ドラフトを知ると野球がもっと楽しくなる

どのチームが「人」を育て強くなるのか

2019年ドラフト寸評~成功・失敗した球団(前編)

 先日は、単純にリストアップした選手の採点簿を載せましたが、僭越ながら今年のドラフトの寸評をしたいと思います。

 今年の本指名選手は74名で、昨年より9名減。高校生が35名(▲3名)、大学生が25名(▲1名)、社会人・独立リーグが14名(▲5名)で、最多指名は西武の8名、最小はソフトバンク、ロッテ、オリックスの5名だった。

 驚いたのは社会人選手指名の激減で、独立リーグからの本指名が2名から3名に増えたので、単純に6名減だ。特に、社会人野手には厳しい年になり、指名人数わずか2名(昨年5名)は、即戦力選手の不足が反映したドラフトになった。

 育成指名は33名で、昨年より12名増え、オリックスが最多の8名指名し、ヤクルトは最初から育成ドラフトには参加せず、D℮NAはテーブルにはついたものの指名なしだった。 

【12球団ドラフトの評価】

 ◎成功…ロッテ・ヤクルト・広島

 〇合格…阪神オリックス・中日

 △普通…巨人・ソフトバンク・西武

 × 失敗…D℮NA・日本ハム楽天

 

◎ロッテ(95点)

 今年最高のドラフトだったのはロッテだ。ドラフトは1位入札の選手が獲得できれば、ほぼ成功だが、4球団競合のなか令和の怪物・佐々木朗希(大船渡高・投手)を獲得できた。育成の難しさから敬遠した球団もあるが、岩手の公立校の投手が160キロを投げるのだから、これほどスケールの大きい投手はそうそういない。

 ロッテに最高点を付けたのは、2~3位指名もほぼ満点だった。2位の佐藤都志也(東洋大・捕手)は、捕手の最年少が正捕手・田村の25歳で年齢的にもピッタリで、ロッテの捕手で唯一の左打者に加え、走攻守に秀でた打てる捕手はレギュラー候補だ。

 3位の高部瑛斗(国士館大・外野手)は、東都リーグの安打記録を塗り替えた打者で、ロッテに不足している左打ちの俊足選手。年齢バランスでも大学生外野手の獲得が必要で、代走などから徐々に出番を増やしそうな雰囲気がある。

 4位はサイドスロー横山陸人(専大松戸高・投手)で、夏から秋にかけて評価を上げた。5位の福田光輝(法大・内野手は、大阪桐蔭高時代から高い守備力が評価されていたが、大学で打力も開花した。

 強いて言えば、高校生捕手や年齢バランスで大学生投手指名すれば良かったが、1位で将来の大エース候補、2~3位で年齢バランスと、チームに不足しているタイプの選手を獲得した時点で成功ドラフトと言える。

 15年の平沢から始まり、17年の安田、昨年の藤原といずれも競合のなか獲得し、ロッテとしては08年の統一ドラフト以降初めて高校生投手の1位指名になった。ここ数年の流れが活きてくる良いドラフトになり、本当に将来が楽しみなチームだ。

 

◎ヤクルト(85点)

 ヤクルトも今ドラフトの目玉、奥川恭伸(星稜高・投手)を獲得できたのが大きい。チーム防御率は12球団最低で、投手力強化が最優先課題。指名を公言するまで森下で間違いないと思っていたが、高津監督の強い要望で奥川に決まった。

 ヤクルトは年齢バランスも悪く、チームを立て直すには時間が必要だ。ファームの監督らしく、安に即戦力を指名することなく、10年はエースを張れる奥川を指名した姿勢は評価できる。

 1位で奥川を獲れたことで、2位以下で思い切り即戦力の大学生投手を獲得することができた。2位の吉田大喜(日体大・投手)は1位で指名されてもおかしくない投手で、3位で伸びしろもある杉山晃基(創価大・投手)は、個人的に昨年1位の清水よりも杉山のほうが上だと思うので良い指名になった。4位の大西広樹(大商大・投手)は、チームメイトの橋本(中日)に隠れがちだが、タフな右腕で中継ぎで行けそうだ。

 先発で吉田か杉山のどちらかが食い込んでくれば、奥川を焦ることなく育成することができ、今年に限って言えば、投手4名を上位に並べた指名は成功と言える。

 5位の長岡秀樹(八千代松陰高・内野手と6位の武岡龍世(八戸学院光星高・内野手指名も悪くはないが、ともに左打の遊撃手で、俊足巧打の同じタイプの選手を2名獲得したのは疑問が残った。

 残念だったのは、正捕手の中村のライバルがいないなか、今年豊作だった捕手指名がなかったのと、育成がDeNAと並んで指名なしだったことくらいか…。特に育成選手はチームの高齢化も課題の一つで、選手層を厚くするうえでも必要だったと思うが。

 

◎広島(80点)

 正直、阪神と迷ったが、バランスで広島を成功にした。即戦力ナンバーワンと言われた森下暢仁(明大・投手)を、まさか単独指名できるとは思わなかった。即戦力投手を必要としていたヤクルトが下り、西武が下り、最後にD℮NAが下り単独になった。

 かといって森下の評価が下がった訳ではない。最速155キロのストレートにスローカーブ、チェンジアップのコンビネーションは秀逸で、開幕ローテもケガさえなければ問題ないと思う。

 2位の宇草孔基(法大・外野手)は、俊足でパンチ力もある典型的な1番打者で、松山と西川の内野挑戦で、不足する左打の外野手を埋めることができた。5位の石原貴規(天理大・捕手)は守備力の評価が高かったが、4年生になり打撃も成長した。正捕手の曾澤が残留することになり、打撃の良い磯村や坂倉を内外野で使えるプランに目途が立ち、成長著しい石原の指名になった。

 昨年の高校生指名は偏りが気になったが、今年はさすがに修正してきた。3位の鈴木寛人(霞ケ浦高・投手)は、かねてより広島が一番高く評価しており、長身から投げ下ろすストレートとスライダーが武器だ。投手ではもう一人、越前のドクターKこと左腕の玉村昇吾(丹生高・投手)を6位で指名し、インターネット中継を観ていて思わず「巧いな~」とうなってしまった。4位は甲子園でも活躍した韮澤雄也(花咲徳栄高・内野手で、バットコントロールに秀でた好打者が、よく4位まで残っていたと思う。

 育成では高校生捕手と外野手、独立リーグからサイドスローの投手を獲得し、戦力補強、戦略、年齢とバランスの取れたドラフトだった。

 

阪神(80点)

 終わってみれば、甲子園で活躍した高校生を5名指名し、思わず「日本ハムか?」と見間違える育成重視のドラフトで、チームの意思という面では、ロッテと同じくらいの最高点を付けたい。

 1位は予想通りに奥川(ヤクルト)を指名し、抽選で外すと高校BIG4の一角、西純矢(創志学園高・投手)を、これも意外だったが単独の外れ1位指名で獲得できた。昨年も1位で藤原(ロッテ)→辰巳(楽天)と外したあとに近本と外野手指名を貫き、今年も将来のエース候補指名を続けた姿勢は評価でき、チームとしての覚悟を感じた。

 西のあとの2位は、将来の4番候補で井上広大(履正社高・外野手)を指名し、木製バットの対応と守備に時間がかかりそうだが、天性のスラッガーで、ここは大学に行ったつもりで、3~4年後の主軸を目指してじっくり育ててほしい。

 3位で高校BIG4の及川雅貴(横浜高・投手)を獲得できたのも大きい。制球力が課題で評価を落としたが、最速153キロを投げる左腕はそういない。将来は西と左右のWエースを組める可能性もあり、阪神ファンに限らず期待が膨らむ。4位で遠藤成(東海大相模高・内野手、5位で藤田健斗(中京学院大中京高・捕手)と投手は左右、捕手と内外野をそれぞれ1名ずつの偏りのない指名になった。

 最後の6位は、唯一の大学生・小川一平東海大九州・投手)で、今年はやや調子を落としているが、昨年なら上位候補の投手で6位で指名できたのは収穫だった。

 これだけ見ると十分合格だが、野手の空白地帯の20歳~22歳と、課題の長打力を打てる即戦力指名がなく広島を上にした。ただ、甲乙つけがたい良いドラフトだった。

 

オリックス(75点)

 最後まで1位指名が分からず、佐々木(ロッテ)だと思っていたところに、石川(中日)を指名し、外すと即戦力左腕の河野(日本ハム)に行き、ここでも外すと宮城大弥(興南高・投手)で1位指名が確定した。宮城は投手として総合力の高い左腕で、中継ぎやワンポイントなら直ぐに出番がありそうだ。一番良いのは大舞台でも物怖じしないハートの強さで、外れ外れ1位とは言わせない活躍が期待できる。

 1位指名だけ見ると、「将来性のある野手→即戦力投手→将来性のある投手」とブレまくりの感があり、2回も抽選を外すと全体の戦略もおかしくなるところだが、見事に2位以降の指名でリカバリーしたのを高く評価した。

 その2位は紅林弘太郎(駿河総合高・内野手で、高校通算40本の大型遊撃手だが、打撃以上に守備と強肩が評価され、紅林の2位指名で石川指名が活きてきた。今年は好投手が多く、野手の指名順位が上がるのを予見した紅林の2位指名は見事だった。

 3位の村西良太(近大・投手)は、大学で成長したサイドスローの速球派で、オリックスにはいないタイプの投手で出番も早そうだ。4位の前佑囲斗(津田学園高・投手)は、パワーピッチャーながら制球力に優れたエース候補で、同じ4位指名だったエース山本に続きたい。5位の勝俣翔貴(国際武道大・内野手は、オリックスの欲しかった強打の三塁手で、昨年の中川のような下位指名の掘り出しものになるかもしれない。

 驚いたのは十八番の社会人指名が11年振りになく、育成選手を最多の8名を指名したことで、榊原や神戸の成功に自信を持った顕れだろう。反面残念だったのは、今年豊富だった捕手指名がなかったことで、空白年代を埋められなかったのは勿体なかった。

 

〇中日(75点)

 最初の感想は、かつての中日の姿勢が戻ってきたなと思わせる指名だった。かねてより奥川指名を公言していたが、長打力が不足しているチームのなか、石川昴弥(東邦高・内野手だろうと思っていたので、1位指名は嬉しかった。

 その石川だが、今夏までなら2位でも獲れただろうが、木製バットを苦にしないU-18の活躍を見て一気に評価が上がった。今年の村上(ヤクルト)のように、多少の成績には目をつぶってでも、長所を伸ばす育成プランと起用が良いのかなと思う。

 2位以降も悪くはないが、やや不満が残る。2位で橋本侑樹(大商大・投手)を指名したが、なぜ地元の即戦力右腕の立野(日本ハム)をスルーしたのか…3位で岡野祐一郎(東芝・投手)を指名するなら、益々2位は立野だろうと思った。

 ただ橋本は大学で力をつけた左腕で、伸びしろ十分だ。岡野はやっとプロ入りできたというのが率直な感想で、制球力と投球術に長けており、ともに先発と中継ぎのどちらに適性があるか楽しみな即戦力投手だ。4位の郡司裕也(慶大・捕手)指名は良かった。強肩強打に加え、一言で言うと頭の良い選手で、年齢的にも必要な選手だった。

 5~6位は高校生指名で、5位の林勇希(菰野高・投手)は投手としての素質も素晴らしいが、俊足で長打力もあるので将来的には野手なのかなと思う。6位の竹内龍臣(札幌創成高・投手)は、私の地元の高校からの指名で嬉しかったが、札幌市内でもそこまで名前が広がっていなく、良くて育成かなと思っていただけに本指名には驚いた。

 唯一の育成指名の松田亘哲(名古屋大・投手)は、大学から野球を再開した投手で、竹内や松田みたいな無名の選手の指名があるからこそドラフトは改めて面白い。