ドラフトを知ると野球がもっと楽しくなる

どのチームが「人」を育て強くなるのか

2024年ドラフト寸評~大学BIG4に1位指名が集中!大学生も素材型が多く評価は2~3年後

 今年は大きなサプライズもなく「大学BIG4」に1位指名が集中した。一部では即戦力不足の「不作」と呼ばれたドラフトだが、大学生投手が「豊作」と言われた昨年は、結果としてシーズンを完走できたのは武内夏暉(国学院大~西武)と古謝樹(桐蔭横浜大楽天)くらいで、草加勝(亜大~中日)と西舘昂汰(専大~ヤクルト)は入団早々ケガで二軍登板すらままならず、西舘は今オフ育成契約を打診されており、前評判ではなく中期的なスパンで見る必要を改めて感じた。

 支配下選手の指名は、昨年より3名減の69名。内訳は高校生22名(▲2名)、大学生26名(▲2名)、社会人・独立リーグ21名(▲1名)で、3年連続で大学生が高校生を上回った。育成は4名増の54名で、指名総数は123名(+1名)になった。最多指名は西武の7名で、最少はヤクルトと広島、阪神、巨人の5名だった。

【24年ドラフトの概要】

 1)1位指名抽選の結果

    ①宗山 塁/明大・内野手(西武、楽天、広島、日本ハムソフトバンク

    ②金丸夢斗/関大・投手(中日、DeNA、阪神、巨人)

    ③西川史礁/青学大・外野手(オリックスロッテ

   2回目

    ④石塚裕惺/花咲徳栄高・内野手(西武、巨人

    ⑤柴田獅子/福岡大大濠高・投手(日本ハムソフトバンク

 2)独立リーグからは17名(▲5名)が指名され減少したが、今季NPBに加入し  

   たオイシックスとくふうハヤテから各1名の指名があった。

 3)明大が同一チーム史上最高を更新する15年連続の指名。ちなみに来年も高須大

   雅(投手)上位指名候補で記録更新継続の可能性が高く、徳島インディゴソック

   スも12年連続の指名を受けている

●中日とヤクルトが会心のドラフト、連覇を逃した阪神オリックスは即戦力重視

 ドラフトは1位指名が獲得できれば成功と言え、今年で言えばBIG4を獲得できた中日とヤクルト、楽天とロッテが1位指名を獲得したが、そのなかで中日とヤクルトは会心のドラフトになったと思う。大成功も大失敗もないが、戦略と補強の意図がハッキリと分かるチームと見えないチームの差がでた。

 今年は高校生が下位指名になったが、今年の高校生には本格派右腕と遊撃手に好素材が多く、一方で即戦力が少ないために高校生の順位が下がった。また、大学や独立リーグも集中から分散になり指名が多様化し、投手なら総合力よりも真っ直ぐの早さや変化球の精度、野手も走攻守三拍子より、守りや走塁、遠くに飛ばせるなど一芸に秀でた選手の指名が目立った。

 個人予想では、指名予想の100名中64名が指名を受け、昨年より▲3名で年々難しくなっています。 

【12球団ドラフトの評価】

 S…なし

 A…中日、ヤクルト

 B…西武、楽天、ロッテ、ソフトバンク、巨人

 C…広島、DeNA、日本ハム阪神

 D…オリックス

 

★西武(B⁻)

 宗山と石塚を1位指名で外したが、遊撃手1位の方針は変わらず斎藤を獲得した。また、13番目の指名で渡部を2位指名で獲得できたのも大きかった。斎藤は守備力が高く、パンチ力もある右打者でポスト源田が期待できる。渡部は長打力に加え機動力も使え、外野はレギュラー不在だけに期待値は高い。また、隠し球的な指名だが4位の林冠臣と7位の古賀も長打が売りの選手で、貧打線解消のため野手主体の指名になった。

 決して戦力が万全ではないなか、高校生を4名を指名し、将来性を見据えた姿勢は評価できるが、渡部以外はいずれも素質型で、投手も含め即戦力がもう少し欲しかった。

 ①斎藤大翔(金沢高・内野手)   ⑤篠原 響(福井工大福井高・投手)

 ②渡部聖弥(大商大・外野手)   ⑥龍山 暖(エナジック高・捕手)

 ③狩生聖真(佐伯鶴城高・投手)  ⑦古賀輝希(千曲川硬式野球クラブ・内野手

 ④林 冠臣(日本経済大・外野手)育①富士大和(大宮東高・投手)ほか6名

☆中日(A⁺)

 4球団競合のなか金丸を引き当て、2位で技巧派の吉田とタイプの違う2人の即戦力左腕を獲得でき、主力投手の高齢化や小笠原のMLB移籍の可能性があるなか的確な補強になった。また、下位ながら高橋と有馬の左右の将来のエース候補の指名もでき、4位で即戦力捕手の石伊が残っていたのも大きく、バッテリー強化の目的は達成できた。

 一方で攻撃陣が課題のなか、野手は石伊のほかに高校通算48本塁打の森と育成の中村の指名に留まり、年齢構成で必要だった高校・大学生の外野手の指名がなかったのは勿体なかった。ただ、全般的に欲しい選手が獲得でき、会心のドラフトになったと思う。

 ①金丸夢斗(関大・投手)     ⑤高橋幸佑(北照高・投手)

 ②吉田聖弥(西濃運輸・投手)   ⑥有馬恵叶(聖カタリナ高・投手)

 ③森 駿太(桐光学園高・内野手)育①中村奈一輝(宮崎商高・内野手

 ④石伊雄太(日本生命・捕手)  育②井上剣也(鹿児島実高・投手)

オリックス(D⁺)

 昨年は見事なドラフトだったが、3連覇を逃した途端に即戦力中心の可もなく不可もないドラフトになってしまった。麦谷はリーグ戦で本塁打王も獲得するパンチ力はあるが、どちらかと言うとリードオフマンタイプで、4位の山中も広角に長打を打てるが中軸候補とは言い難く、補強ポイントには合ってはいるが中軸候補が欲しかった。

 投手も山本と山崎福の穴を埋められなかった反省から、山口以外は即戦力投手中心の指名になり、高校生を中心に据えることが出来ない余裕の無さを感じた。トラブルがあったとは言え、異例の20分中断が思うような指名にならなかったことを示唆している。

 ①麦谷祐介(富士大・外野手)   ⑤東山玲士(ENEOS・投手)

 ②寺西成騎(日体大・投手)    ⑥片山楽生(NTT東日本・投手)

 ③山口簾王(仙台育英高・投手) 育①今坂幸暉(大院大高・内野手)ほか5名

 ④山中綾真(三菱重工ウエスト・捕手)

☆ヤクルト(A⁻)

 全体的に補強ポイントに合ったドラフトではなかったが、上位指名が秀逸でA評価とした。1位で宗山や金丸がいなければ、競合必至だった中村を単独指名でき、2位でスラッガーのモイセエフ、3位でリリーフ左腕の荘司の即戦力投手を獲得できた。特に中村はリリーフの適性もあり、起用法に注目したい。

 一方で高校生投手の指名は育成でもなく、村上のMLB移籍に備えた中軸候補の内野手獲得が今年も無く、青木と山崎引退による外野手の補強など喫緊の課題対応も進まず、相変わらず支配下指名を5位で終えたのは今年も勿体なかった。

 ①中村優斗(愛工大・投手)    ④田中陽翔(健大高崎高・内野手) 

 ②モイセエフ・ニキータ(豊川高・外野手)  ⑤矢野泰二郎(四国IL愛媛・捕手)

 ③庄司宏太(セガサミー・投手) 育①根岸辰昇(ノースカロライナ州大・内野手)ほか3名

楽天(B)

 5球団競合のなか宗山を獲得でき、2位で即戦力左腕の徳山を指名した時点で成功ドラフトを予感させたが、3位以降の意図が分からなかった。

 野手は宗山に吉納、陽柏翔は全員左打ちで、特に外野手は右打ちが不足しているだけに補強は必須だった。また、今年も捕手の指名がなく、支配下が5名の状況に手を打たない姿勢が不思議でならない。四国アイランドリーグ最優秀防御率の中込や、即戦力の江原は良い選手だが、将来のエース候補と呼べる高校生投手指名が育成含めなく、1~2位指名が順調だっただけに、3位以降は将来性重視の指名になっても良かった。

 ①宗山 塁(明大・内野手)    ⑤吉納 翼(早大・外野手)

 ②徳山一翔(環太平洋大・投手)  ⑥陽 柏翔(BC茨城・内野手

 ③中込陽翔(四国IL徳島・投手)育①岸本佑也(奈良大高・内野手

 ④江原雅裕(日鉄ステンレス・投手) 

☆広島(C⁺)

 今年は12球団で唯一、宗山の1位指名選手を公表したが抽選で外し、次の1位指名に注目していただがまさかの佐々木指名に驚いた。当然、佐々木も良い選手に間違いないが、同じ右打ちのスラッガーなら渡部聖弥(西武)のほうが打撃の確実性が高く、宗山の高校時代のルームメイトだった地元の渡部指名を予想しただけに意外だった。

 投手は補強が必要な大学生左腕で2位の佐藤、高校生投手で5位の菊池を獲得し、中軸候補の佐々木に4位でアベレージヒッターの渡辺と補強ポイントをしっかり埋める戦略は見事だった。ただ、全般的に素材型の指名で、特に野手の即戦力が欲しかった。

 ①佐々木泰(青学大内野手)   ④渡辺悠斗(富士大・内野手

 ②佐藤柳之介(富士大・投手)   ⑤菊池ハルン(千葉学芸高・投手)

 ③岡本 駿(甲南大・投手)   育①小船 翼(知徳高・投手)ほか2名

ロッテ(B⁺)

 即戦力左腕の金丸、課題の遊撃手で宗山や石塚と1位候補が多いなか、選択したのは和製大砲候補の西川で、オリックスとの競合の末獲得できた。期待の若手野手が伸び悩んでいるなか、走攻守揃った西川の加入は刺激になるだろう。2位の宮崎、6位の立松の即戦力野手も補強というよりは競争を促す指名で、これまでとは違う意図を感じる。

 投手は一條に坂井、廣池はいずれも最速150キロを超える本格派右腕で、いずれも将来性が期待できる。一方で的確な補強とは言えず、不足している左腕投手や高校生の野手指名がなく、宮崎は2位以下でも獲得できた可能性が高く順位にも疑問が残った。

 ①西川史礁(青学大・外野手)   ⑤廣池康士郎(東海大九州・投手)

 ②宮崎竜成(ヤマハ内野手)   ⑥立松由宇(日本生命内野手

 ③一條力真(東洋大・投手)   育①谷村 剛(和歌山東高・内野手)ほか2名  

 ④坂井 遼(関東一高・投手)

☆DeNA(C)

 昨年の野手中心の指名から、今季は予想通り投手中心のドラフトになり2年でチーム編成を是正した。投手力強化のなか1位で即戦力社会人の竹田、2位で篠木指名は間違いではないが、支配下で高校生投手指名ゼロは評価できない。特に2位指名ではこの時点で地元の藤田硫生(日本ハム)が残っており、将来性やスケール感が不足している。

 野手の指名も悪くはないが、3位の加藤、5位の田内は年齢こそ違うものの、いずれも強肩強打の右打ちのの遊撃手で、同じタイプの選手を指名した必要性を感じず、一芸に秀でた選手の獲得など、選手層は厚いだけに良い意味でチャレンジしても良かった。

 ①竹田 祐(三菱重工エスト・投手)⑤田内真翔(おかやま山陽高・内野手

 ②篠木健太郎(法大・投手)     ⑥坂口翔楓(国学院大・投手)

 ③加藤 響(四国IL徳島・内野手)育①小針大輝(日大鶴ケ丘高・外野手)

 ④若松尚輝(四国IL高知・投手)                  ほか2名

日本ハム(C⁺)

 5球団競合の宗山は外したものの、水野達稀が一人立ちしそうななか、投打二刀流の柴田は1位単独指名も予想されていただけに戦略の見直しは必要なかった。驚いたのはその後で、2位で藤田、4位の清水の将来性豊かな高校生投手を上位指名した。

 一方、支配下6名中5名が投手指名になり、5位の山縣も守備型の遊撃手で、若手野手が成長しており守りを固める意図は理解できる。ただ、年齢構成で補強が必要な高校生野手(捕手/外野手)の指名がなく、戦力が充実している今だからこそ野手の高校生指名が必要だったと思う。また、今年も支配下で道内選手の指名無しは残念だった。

 ①柴田獅子(福岡大大濠高・投手)  ⑤山縣 秀(早大内野手

 ②藤田硫生(東海大相模高・投手)  ⑥山城航太郎(法大・投手)

 ③浅利太門(明大・投手)     育①川勝空人(生光学園高・投手)

 ④清水大暉(前橋商高・投手)   育②渋谷純希(帯広農高・投手)

阪神(C)

 藤川新監督初のドラフトは、即戦力投手が最優先だったようで、金丸を抽選で外した後は社会人ナンバーワン左腕の伊原に切り替えた。2位で将来のエース候補の今朝丸を獲得した。また、今オフは大山や坂本のFA移籍の可能性もあり、4位で打てる捕手の町田、5位で広角に打てる遊撃手の佐野を獲得し、的確な補強になった。

 ファームで有望な若手が育っており、今季は大卒・社会人指名中心になるのは理解できるが、この間将来性を重視した指名だっただけに、支配下5名の指名であれば高校生投手や捕手を獲得しても良く、新監督の意向が強く反映されたドラフトになった。

 ①伊原陵人(NTT西日本・投手)  ④町田隼乙(BC埼玉・捕手)

 ②今朝丸裕喜(報徳学園高・投手)  ⑤佐野太陽(日本海L富山・内野手

 ③木下里都(KMGホールディングス・投手)育①工藤泰成(四国IL徳島・投手)ほか3名

ソフトバンク(B)

 今年も残念ながら1位指名を抽選で外し、3度目の指名で村上を獲得した。ただ、村上は投手経験は浅いが最速150キロを超える本格派右腕で、昨年1位の前田と合わせ将来のエース候補になれる。同じく投手では、先発右腕が不足しているなか、3位で安徳、6位で岩崎を指名し、ともに先発もリリーフもできる。

 野手では2位で宗山と同じ左打ちの遊撃手の庄子、4~5位で宇野と石見の遊撃手を獲得し、宇野は右打ちのスラッガー、左打の石見も長打力はあり外野も守れる。的確に補強ポイントを埋めて、1位指名を2度外したが見事にリカバリーした。

 ①村上泰斗(神戸弘陵高・投手)   ⑤石見颯真(愛工大名電高・内野手

 ②庄子雄大(神奈川大・内野手)   ⑥岩崎峻典(東洋大・投手)

 ③安徳 駿(富士大・投手)    育①古川 遼(日本学園高・投手)ほか12名 

 ④宇野真仁朗(早実高・内野手)         

☆巨人(C⁻)

 左投手が不足しており、1位で金丸指名は予想通りだったが、2度目の1位でポスト岡本で石塚を抽選の末で獲得した。昨年はオール大学生・社会人だっただけに、1位石塚は評価できたが、1~3位オール内野手指名は理解できず、捕手や外野手も必要のなか、今年も傾倒してしまった。特に2位の浦田は俊足巧打で堅守の遊撃手だが、吉川と門脇の同じタイプの選手がおり、昨年も泉口を獲得しており意図が分かり難かった。

 5位で前評判の高い左投手の宮原を指名できたのは幸運だったが、4位の石田はこの間、巨人で巧く育成できていないタイプなだけに疑問の多いドラフトだった。

 ①石塚裕惺(花咲徳栄高・内野手)  ④石田充冴(北星学園大高・投手)

 ②浦田俊輔(九産大内野手)    ⑤宮原駿介(東海大静岡・投手)

 ③荒巻 悠(上武大・内野手)   育①坂本達也(富士大・捕手)ほか5名 

 最後に、個人的に注目している育成選手を各チームから1名ずつ挙げたい。投手では広島1位の小船と日本ハム1位の川勝は最速150キロを超える本格派右腕で、DeNA2位の吉岡暖(阿南光高・投手)は、川勝と徳島でしのぎを削ったライバルで、次は支配下を狙う競争になる。西武4位の佐藤爽(星槎道都大・投手)は安定感抜群の先発左腕で、ヤクルト2位の廣澤優(四国IL愛媛・投手)は、高校~社会人と2度の指名漏れから独立リーグにステージを移し、阪神3位の早川太貴(くふうハヤテ)も昨年の指名漏れから、公務員を退職しプロの門を拓いた。

 野手では、巨人1位の坂本は、高い盗塁阻止率を誇る強肩捕手で、リードにも定評がある。ロッテ1位の谷村とソフトバンク2位の曽布川ザイレン(浜松商高内野手)は長打力が売りの将来の中軸候補。オリックス4位の寺本聖一(広島経大・外野手)も小柄ながら高校時代から注目されていたスラッガー楽天1位の岸本は堅守で鳴らした遊撃手で、チームでは貴重な右打ちなだけに早期の支配下登録が期待できる。