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どのチームが「人」を育て強くなるのか

19年のドラフトを振り返る~5年目の今季、チームに貢献する選手は?

 昨シーズン5年目を迎えた18年ドラフト組は、投手では小島和哉(ロッテ)と戸郷翔征(巨人)がエース格に成長し、清水昇(ヤクルト)と島内颯太郎(広島)は中継ぎでタイトルを獲得している。野手では近本光司(阪神)の活躍がずば抜けており、最多安打盗塁王は4度獲得しており、3年連続でベストナインゴールデングラブ賞に選手されている。

【18年指名の主力選手】※は現在育成契約

 投 手…甲斐野央(東洋大ソフトバンク①)清水 昇(国学院大~ヤクルト①)

       松本 航(日体大~西武①)島内颯太郎(九共大~広島②)

       小島和哉(早大~ロッテ③)大貫晋一(新日鉄住金鹿島~DeNA③)

       戸郷翔征(聖心ウルスラ高~巨人⑥)※森脇亮介(セガサミー~西武⑥)

 捕 手…太田 光(大商大~楽天②)

 内野手…小園海斗(報徳学園高~広島①)野村佑希(花咲徳栄高~日本ハム②)

       木浪聖也(ホンダ~阪神③)中川圭太(東洋大オリックス⑦)

 外野手…辰巳涼介(立命大~楽天①)近本光司(大阪ガス阪神①)

 また、5年目の昨季にブレイクした選手も多かった。代表格は頓宮裕真(亜大~オリックス②)と万波中正(横浜高~日本ハム④)で頓宮は首位打者を獲得し、万波もリーグ2位の25本塁打を放った。このほか山口航輝(明桜高~ロッテ④)と小郷裕哉(立正大~楽天⑦)も初の規定打席をクリアし、小郷は今季1番打者としてチーム牽引している。また、佐藤龍世(冨士大~西武⑦)に田宮裕涼(成田高~日本ハム⑥)は今季のブレイク候補として存在感を増している。

 投手では鈴木翔天(冨士大~楽天⑧)がチーム最多の61試合に登板し、坂本光士郎(新日鉄住金広畑~ヤクルト⑤→ロッテ)と福田俊(星槎道都大~日本ハム⑦)も主戦としてキャリアハイの成績を残した。

令和の怪物・佐々木朗希と甲子園のヒーロー奥川恭伸に注目が集まった19年

 前置きが長くなったが、そろそろ19年のドラフトを振り返ってみよう。19年は西武がリーグ2連覇を果たすものの、2年連続CSでソフトバンクに敗れ、そのソフトバンクが、セ・リーグ優勝の巨人を4連勝で圧倒し日本一に輝いた。

 19年ドラフトの目玉は、令和の怪物と言われた佐々木朗希(大船渡高)と甲子園準優勝投手の奥川恭伸(星稜高)の超高校級右腕に、甲子園でも活躍した石川昂弥(東邦高)井上広大(履正社高)の両スラッガー、俊足巧打の森敬斗(桐蔭学園高)など高校生に逸材が揃った。

 大学生では、高校時代から注目されていた森下暢仁(明大)を中心に、吉田大喜(日体大)や津森宥紀(東北福祉大が上位候補に挙がり、佐藤都志也(東洋大海野隆司(東海大など捕手に好素材が揃った。

 社会人では宮川哲(東芝野和明(東海理化)、太田龍JR東日本)、河野竜生(JFE西日本)など即戦力投手が揃った。

 結果、1位入札指名では、佐々木朗希には日本ハム・ロッテ・楽天・西武の最多4球団が指名し、奥川恭伸にはヤクルト・阪神・巨人、高校ナンバーワンスラッガーと言われた石川昂弥にもオリックス・中日・ソフトバンクの3球団が競合した。残る2球団はいずれも単独指名で、広島は難なく森下暢仁を指名し、DeNAは森敬斗を獲得した。

 佐々木を外した日本ハムは河野竜生、西武は宮川哲をそれぞれ競合の末に獲得し、楽天は俊足巧打の小深田大翔(大阪ガス内野手を単独で指名した。奥川を外した阪神西純矢(創志学園高・投手)、石川を外したソフトバンク佐藤直樹JR西日本・外野手)を獲得。抽選を2度外したオリックス宮城大弥(興南高・投手)、巨人は堀田賢伸(青森山田高・投手)を指名し1位指名は終了した。

 支配下では74名が指名され、5年目を迎える前に13名の選手がNPBを去っている。また、ソフトバンクの佐藤を始め、11名の選手が支配下から育成契約になっており、佐々木や宮城など若きWBC代表選手がいるなか、結果的には物足りないドラフトになった。

 5(大成功)…なし

 4(成 功)…オリックス、ロッテ、ソフトバンク

 3(及第点)…ヤクルト、中日

 2(今一つ)…広島、阪神楽天、DeNA

 1(失敗…)…日本ハム、西武、巨人

●投打の主力を獲得したロッテとオリックスソフトバンクは投手の活躍が光る

 大成功とは言わないが、現段階でこの年の一番の成功はロッテと言える。史上最年少で完全試合を達成した1位の佐々木朗希が着実にエースの階段を上り、4位の横山陸人(専大松戸高/投手)も昨年初勝利、初セーブを上げポスト益田直也のクローザー候補に成長した。また、ケガで離脱しているが育成1位の本前郁也(北翔大/投手)も通算で4勝を上げ復帰が待たれる。

 野手では2位の佐藤都志也が今季は3割を超える打撃で好スタートを切り、3位の高部瑛斗(国士館大/外野手)はケガで一軍が1年以上遠ざかっているが、22年には盗塁王ゴールデングラブ賞を獲得しており復帰が待たれる。さらに移籍組だが、オリックス育成6位の元気印・大下誠一郎(白鷗大/内野手もおり、19年組の活躍は頭一つ抜けており、佐々木に佐藤、横山は今季キャリアハイの更新が期待できる。

 ソフトバンクも良いドラフトになった。投手では3位の津森宥紀が通算166試合に登板し10勝(10敗)54ホールドは見事な成績で層の厚いリリーフ陣の勝ちパターンの一角を担っている。育成2位の大関友久(仙台大/投手)開幕投手も務め、通算12勝を上げ、今季は規定投球回数のクリアが期待できる。野手では5位の柳町達(慶大/外野手)の活躍が光り、19年のドラフトを見ていた際、津森と柳町の順位の低さに驚いたが、期待通りの活躍を見せている。

 ただ、柳町はシュアな打撃で昨年はキャリアハイの116試合に出場したが、今年はチームが絶好調のなか一軍から声が掛からない。一方、2位の海野隆司は、正捕手の甲斐拓也の控えとして、第2の捕手として一軍に帯同し、出場機会が徐々に増えている。

 量的には不足しているが、オリックスも成功と言える。とにかく1位の宮城大弥は外れ外れ1位ながら、4年で35勝(17敗)を上げ山本由伸が移籍した今季はエースとしてチームを支えている。2位では中央では無名だった大型遊撃手の紅林弘太郎(駿河総合高/内野手を指名し、紅林は2年目より遊撃のレギュラーを獲得し、リーグを代表するショートとして着実にレベルアップしている。 

●下位指名が大活躍のヤクルト、中日は高校生野手が主力に成長で及第点

 及第点はヤクルトと中日で、ヤクルトは上位指名選手が軒並み不振のなか、4位の大西広樹(大商大/投手)は中継ぎとして、昨年はキャリアハイの46試合(通算127試合)に登板し、昨年から勝ちパターンの一角を担っている。

 一番の成功は5位の長岡秀樹(八千代松陰高/内野手で、3年目に自慢の堅守で遊撃のレギュラーを掴むと、22年にはゴールデングラブ賞を獲得し、今季は課題の打撃も向上し不動のレギュラーが見えてきた。6位の武岡龍世(八戸学院光星高/内野手も長岡に後れを取ったものの、昨年はキャリアハイの40試合に先発出場し、ポスト山田哲人二塁手候補として期待値は高い。

 復活が待たれるのが奥川恭伸で、2年目に9勝を上げてエース誕生を期待されたが、22年以降は1試合登板に留まっており、奥川が復帰し、長岡と武岡の同期の二遊間が形成できれば一気に成功ドラフトになる。

 中日は石川昂弥が、昨年初の規定打席をクリアし、85試合で4番に座り13本塁打を放った。その石川を上回る成績が6位の林勇希(菰野高/外野手)で、3年目に自慢の巧打と俊足を活かした守備、元投手の強肩の走攻守揃ったプレーでレギュラーを獲得すると、22年には最多安打、2年連続でベストナインゴールデングラブ賞を受賞しチームの顔に成長した。

 勿体なかったのは現在、日本ハムで活躍中の4位の郡司裕也(慶大/捕手)で、元々打撃に定評のある選手で、チームは打撃が課題だっただけに悔いが残る、ただ、トレード自体は大成功で、郡司との交換で入団した斎藤剛記は貴重なリリーフ、宇佐見真吾も勝負強い打撃でチームに欠かせない存在になっている。

●投手の奮闘が光る広島とDeNA、阪神楽天は高校生選手が伸び悩み

  ここからは今一つのドラフトになる。広島は1位の森下暢仁が、期待通りの投球を見せ、新人王を獲得し、通算37勝を上げエース格に成長した。玉村昇悟(丹生高/投手)も高卒6位指名ながら通算9勝を上げ、ローテーション定着が期待される。ただ投手は成功だが、野手は伸び悩み、2位の宇草孔基(法大/外野手)や5位の石原貴規(天理大/捕手)は、年齢的にも今季は結果を残さないと後が厳しくなる。

 1位から5位まで高校生を指名した阪神も、広島と同様に投手陣はまずまずだが野手は今ひとつと言える。1位の西純矢は先発で通算12勝、3位の及川雅貴(横浜高/投手)はリリーフで73試合17ホールドを上げている。ただ、厚い投手陣に阻まれ中々一軍定着とはなっていない。野手は2位の井上広大と育成1位の小野寺暖(大商大/外野手)の2人しか一軍出場がなく、高校生主体でまだ判断するには早いが、こちらもレギュラー陣が強固なだけに出番が限られている。

 楽天は1位の小深田大翔が1年目からレギュラーを獲得し、俊足を活かし盗塁王のタイトルも輝いた。ただ、2位以降が伸び悩んでおり、6位の瀧中瞭太(ホンダ鈴鹿/投手)は先発ローテーションを任される時期もあったが一軍定着とはいかず、2位の黒川史陽(智弁和歌山高/内野手や4位の武藤敦貴(都城東高/外野手)も期待の若手のまま5年目を迎えた。ただ、黒川と武藤は楽天に多い左打者で似たり寄ったりの選手が多く気の毒な点もあり、他球団なら…とつい思ってしまう。

 DeNAは高校生2名が僅か3年で退団するなか、3位の伊勢大夢(明大/投手)が一人奮闘して、通算201試合登板は19年のドラフト組では最多登板で、まさしく鉄腕としてチームを支えている。意外だったのは1位の森敬斗の不振で、ここまで打撃で苦労するとは思わなかった。今季は同級生の石上泰輝(東洋大~23年④)が遊撃で開幕スタメンを掴むなか、森は二軍スタートになり奮起が期待される。2位の坂本裕哉(立命大/投手)と6位の蝦名達夫(青森大/外野手)も一軍半を抜け切れていない。

指名したほとんどが退団の日本ハム…西武と巨人も在籍選手の活躍が不足…

 先ずは日本ハムだが、僅か4年で支配下7名中4名が既に退団し、1名は育成契約になっている。さらに育成指名の3選手全員が支配下になったが、こちらも全員が退団しており、在籍しているのは1位の河野竜生と4位の鈴木健矢(ENEOS/投手)だけで、この2人の活躍がせめての救いだ。

 西武は日本ハムとは違い、指名した8名全員がNPBに在籍しているが、1位の宮川哲はトレードでヤクルトへ移籍し、3位の松岡洸希(BC武蔵/投手)は現役ドラフトで日本ハムへ移籍(現在は育成契約)し、松岡以外に3選手が育成契約になっている。結果、支配下でチームに残っているのは2位の浜屋将大(三菱日立PS/投手)と5位の柘植世那(ホンダ鈴鹿/捕手)、8位の岸潤一郎(四国IL徳島/外野手)だけでは寂しい。ただ、柘植と岸は一軍で活躍し、チャンスの多いチーム状況だがレギュラー獲得には至っていない。

 巨人も現状は厳しい…。19年は高校生主体のドラフトになったが、1位の堀田賢伸と4位の井上温大(前橋商高/投手)は育成契約を経て、現在は支配下だが2名とも通算11試合登板で堀田は2勝、井上は1勝では戦力になり切れていない。5位の山瀬慎之介(星稜高/捕手)も強肩は折り紙つきだが、打撃がサッパリで全体と比較しても失敗ドラフトと言われても仕方ない。

 上位指名は別として、投手ならロッテの横山や広島の玉村、野手ならヤクルトの長岡や武岡、中日の岡林はいずれも4位以降の指名だが、活躍は勿論のこと将来の主力として期待値を感じるが、残念ながら巨人にはその期待値も感じない。堀田も井上も将来性のある選手で、少し我慢して起用して大きく育て欲しいと思うのは私だけだろうか。