ドラフトを知ると野球がもっと楽しくなる

どのチームが「人」を育て強くなるのか

【番外編】日本シリーズ、私にも言わせて

 今年の日本シリーズは、ソフトバンクが巨人を圧倒した。史上初の2年連続4タテで、セ・リーグを独走した巨人は何もできないままの惨敗だった。私は物心ついた頃からパ・リーグ派、それもロッテのファンで、筋金入りのアンチ巨人だったため、結果だけを見れば大満足だが、プロ野球ファンとしては、こんな日本シリーズは見たくないです。そこで私にも少し言わせてください。

 

1.パ・リーグが圧倒するセ・リーグに危機感はあるのか

 ここ10年で、セ・リーグが日本一になったのは、12年の巨人(相手は日本ハム)のみで、8年連続でパ・リーグが制している。実は01年~10年の間もセ・リーグが制したのは、09年の巨人と07年の中日(相手はともに日本ハム)、02年の巨人(VS西武)、01年のヤクルト(VS近鉄)で、2000年代はパ・リーグが15勝5敗と圧倒している。

 今年は中止になったが、05年から始まった交流戦も15年の歴史でセ・リーグが勝ち越したのは09年の1回のみで、05年~09年まではそれなりに拮抗していたものの、10年からはパ・リーグが圧倒しており、通算成績はパが1,102勝、セが966勝が現状だ。

 こういった分かりやすい数値に顕れている結果を、セ・リーグ6球団がどう捉えたのか甚だ疑問でしょうがない。少なくとも今年、巨人の独走を許した5球団の責任は大きいと思う。

 パ・リーグには盟主はいない。60年代は南海、70年代は阪急、80年代は西武が黄金期を迎え、90年代は西武とオリックス近鉄が鎬を削った。00年代前半はダイエー、後半は日本ハムがリーグの主役で、10年代はソフトバンクの牙城に西武と楽天、そしてロッテがその座を脅かすようになった。

 セ・リーグは今も昔も巨人だ。「巨人が優勝から何年遠ざかった」「やはり巨人が強くなくては面白くない」など、私が幼いころに聞いた声が今でも聞こえる。巨人さえいてくれれば興行面では何とかなるだろうという、他の5球団の巨人に依拠する過去からの甘えの体質がリーグの停滞を招いたのではないだろうか?

 

2.リーグ全体の意識があるパ・リーグと、個のセ・リーグ

 ダルビッシュツイッターで、パとセの体質の違いについて述べていた。パ・リーグはトレーニング設備や方法などが自由に共有できる環境だったが、交流戦などでセ・リーグの球場に行くと、立ち入り禁止の場所やグラウンドの使用時間の制限などが多く驚いたとコメントしていた。

 こういった意識はドラフトにも見れる。パ・リーグは力のある選手には、リーグ上げて獲りに行く傾向が強い。

 ・岡田彰布(79年)…西武、ヤクルト、南海、★阪神、阪急、近鉄

 ・清原和博(85年)…南海、日本ハム、中日、近鉄、★西武、阪神

 ・野茂英雄(89年)…ロッテ、大洋、日本ハム阪神ダイエー、ヤクルト

             オリックス、★近鉄

 ・小池秀郎(90年)…西武、近鉄日本ハム、★ロッテ、広島、中日、ヤクルト、

             阪神

 ・福留孝介(95年)…ヤクルト、オリックス、ロッテ、巨人、日ハム、中日、★近鉄

 ・菊池雄星(09年)…日本ハム、中日、楽天、ヤクルト、阪神、★西武

 ・大石達也(10年)…★西武、阪神オリックス、広島、楽天、横浜

 ・清宮幸太郎(17年)…ソフトバンク阪神楽天、巨人、★日本ハム、ヤクルト

              ロッテ

 6球団以上、1位で重複した選手を並べてみたが、セ・リーグパ・リーグの指名を上回った選手はいない。6球団以下の主な選手でも、松坂大輔は3球団競合でパが2球団、田中将大中田翔は4球団競合でパが3球団、松井裕樹も5球団競合でパが3球団と、近年でセが多かったのは松井秀喜(4球団競合でパはダイエーのみ)くらいで、スター選手をリーグ全体で獲りに行く姿勢が窺える。

 例え自分のチームに入団しなくても、リーグの活性化に繋がるのであれば、全体で獲得していく姿勢も差になっているんだろうと以前から感じていた。今年のドラフトもともに4球団競合の佐藤輝明はセパ半々だったが、早川隆久はパが3球団だった。広島とDeNAはともに2年連続で単独指名を成功させて評価する声もあるが、私は評価できない。

 良い投手が良い打者を育て、良い打者が投手を育てることで、リーグ全体のレベルアップに繋がり、スター選手を見るために球場に足を運ぶ。今じゃ人気も実力もパ・リーグのほうが上になってしまった。昨年のドラフトも、佐々木朗希を指名したのは4球団すべてパ・リーグ、奥川恭伸の3球団はすべてセ・リーグ…。この辺りにリーグが求めるものの違いを感じるのは私だけだろうか?

 

3.残念だった丸キック

 今回の日本シリーズで、不名誉な名前が付いたプレーが「丸キック」で、これは本当に残念だった。野球を経験した人なら多くの人が断言すると思うが、あれは故意プレーと言われても致しかたない。

 私も草野球愛好者で、ここ4~5年はファーストを守る機会が多くなったが、一度も足を蹴られたことはない。17年の夏の甲子園大会の大阪桐蔭VS仙台育英戦で、仙台育英の打者走者が一塁を駆け抜ける際、今回と同じように大阪桐蔭一塁手の足を蹴り上げたプレーがあった。私は学生時代に野球部に所属したことがなく、初めて見たプレーだったので、草野球チームで硬式野球部に所属していたメンバーに聞いてみた。答えは全員「あれは故意」という返答だった。

 そんなプレーが、いきなり日本シリーズの初戦で出てしまった…。翌日、丸は中村に謝罪して和解したと言ったが、謝って済む問題なのだろうか。実際に中村が蹴り上げられたとき、千賀は怒りの形相でアピールしていた。当人同士たちが和解して済んだから良しではなく、巨人も注意を促すとか、何らかのペナルティ的な措置を取る必要もあると思う。日本最高峰のゲーム、しかもその初戦で起きたことが残念でならない。

 その丸のプレーをさらに印象を悪くさせたのが、第3戦で見せた長谷川のヘッドスライディングだった。35歳でかつて首位打者を獲ったベテランが、追加点を狙う場面でヒット性の当たりを、二塁手・吉川尚の好捕でアウトになったが、一塁にヘッドスライディングをし、悔しさを露わにグラウンドに拳を叩きつけたシーンは、如実にチームの違いを顕していた。負けても勝っても、こういったプレーを観たいんです。ファンは!

 

4.セ・リーグパ・リーグの差を埋められるのか

 最後に、現在のセ・パの差は埋められるかと言えば、答えは否だと思う。ラミレス監督は、「パ・リーグの野球は、セ・リーグの5年先を行っている。150キロを超える投手はパは7割いるが、セは4割」というコメントを見たが、現場責任者の声だけに重みを感じる。

 DH制の是非が違い(個人的は思わないが…)とも言われている。元ロッテの里崎氏がTV番組で、「セが勝てば、DH制の有無が原因なんていう議論はなくなります」と言っていて、なるほどその通りだと思ったが、ここまでコテンパンにされると導入の論議が活発になってくるだろう。

 個人的には、「つべこべ言わず1年限定でも良いので、一度やってみれば良いのでは?」と思う。やってみることでどういう風にセの野球が変わり、パとの差が縮まるのか試してみれば良いと思う。合わなければ戻せば良いだけの話だと思うが、どうもそうはいかないらしい…。

 それよりドラフト愛好者から見れば、ドラフトから違うんだよな~と突っ込みたくなる。今年もソフトバンクの井上朋也、ロッテの中森俊介に西川僚祐、西武の渡部健人に山村崇嘉、楽天の早川隆久、日本ハムには五十幡亮汰、オリックスの山下舜平大に元謙大、来田涼斗などスケール感のある選手が多く指名されている。

 巨人は今年もFAで、DeNAの井納翔一や梶谷隆幸の獲得を検討しているらしいが、本当に2年連続4連敗を学んでいるのか疑問に思ってしまう。同じリーグの相手チームの戦力を削いでどうする?リーグ全体でレベルアップしていかなくてはならないのに、自軍の戦力だけを厚くして独走してもチームは強くならない。また、日本シリーズパ・リーグのチームに返り討ちになるだけだ。

 ここは思い切って、例えばJリーグのような期限付き移籍でも良いので、大胆なトレードでも実現すれば本気度が伝わるのではないか。例えば丸とオリックスの山本、岡本とソフトバンクの東浜、坂本とロッテの石川など、主力の武者修行など自軍の選手のレベルアップが何よりも必要だと思うのは私だけだろうか?