●タレントが豊富でチーム防御率、打率とも2位も成績はなぜか低迷…
チーム防御率、打率ともにリーグ2位。投手では有原航平(早大~14年①)と上沢直之(専大松戸高~11年⑥)の甲乙つけがたい2人のエースピッチャーを抱え、宮西尚生(関西学院大~07年大社③)という日本を代表するリリーバーがいる。
攻撃陣も近藤健介(横浜高~11年④)と西川遥輝(智弁和歌山高~10年②)、大田泰示(東海大相模高~08年巨①)が3割を超え、渡邊諒(東海大甲府高~13年①)と合わせ最多の4人が打撃10傑に名を連ねる。主砲の中田翔(大阪桐蔭高~07年高①)は打率は低いものも、現在打点王で本塁打もリーグ2位につけている。近藤は出塁率と得点圏打率が1位、西川も得点圏打率は同率1位で、盗塁は2位、大田も得点圏打率が3割を超える。
これだけの個人成績を残すタレント集団にもかかわらず、チーム成績は5位と沈み、数字以上の強さを感じないのが、いまのファイターズだ。
【10/4現在のチーム成績 ※( )は昨年の成績】
勝敗 92試合 41勝48敗3分⑤
防御率…4.01②(3.76③)打率….254②(.251②)
本塁打…74④(93⑥)盗塁51⑥(48⑤)
得点391③(560⑤)失点404④(586③)得失点差▲13(▲26)
かつて楽天を率いた野村克也監督は、「日本ハムはチームが勝つために、一人ひとりの選手が何をすべきか知っているチーム」と賛辞を贈った。守り勝つ野球でAクラスの常連だったチームが今は見る影もない。それを象徴するのが失策数で、リーグワーストの58個、捕逸も8個と守備の乱れから痛い失点をするケースが目立つ。伝統の堅守もいまは昔の話になってしまった。
昨年は先発不足から、「栗山流オープナー」なる投手起用が賛否をよんだ。今年は先発の数は揃ったと思うが、起用法が決まっているのは、先発では有原と上沢、杉浦稔大(国学院大~13年ヤ①)と新外国人のバーヘイゲンだけで、マルティネスは一時期抑えに回り、ベテランの金子弐大(トヨタ自動車~04年オ自)も中継ぎから先発、加藤貴之(新日鉄住金~15年②)も相変わらず打順2回りまでで、現在は中継ぎで起用法が安定していない。
中継ぎも同様で勝ちパターンが確立できておらず、宮西をクローザーに据えているが、その宮西まで繋ぐパターンが決まっていない。玉井大翔(新日鉄住金~16年⑧)や秋吉亮(パナソニック~13年ヤ③)、左腕の堀瑞樹(広島新庄高~16年①)に公文克彦(大阪ガス~12年巨④)などは、何となく場当たり的な起用が目立ち、見ていて気の毒に思うことがある。
野手陣では怖いのは先述した西川、大田、近藤、中田、渡邊の5人だけで、下位打線の弱さは相変わらずだ。ようやく平沼翔太(敦賀気比高~15年④)が打撃でアピールをしているが、期待の清宮幸太郎(早実高~17年①)は攻守に精彩を欠き、捕手と三塁手のレギュラーも決まらないままだ。
かつて育成の日本ハムと呼ばれ、次々と有力選手が台頭してきたが、過去5年のドラフトのなかで主戦に成長したのは、加藤と堀、玉井だけ。ただ、いずれも先発でもリリーフ陣の柱に成り切れておらず、物足りなさは否めない。
野手陣に至ってはレギュラーを獲得した選手はおらず、育成にも翳りが見える。広島ではないが、日本ハムも知らないうちに過信や慢心が生まれたのかもしれない。その証拠ではないが、昨年は社会人と大学生が各3名、高校生1名と即戦力路線に転換したが、河野竜生(JFE西日本~19年①)の2勝のみは誤算だっただろう。
コロナ禍で微妙になったが、エース有原とチームの盗塁数の半分を稼いでいる西川が揃ってポスティングでMLB挑戦を希望しており、この2人が抜けるとチームの戦力は大幅に落ちてしまい、若手の台頭が喫緊の課題になる。
【日本ハムの補強ポイント】
投 手…将来のエース候補、即戦力のクローザー候補
捕 手…必要なし
内野手…三塁と遊撃の即戦力(俊足)
外野手…(西川流失に備えた)即戦力と将来の主軸候補
●強化するのは投手力?攻撃力?かつての守り勝つ野球を復活させたい
☆投手~将来のエース候補、即戦力のクローザー候補
一番の関心ごとは、MLB挑戦を希望しているエース有原の去就で、今年は勝ち星こそ伸びていないが、1年間ローテーションを守れる大黒柱がいるいないとではまるで違う。その有原と杉浦、加藤が28歳、上沢と覚醒を予感させる上原健太(明大~15年①)が26歳、河野は22歳と駒は揃いつつあり、吉田輝星(金足農高~18年①)や北浦竜次(白鷗大足利高~17年⑤)の若手も控えている。
リリーフ陣の駒は多く、玉井に秋吉、井口和朋(東農大オホーツク~15年③)に西村天裕(NTT西日本~17年②)、故障で離脱中だが石川直也(山形中央高~14年④)もいる。左腕も豊富で宮西に堀、公文が控え大きな穴はない。ただ、元々セットアッパーの37歳の宮西をクローザーに据えるのは、裏を返せば抑えを任せられる投手がいない証で、クローザーの確立は喫緊の課題だ。
今年は、地元出身の伊藤大海(苫小牧駒大)と相思相愛と言われている。伊藤は先発もこなすが、大学日本代表でクローザーを務めており補強ポイントにはピッタリだ。伊藤以外の上位では早川隆久(早大)に、エース候補として中森俊介(明石商高)と小林樹斗(智弁和歌山高)が候補になる。
年齢的なバランスは悪くなく、左右にも偏りがない。即戦力で先発候補を厚くするなら赤上優人(東北公益文化大)や内間拓馬(亜大)が候補になり、森博人(日体大)に木澤尚文(慶大)、宇田川優希(仙台大)、左腕の鈴木昭汰(法大)は先発でも抑えでもいけ、地元の河村説人(星槎道都大)は伸びしろもある。社会人では伊藤将司(JR東日本)や西田光汰(JR東日本)をリストアップしている。
高校生投手は昨年指名がないので、今年は確実に抑える必要がある。高田琢登(静岡商高)と川瀬堅斗(大分商高)を上位候補に据え、今年は地元北海道に有力選手が多く根本悠楓(苫小牧中央高)に阿部剣友(札幌大谷高)の両左腕、片山楽生(白樺学園高)がおり、今年は地元枠の指名に困ることはなさそうだ。このほかに左腕の松本隆之介(横浜高)に上田洸太朗(享栄高)、2メートルの大型投手秋広優人(二松学舎大高)に総合力の高い常田唯斗(飯山高)の評価が高い。
☆捕手~必要なし
現在、コーチ兼任の鶴岡慎也(三菱重工横浜~02年⑧)を含め8名おり人数的にも補強の必要はない。24歳の清水優心(九州国際大高~14年②)と27歳の宇佐見真吾(城西大~15年巨④)が正捕手候補で、石川亮(帝京高~13年⑧)も控えており、質量ともに問題はない。
☆内野手~三塁と遊撃の即戦力(俊足)
内野のレギュラーには、一塁の中田はまだ31歳でまだまだ衰える年ではなく、4番一塁を競う清宮にとっては攻守に超える壁が高い。二塁には25歳の渡邊がいるので、やはり三塁と遊撃になる。
ただ、今年ケガで離脱したものの20歳の清水祐希(花咲徳栄高~18年②)が序盤戦活躍し、渇望していたレギュラー候補が出てきた。遊撃は平沼と26歳の石井一成(早大~16年②)がレギュラー争いをしており、中島卓也(福岡工高~08年⑤)も健在で、三塁はレギュラー候補、遊撃は将来の主力になり得る選手の獲得を目指したい。また、機動力強化のために俊足の選手も必要だ。
三塁の即戦力は佐藤輝明(近大)が一番の候補で、広い札幌ドームをも苦にしない長打力を秘めている。外野も守れることから、西川の後継者としても起用の幅は広がりそうだ。現状、三塁には横尾俊健(慶大~15年⑥)やビヤヌエバもおり、将来性を見越した指名でスラッガーの井上朋也(花咲徳栄高)や山村崇嘉(東海大相模高)、巧打者の小深田大地(履正社高)は将来レギュラーをはれる逸材だ。
遊撃手では牧秀悟(中大)はレギュラー候補になるし、堅守が売りの上川畑大悟(NTT東日本)は失策の多い内野陣では貴重な戦力になる。将来性なら土田龍空(近江高)は堅い守備に俊足のバランスの取れた選手、スラッガーの中山礼都(中京大中京高)に蔵田亮太郎(聖望学園高)などが候補になる。
☆外野手~(西川流失に備えた)俊足の即戦力と将来の主軸候補
西川が残留するなら外野陣は鉄壁の布陣で、近藤27歳、西川28歳、大田も30歳で数年は安泰だ。ただ、この代わりになるのが松本剛(帝京高~11年②)と内外野守れる杉谷拳士(帝京高~08年⑥))のみで、即戦力を獲得して控えの層を厚くしたい。盗塁数が少ないので、俊足の選手が理想だ。
先述した佐藤以外に、五十幡亮汰(中大)と並木秀尊(独協大)、長沢吉貴(東芝)は超がつく俊足。足だけでも飯が食える選手で、長沢は守備力にも定評がある。今年は地元選手に逸材が多い話をしたが、今川優馬(JFE東日本)も道産子で俊足も兼ねたスラッガーで補強ポイントに合う。
一方で、強固なレギュラーがいる間に、将来の主軸になる選手をじっくり育成するのも手で、そうなると来田涼斗(明石商高)と西川僚祐(東海大相模高)が双璧で、3~4年後はクリーンアップを任せられる逸材だ。また、プロ志望合同練習会で評価を高めた石川慧亮(青藍泰斗高)を高く評価している。
●投手では早川と伊藤、野手では佐藤…日本ハムが選ぶナンバーワン選手は?
日本ハムは、その年1番の選手に行くのがチームの揺るがない方針だ。今年で言えば投手では早川隆久(早大)と伊藤大海(苫小牧駒大)、中森俊介(明石商高)に野手の佐藤輝明(近大)のいずれかが候補になる。ただ今年は、地元出身で先発、クローザーどちらもこなせる相思相愛の伊藤の指名が濃厚だ。
【指名シミュレーション】
1位~伊藤大海(苫小牧駒大・投手)…大学2年より大学選抜に選出され、クローザーを務めた剛腕。155キロの威力のあるストレートに、多彩な変化球で制球力も申し分ない。それより打者に立ち向かうハートの強さが評価され、リリーフの適性が高い。
2位~西川僚祐(東海大相模高・外野手)…名門校で1年生より4番を務め、高校通算53本塁打の右の大砲。詰まりながらもスタンドまで運ぶパワーが魅力の選手で、じっくり育てれば清宮と4番争いをするライバルになり得る。
3位~川瀬堅斗(大分商高・投手)…長身から投げ下ろす角度のあるストレートを武器に、スライダーやチェンジアップの変化球も一級品。
4位~高田琢登(静岡商高・投手)…中央では無名だが、最速148キロのストレートに変化球で緩急をつけた巧みな投球術が武器の完成度の高いサウスポー。
5位~内間拓馬(亜大・投手)…最速149キロのストレートと精度の高いカーブやスライダー、ツーシームが武器の本格派右腕で、まだ伸びしろを期待させる大器。
6位~並木秀尊(独協大・外野手)…50メートル5秒台の俊足で、守備も定評がある。課題の打撃も発展途上中で、ミートに長けた広角に打ち分ける技術がある。
7位~片山楽生(白樺学園高・投手)…肘を柔らかく使ったフォームから、伸びのある速球はキレがあり、昨秋の神宮大会で結果を残した。打撃も良く4番を務める。
このほかに下位または育成候補では、本格派右腕の西田光汰(JR東日本)はリリーフの層を厚くするし、高校生では完成度の高い常田唯斗(飯山高)、大型左腕の阿部剣友(札幌大谷高)は育成でもプロ入りを熱望している。スラッガーの石川慧亮(青藍泰斗高)も下位や育成で獲得し、育ててみたい選手だ。