令和初の甲子園大会は、履正社(大阪)が、好投手・奥川擁する星稜(石川)を下して初優勝を遂げた。春の選抜初戦で、奥川に完全に抑えられた履正社が、見事に攻略した見応えのある決勝戦だった。
一方で、今年のドラフト候補で見ると、各スカウトからは「不作」を通り越して「凶作」とまで言われた。元ヤクルトの名スカウトの片岡宏雄氏も、自分が現役スカウトなら、今年は早々と甲子園を退散すると厳しいものだった。
今年の甲子園に限らず、片岡氏は「体力もあり、技術もあり、まとまりのある選手が多いが、プロとして伸びしろや可能性を感じさせる素材としては物足りない」と述べている。
昨夏のような甲子園組が上位指名を占める豊作ではないが、楽しみな選手はおり、今夏甲子園のドラフト候補選手の今後の動向に注目していきたい。
●ドラフト1位指名は間違いなし、星稜・奥川
今夏の甲子園の最大の注目選手は、大会ナンバー1投手の奥川恭伸(星稜)で決まりだ。前評判以上の完成度の高い投球を見せ、初戦の旭川大戦(北北海道)の頭脳的な投球、3回戦の智弁和歌山の奪三振ショーなど、評価は断トツの特Aで、競合も予想され間違いなく1位で消えるだろう。
同じ1位指名候補では、鈴木寛人(霞ケ浦)の評価が高い。初戦の履正社戦では打ち込まれたが、186センチの長身から角度のあるストレートが魅力の素材型で、外れ1位の可能性なら十分にある。
このほか、前佑囲斗(津田学園)も上位で間違いなく消える選手だ。前も履正社打線に打ち込まれたが、下半身に力強さを感じるパワーピッチャーで、指にかかったときのストレートは素晴らしく、大化けする可能性を秘めている。
上位指名は上記3名が候補になる。下位指名で抑えておきたい選手では、林優樹(近江)、飯塚脩人(習志野)、池田優佑(智弁和歌山)の3人を挙げたい。
林は技巧派の左腕で、速球派が多いなかキレとテンポで勝負するピッチングスタイルは、先発、ワンポイントどこでも可能性を感じる。飯塚は春の大会よりフォームに無駄がなくなり、ストレートで押す投球は中継ぎ・抑えに適性がありそうだ。池田は今夏の大会で一番成長した投手で、ストレートも140キロ後半を計測、制球力も上がった。
このほかに清水大成(履正社)も速球派と技巧派の中間で、左腕不足のチームなら抑えておきたい投手だ。西舘勇陽(花巻東)は、最後まで本調子ではなったがポテンシャルは高く、育成主眼のチームからの指名は十分にある。
下位または育成では、能登嵩都(旭川大)は星稜戦での好投がインパクトを残し、昨夏の沼田(巨人)のように育成なら十分可能性がある。他には谷真之介(関東一)や赤塚健利(中京学院大中京)は、粗削りだが将来性を感じさせる選手だ。
●野手は井上と黒川のスラッガーに注目
野手は残念ながら1~2位指名は厳しい。上位指名の可能性があるのが井上広大(履正社・外野手)と黒川史陽(智弁和歌山・内野手)の2人か。
井上は187センチの数字以上に大きさを感じる選手で、決勝戦で奥川を捉えた3ランは相手の失投を見逃さず、センターに打ち返した姿勢に成長を感じた。右の長距離砲はどの球団でも不足しており、状況によっては上位指名の可能性が十分にある。
黒川は甲子園では残念ながら結果が出なかったが、長打力のあるセカンドはプロでも稀少で、何より何が何でも勝つんだという闘争心とキャプテンシーが技術以上に魅力を感じる。
下位指名では捕手と遊撃手に候補が多い。捕手の一推しは、藤田健斗(中京学院大中京)で、強肩にフットワークの俊敏性、ブロッキングに加え4番で主将と、捕手に必要な要素を兼ね備えている。東妻純平(智弁和歌山)も強肩に加え打撃も良く、タイプの違う投手陣をリードする技術もあり指名は間違いない。
他には山瀬慎之介(星稜)と有馬諒(近江)は、ともに打力に課題が残るが、捕手らしい捕手だ。山瀬はとにかく世代ナンバーワンの強肩で、チャンスの場面でよく打った。有馬は捕手としての総合力の高さが魅力だ。持丸泰輝(旭川大)は、紹介した捕手のなかでは、唯一の左打で打撃センスが良く、近藤(日本ハム)や銀次(楽天)のようにコンバートも面白い。
遊撃では前評判の高い武岡龍世(八戸学院光星)と韮澤雄也(花咲徳栄)がまずまずの結果を残した。武岡は打撃に迷いを感じ、守備以外での成長を感じえなかったが、打撃技術の向上はプロに入ってからでも遅くなく、守備力と走力で見せるセンスは本物だ。韮澤は得意の打撃で実力の片りんを見せ、ともに高校選抜に選ばれており、世界大会での活躍に期待したい。
同じ遊撃手では、石井巧(作新学院)は右打ちで、堅実な守備に打撃でもアピールしたが、1位指名以外は進学が不文律の作新では大学進学になりそうだ。西川晋太郎(智弁和歌山)は走攻守にバランスが取れた選手で、特に守備力が高い。同じ守備力では渋谷嘉人(関東一)の評価も高く、一芸に秀でた西川や渋谷の指名も面白い。
この他に杉田翔太郎(敦賀気比・内野手)は、サイクルヒットで注目を浴びた好打者で、最終打席でサイクルを決める技術の高さと集中力が評価できる。走攻守三拍子揃った齋藤來音(静岡・外野手)と天井一輝(広島商・外野手)も巧打者タイプで、下位~育成なら指名の可能性が十分にある。
スラッガーでは習志野戦で左右に打ち分けた2本塁打を放った丸山蓮(鶴岡東・外野手)と、山梨のデスパイネこと野村健太(山梨学院・外野手)が注目だが、スラッガータイプは育成での大成が難しく、大学・社会人で磨きをかけ3~4年後に期待したい。
【甲子園出場選手の評価まとめ】
1位指名候補~奥川恭伸(星稜・投手)鈴木寛人(霞ケ浦・投手)
上位指名候補~前佑囲斗(津田学園・捕手)武岡龍世(八戸学院光星・内野手)
(2~3位) 黒川史陽(智弁和歌山・内野手)井上広大(履正社・外野手)
中位指名候補~飯塚脩斗(習志野・投手)林 優樹(近江・投手)
(4~5位) 池田陽佑(智弁和歌山・投手)藤田健斗(中京学院大中京・捕手)
山瀬慎之介(星稜・捕手)有馬 諒(近江・捕手)
下位指名候補~清水大成(履正社・投手)西舘勇陽(花巻東・投手)
(6位~) 持丸泰輝(旭川大・捕手)杉田翔太郎(敦賀気比・内野手)
石井 巧(作新学院・内野手)西川晋太郎(智弁和歌山・内野手)
丸山 蓮(鶴岡東・外野手)齋藤來音(静岡・外野手)
育成指名候補~能登嵩都(旭川大・投手)谷真之介(関東一・投手)
天井一輝(広島商・外野手)野村健太(山梨学院・外野手)
最後に、今夏の甲子園を制した履正社だが、初戦で鈴木(霞ケ浦)、次に前(津田学園)、準々決勝で谷(関東一)、準決勝で中森(明石商・2年)、そして奥川と大会を代表する好投手を打ち崩しての優勝は本当に見事だった。
大阪代表は直近10年で実に4度目の全国制覇(大阪桐蔭が3回)だ。まさに大阪を制するものは全国を制するレベルの高さで、かつてのPL学園黄金期ではないが、打倒大阪で各地区の巻き返しに期待したい。