ドラフトを知ると野球がもっと楽しくなる

どのチームが「人」を育て強くなるのか

21年戦力分析☆中日~投手を中心にした守りの野球で、今年は優勝候補の一角

 ついに8年振りのAクラスを確保し、暗黒時代に出口が見えた。昨シーズンも序盤は最下位に沈み、代打で野手を使い果たし、投手を送るなど歴史に残る謎采配で頭を抱えたファンも多かった。しかし8~9月を勝ち越すと、終盤7連勝で貯金5でフィニッシュした。特にDeNAとヤクルトのお得意球団を作れたのが大きかった。

 躍進の要因は投手陣で、エース大野雄大(佛教大~10年①)が、2年連続最優秀防御率奪三振のタイトルに合わせ沢村賞も獲得した。完投の少なくなった昨今、20試合で10完投は見事だった。リリーフ陣も中盤から、祖父江大輔トヨタ自動車~15年③)~福敬登(JR九州~15年④)~Rマルティネスの「ダイフクマル」と呼ばれる勝利の方程式が確立され、6回終了時点でリードした試合は27連勝と確実に勝ちパターンをものにできるようになった。

 一方で野手陣は、リーグ最下位の得点数で課題が残った。広いナゴヤドーム本塁打数もリーグ最下位、では機動力を活用したいところだが盗塁もリーグ5位の33では、得点力が上がる訳もない。3割を打った大島洋平日本生命~09年⑤)や高橋周平(東海大甲府高~11年①)に不動の4番ビシエド、リーグナンバーワンの堅守を誇る京田陽太などレギュラーが確立されている反面、主力と控えの差が大きく、一人でも欠けると一気にチーム力が落ち、若手の台頭が今後のカギを握っている。

【過去5年のチーム成績】

    順位   勝敗    打率 本塁打  盗塁   得点  防御率 失点 

 20年 3位 60勝55敗5分 .252    70本   33個  489点  3.84  489点

 19年 5位 68勝73敗2分 .263    90本   63個  563点  3.72  544点

 18年 5位 63勝78敗2分 .265    97本   61個  598点  4.36  654点

 17年 5位 59勝79敗5分 .247  111本   77個  487点  4.05  623点  

 16年 6位 58勝82敗3分 .245    89本   60個  500点  3.65  573点  

【過去5年のドラフトの主戦力】

 19年~なし

 18年~なし

 17年~なし

 16年~柳 裕也(投手~明大①)京田陽太内野手~日大②)

 15年~阿部寿樹(内野手~ホンダ⑤)  

  過去5年のドラフト結果は寂しい限りだ。17年~19年は育成主体のドラフトで、指名人数18名中11名が高校生だが、即戦力と呼ばれた選手も今一つ。投手では鈴木博志(ヤマハ~17年①)に梅津晃大(東洋大~18年②)、勝野昌慶(三菱重工名古屋~18年③)など及第点の選手もいる。ただ弱点の野手は、京田以降の獲得選手では、捕手の郡司裕也(慶大~19年④)の10安打が最高で、まだ判断する時期ではないとは言え、底上げにはなっていない。

 

●投手陣~エース大野雄を中心に有望な若手が揃う。鉄壁のリリーフ陣は今年も健在

  先発陣は大野雄がFA残留したのが、昨オフ最大の成功と言えるだろう。成績もさることながら、投手分業が主流のなか10完投は多くの若手の参考になるはずだ。開幕に向け調整が遅れているが、絶対的なエースがいることで、大きな連敗は考えににくい。

 その大野雄に代わり、開幕を務めるのが昨季8勝の福谷浩司(慶大~12年①)で、腰の故障から復帰し、昨年見せた安定感抜群の投球を今年も期待したい。さらに一昨年11勝の柳を加えて先発3枚までは決まったが、それ以降が帯に短し、襷に長しだ…。

 右では昨年4勝の勝野に2年目の岡野祐一郎(東芝~19年③)、開幕ローテ入りした山本拓実(市西宮高~17年6)、右ひじ痛からの復帰を目指す梅津が控える。左投手も豊富で、ともに開幕投手経験もある小笠原慎之介東海大相模高~15年①)に笠原祥太郎(新潟医療福祉大~16年④)、ベテランの松葉貴大(大体大~12年オ①)がいる。ただ、期待の勝野や笠原はオープン戦で結果を残すことができず、4番手以降は調子を見て流動的な起用になりそうだ。

 リーグ屈指の救援陣は今年も健在で、Rマルティネスの来日遅れは痛いが、祖父江と福の左右のセットアッパーに、ともにクローザー経験のある岡田俊哉智弁和歌山高~09年①)に、課題の制球難を克服できれば鈴木博の起用も面白い。若手ではストレートに力のある清水達也(花咲徳栄高~17年④)やファームのクローザー佐藤優東北福祉大~15年②)にもチャンスがある。

 中継ぎも豊富で、経験豊富な又吉克樹(四国IL香川~13年②)に谷元圭介バイタルネット~08年日⑦)、気迫ある投球が持ち味の藤嶋健人(東邦高~16年⑤)、スリークオーターから150キロを投げ込むルーキー森博人(日体大~20年②)に、左腕の橋本侑樹(大商大~19年②)など若手も控え質量ともに豊富な陣容だ。

 先発ローテが現時点で確定しないのは不安材料だが、エース大野雄を中心に枚数は揃っており、今年も守備からリズムを作っていける布陣が揃っている。

【20年シーズン結果】※☆は規定投球回数クリア

 ・先発…☆大野雄大(148回2/3)福谷浩司(92回)柳 裕也(85回)

     松葉貴大(75回1/3)勝野昌慶(72回)ロドリゲス(59回)

 ・救援…祖父江大輔(54試合)福 敬登(53試合)Rマルティネス(40試合)

       谷元圭介(36試合)岡田俊哉(29試合)ゴンサレス(28試合)

【今年度の予想】

 ・先発…大野雄大 福谷浩司 柳 裕也 松葉貴大 梅津晃大 勝野昌慶

       ロドリゲス 小笠原慎之介 山本拓実 岡野祐一郎 笠原祥太郎 

 ・中継…祖父江大輔 福 敬登 谷元圭介 又吉克樹 清水達也 藤嶋健人

       橋本侑樹 佐藤 優 鈴木博志 木下雄介 森 博人※ ロサリオ※

 ・抑え…Rマルティネス 岡田俊哉

 注目の選手で、4年目の清水を挙げたい。高校時代もエースナンバーでロングリリーフを担っており、リリーフの適性もあるが、今年は是非先発で勝負してもらいたい。特徴的なフォームからキレのあるストレートとフォークが武器で、課題のスタミナがつけば2桁勝利も夢ではない。

 

●野手陣~レギュラーは確立するものの得点力不足が課題…長打力不足を解消したい

 混戦状態だった捕手も、昨年後半に木下拓哉トヨタ自動車~15年③)が頭一つ抜け出して、正捕手の地位を固めるシーズンになる。2番手以降は、2年目の郡司と一昨年活躍した加藤匠馬(青学大~14年⑤)の争いになる。ファームの正捕手・石橋康太(関東一高~18年④)も打てる捕手として、今年は一軍出場が期待できる。昨年マスクを被ったAマルティネスも控えるが、一塁が現実的と言えるだろう。

 内野はレギュラー陣が確立している。一塁・ビシエド、二塁・阿部、三塁・高橋、遊撃・京田と壁は高い。遊撃候補の根尾昂(大阪桐蔭高~18年①)は、守備だけでも飯が食える京田を上回るほどの打力が必要になり、将来の4番候補の石川昂弥(東邦高~19年①)は、長打力に磨きをかける必要がある。特に石川昂は、昨年主力の本塁打数はビシエドが17本、高橋も7本と今ひとつで、当たれば本塁打くらいのスケールの大きい選手を目指してほしい。

 控えでは勝負強い打撃の堂上直倫愛工大名電高~06年高①)と長打力が魅力の福田永将(横浜高~06年高③)の、同期入団の両ベテランが控え、若手では内野ならどこでも守れる石垣雅海(酒田南~16年③)も得意の長打力でレギュラーを目指したい。左打者が少ない内野陣のなかで、高松渡(滝川二高~17年③)は、俊足が武器で内外野守ることができ出場機会が増えそうだ。

 外野は中堅の大島以外はレギュラーは決まっていなが、その大島も36歳ですべてのポジションにチャンスがある。また、左翼のレギュラー候補のガーバーも来日が遅れており、若手はこのチャンスを掴みたい。根尾が左翼を務めているが、昨年1年目ながらファームで打率3位の岡林勇希(菰野高~19年⑤)は機動力も使え、滝野要(大商大~18年⑥)も俊足がセールスポイント。パンチ力もある武田健吾(自由ケ丘高~12年オ④)や、ルーキーの三好大倫(JFE西日本~20年⑥)にも期待が持てる。

 ベテランも負けておらず、平田良介大阪桐蔭高~05年高①)が完全復活すれば打線に厚みを増し、代打の切り札、井領雅貴(JX-ENEOS~14年⑥)もレギュラーを狙っている。そしてレジェンド福留孝介日本生命~98年①)も加わり、外野の定位置争いはまさしくチームの底上げになる。

【20年シーズン結果(試合数/打席数)】☆は規定打席クリア ※は新加入

 捕 手…木下拓哉(88/269)Aマルティネス(39/109)郡司裕也(30/76)

 内野手…☆京田陽太(120/491)☆ビシエド(109/462)☆阿部寿樹(115/459)

       ☆高橋周平(108/438)福田永将(64/216)

 外野手…☆大島洋平(118/525)アルモンテ(62/247) 平田良介(55/193)

     井領雅貴(79/155)遠藤一星(65/87)     

【昨年の開幕時スタメン】 【昨年の基本オーダー】  

  1)大島洋平⑧      1)大島洋平⑧      

  2)平田良介⑨           2京田陽太⑥       

  3)アルモンテ⑦          3)アルモンテ⑦    

  4)ビシエド③      4)ビシエド③      

  5)高橋周平⑤         5)高橋周平⑤      

  6)阿部寿樹④      6)阿部寿樹④      

  7)京田陽太⑥      7)遠藤一星⑨      

  8)加藤匠馬②      8)木下拓哉

  9)大野雄大①      9)大野雄大  

【今シーズンの開幕一軍候補】

 捕 手…木下拓哉 郡司裕也 Aマルティネス(加藤匠馬)

 内野手ビシエド 阿部寿樹 高橋周平 京田陽太 福田永将 

       高松 渡 根尾 昂 堂上直倫(石川昂弥 石垣雅海 高松 渡)

 外野手…大島洋平 平田良介 福留孝介 遠藤一星 井領雅貴

    (藤井淳志 三好大倫※ 滝野 要 武田健吾 岡林勇希 ガーバー※)  

【今シーズン予想~打順】  【今シーズン予想~守備】

  1)大島洋平⑧      捕 手)木下拓哉(郡司裕也) 

  2)京田陽太⑥      一塁手ビシエド(Aマルティネス)

  3)高橋周平⑤         二塁手)阿部寿樹(堂上直倫

  4)ビシエド③         三塁手)高橋周平(福田永将

  5)阿部寿樹④         遊撃手)京田陽太

  6)平田良介⑨      左翼手)根尾 昂(ガーバー)

  7)根尾 昂⑦            中堅手大島洋平

  8)木下拓哉②      右翼手平田良介福留孝介

  9)大野雄大①               

 打順はレギュラーは決まっているものの、昨年同様に打線に怖さは感じない。リードオフマンの大島は脅威だが、2番は京田か平田が務めることになり、機動力を活かすなら京田、得点力なら平田だがどちらも昨年は打率2割台前半で確実性が乏しい。新外国人ガーバーの来日遅れで、クリーンアップは高橋とビシエドしか決まっておらず5番以降も流動的なりそうだ。

 実績でいえば福留や福田、遠藤一星(東京ガス~14年⑦)あたりを起用したいところだが、根尾や石川昂のドラ1コンビ、ポスト大島で岡林、課題の長打力解消で石垣など若手の成長が確実にチーム力強化に繋がり、一人でも多くの成長がシーズン通しての課題になる。 

 野手のイチオシは岡林で、昨年は高卒1年目でファームでレギュラーに定着し、打率3位でシーズンを終え、一軍でも7打数2安打(打率.286)と結果を残している。卓越したバットコントロールに俊足。高校時代は投手で強肩と、走攻守揃った選手で、今年は一気にレギュラーを獲得する力もある。

 

 残念ながら打線に大きな上積みはないが、落合監督時代も打線より投手陣や守備力強化で黄金時代を築いてきた実績があり、今年も投手を中心にした守りの野球でペナントを狙う。少ない点数を投手陣で守り切る野球で、派手さはないが個人的には巨人と並ぶ優勝候補になると思う。