悠岐   

  4)グラシアルDH    4)グラシアル⑦      

  5)栗原陵矢⑦      5)デスパイネDH   

  6)中村 晃③      6)中村 晃③     

  7)松田宣浩⑤      7)今宮健太  

  8)上林誠知⑧      8)周東佑京⑤

  9)甲斐拓也②      9)甲斐拓也②

【今シーズンの開幕一軍候補】

 捕 手…※嶺井博希 甲斐拓也 谷川原健太(海野隆司 渡邊 陸)

 内野手…※アストゥディーヨ 今宮健太 牧原大成 三森大貴 周東佑京

       野村 勇(川瀬 晃 ガルビス 増田 珠 リチャード 野村大樹) 

 外野手…※近藤健介 中村 晃 柳田悠岐 ※ホーキンス 栗原陵矢 正木智也

     柳町 達(佐藤直樹  上林誠知)  

【今シーズン予想~打順】  【今シーズン予想~守備】

  1)三森大貴④      捕 手)甲斐拓也(嶺井博希)

  2)今宮健太⑥      一塁手)中村 晃(アストゥディーヨ)

  3)近藤健介⑦      二塁手)三森大貴(野村 勇)

  4)柳田悠岐DH     三塁手)栗原陵矢(周東佑京)

  5)栗原陵矢⑤      遊撃手)今宮健太

  6)牧原大成⑧      左翼手)近藤健介

  7)中村 晃③      中堅手)牧原大成(柳町 達)

  8)正木智也⑨      右翼手)正木智也(谷川原健太)

  9)甲斐拓也②      D H)柳田悠岐(ホーキンス)          

 投手最大の補強がオスナなら、打者は日本ハムからFA加入の近藤健介(横浜高~11年④)で、楽天を除くパ・リーグ5球団の大争奪戦のうえ獲得した。通算打率は3割を超え、高い出塁率を誇るリーグ屈指の巧打者の加入は間違いなく打線に厚みを増す。

 現段階でレギュラーポジションはほぼ埋まっていると言え、空いているポジションは一塁または右翼と少ない。また、牧原や周東のほかに、野村勇と増田珠(横浜高~17年③)は内外野を守れ、捕手登録の谷川原健太(豊橋中央高~15年③)も外野での出番が多く、チームにユーティリティプレーヤーが豊富で、ポジション獲得は厳しさを増す。

 ポジション別に見ると、捕手は甲斐で決まりのなか、2番手捕手で嶺井博希(亜大~13年D③)が、DeNAよりFA加入した。若手の海野や渡邊陸は、まず嶺井から2番手捕手を奪い返すことが先決になる。内野は二塁の三森、遊撃には今宮、三塁は今季外野からコンバートになる栗原が控え、一塁は中村晃(帝京高~07年③)が本命だが、若手のリチャードや野村大、新外国人のアストゥディーヨで争う。 

 外野は近藤の加入に加え、同じ左打ちの柳町に、ケガから復帰した上林誠知(仙台育英高~13年④)、左投手に強い正木智也(慶大~21年②)もおり、柳田の守備負担を軽減することで、本来のパフォーマンスを引き出す狙いが活かせる。

 不安材料はグラシアルにデスパイネ、松田の右打者の主力が一斉に退団。レギュラーには左打者が多く、甲斐と今宮以外の右打者の成長がポイントになる。野村勇にリチャード、正木、野村大、増田、佐藤と候補は多いだけに、このチャンスをモノにしたい。また、2年目のガルビス、新加入のホーキンスやアストゥディーヨ等、外国人選手に快音が聞こえないのも気がかりだ。

 

FAで近藤と嶺井、有原が復帰し、ガンケルとオスナの80億円補強で優勝大本命

 注目の選手には2人の新加入選手を挙げたい。投手はロッテから加入したオスナで、既にオープン戦でも5イニングで無安打、無失点、奪三振率14.40の驚異的なパフォーマンスを見せている。昨年は途中入団でセットアッパーからのスタートになったが、今季は開幕から守護神を任せられ、冗談なしに日本記録の54セーブ更新に期待がかかる。正直、いまのオスナの投球を見ては打たれるイメージが湧かない。

 野手は近藤健介で、WBCでも2番打者として先発スタメンに名を連ね、チャンスメーカーにもポイントゲッターにもなれる活躍はさすがだ。注目部分はタイトル獲得で、最高出塁率のタイトルは2度あるが、最高打率や最多安打はまだなく、稀代のヒットメーカーとして今季の獲得に期待がかかり。また、長打率もここ5年は4割を超えており、広い札幌ドームから狭いPayPayドームに変わり、本塁打数増も期待できる。

 今年は大型補強で優勝候補の筆頭だが、逆に敵はその「勝って当然」のプレッシャーになるかも知れない。最後に2010年代に圧倒したホークスは、ドラフトと育成、FAのバランスが取れていたが、最近はドラフトと育成の部分が寂しい。入団1年目で育成契約や育成選手も54名いるが、支配下は既に67名は、正直夢がない…。