昨年、シーズン終盤までロッテとの熾烈なAクラス争いをし、最下位から3位に順位を上げた。そのロッテとはともにストーブリーグの主役を演じ、今年は優勝候補に挙げる声も大きい。スタートから勢いに乗れば独走もあるくらいの力もある一方、選手層は決して厚くなく、総合力で「3位」予想とした。
今年はメジャーから牧田和久(日本通運~10年西②)、トレードでロッテから涌井秀章(横浜高~04年西①)、同じくFAの人的補償で酒居知史(大阪ガス~16年ロ②)が投手陣に加わった。野手ではFAでロッテのチームリーダー鈴木大地(東洋大~11年ロ③)を、オリックスから主砲ロメロを獲得し、優勝に向けて戦力補強が進んだ。
12球団で1,2を争うリリーフ陣は今年も健在で、クローザーの松井裕樹(桐光学園高~13年①)を先発に転向させる余裕も生まれた。昨年唯一、規定投球回数をクリアした美馬学がロッテへ移籍したが、岸孝之(東北学院大~06年大社希)と則本昂大(三重中京大~12年②)のWエースが機能すれば問題なく、投手陣は今年も充実している。
野手陣は、昨年FA加入した浅村栄斗(大阪桐蔭高~08年西③)と新外国人のブラッシュで中軸が固まり、ここに鈴木大が加わり打線は厚みを増した。弱点の機動力も2年目の辰巳や、即戦力ルーキーの小深田大翔(大阪ガス~19年①)がレギュラーに定着すれば課題を克服できる。
不安な点を挙げるとすれば、若手の突き上げが不足しており、レギュラーと控えの差が埋まっていない。また、あまり関係ないが、楽天はAクラスになった09年、13年(優勝)、17年の翌年すべて最下位になっており、そのジンクスを不安視する評価もある。
【過去5年のチーム成績】
19年 3位 71勝68敗4分 .251 141本 48個 614点 3.74 578点
18年 6位 58勝82敗3分 .241 132本 69個 520点 3.78 583点
17年 3位 77勝63敗3分 .254 135本 42個 585点 3.33 528点
16年 5位 62勝78敗3分 .257 101本 56個 544点 4.11 654点
15年 6位 57勝83敗3分 .241 85本 118個 463点 3.82 612点
【過去5年のドラフトの主戦力】
今年はFAとトレードでベテラン選手が多く加入したので、平均年齢は27.6歳まで上がり、パ・リーグでは最も高い。ドラフト指名の主力選手は即戦力に偏っているが、新人王を獲得した田中をはじめ、森原や茂木などの主戦力が並ぶ。
18年~辰巳涼介(外野手~立命大①)渡邊佳明(内野手~明大⑥)
17年~なし
16年~田中和基(外野手~立大③)森原康平(投手~新日鉄住金広畑⑤)
高梨雄平(投手~JX-ENEOS⑨)
14年~なし
一方で期待の高校生上位指名選手が戦力になっていない。藤平尚真(横浜高~16年①)は3年で7勝、安樂智大(済美高~14年①)も5年で5勝、森雄大(東福岡高~12年①)は7年3勝で今年育成契約になってしまった。オコエ瑠偉(関東一高~15年①)も、通算16盗塁と自慢の快足でも結果が出ておらず、ここは大きな誤算になっている。
●投手陣~強固なリリーフ陣は今年も隙なし!先発投手の駒不足を解消できるか
昨年は開幕前に則本が肘の手術で離脱、岸も開幕戦で太ももを痛め、いきなりWエースを欠いた。こうなるとチームが立ちいかなくなりそうなものだが、美馬学が規定投球回数を投げ8勝、辛島航(飯塚高~08年⑥)は9勝を上げ、終盤は中継ぎでも奮闘した。故障から復帰した石橋良太(ホンダ~15年⑤)も8勝を上げチームを救った。
最大はリリーフ陣の層の厚さで、クローザーの松井をはじめ、セットアッパーの森原とブセニッツが防御率1点台で抜群の安定感を見せた。中継ぎでは復活したベテランの青山浩二(八戸大~05年大社③)に左キラーの高梨、宋家豪も防御率2点台と充実したリリーフ陣を擁し、先発陣の駒不足を補って余りある結果を残した。
【昨年の先発ローテーション】
・開幕時…岸 孝之 美馬 学 藤平尚真 辛島 航 福井優也 弓削隼人
・後半戦…菅原 秀 則本昂大 辛島 航 美馬 学 釜田佳直 石橋良太
【19年シーズン結果】※☆は規定投球回数クリア
・先発…☆美馬 学(143回2/3)石橋良太(127回1/3)辛島 航(117回1/3)
岸 孝之(93回2/3)則本昂大(68回)塩見貴洋(51回1/3)
・救援…松井裕樹(68試合)森原康平(64試合)青山浩二 (62試合)
ブセニッツ(54試合)ハーマン(50試合)宋家豪(48試合)
今年の開幕投手には則本が指名され、ここに辛島と石橋、先発転向の松井が加わる。残りの2枠を、実績のある涌井や塩見貴洋(八戸大~10年①)、弓削隼人(スバル~18年④)が争い、岸が開幕前に離脱してしまったが先発の枚数は確保できている。
ただ、不安な面もある。則本と石橋は故障上がりの不安がつきまとい、岸も故障癖に加え今年36歳を迎え、かつてのような活躍を望むのも酷だ。松井は制球力不足で長いイニングでの安定感が未知数で、涌井もここ数年結果を残せていない。昨年好投を見せた菅原秀(大体大~16年④)も、オフに肘の手術を受け復帰は5月以降になり、この不安要素を吹き飛ばすほど、藤平や安樂などの若手投手のブレイクに期待したい。
リリーフ陣は松井のあとのクローザーを誰にするかで、森原と新外国人のシャギワの争いになる。森原は奪三振率が高く、シャギワもメジャー通算85試合すべてが救援のスペシャリストで大きな不安はない。セットアッパーは牧田が務め、牧田~森原~シャギワのリリーフ陣には大きな期待が持てる。
中継ぎ陣も健在で、青山にブセニッツ、宋家豪に酒居、寺岡寛治(BC石川~17年⑦)と右の本格派が並び、変則左腕の高梨もおりタレントは豊富だ。さらにオープン戦で好投したルーキーの津留崎大成(慶大~19年③)や瀧中瞭太(ホンダ鈴鹿~19年⑥)も加わり、強固なリリーフ陣に隙はなさそうだ。
【今年度の予想】
・先発…則本昂大 辛島 航 石橋良太 松井裕樹 涌井秀章 塩見貴洋
・中継…青山浩二 牧田和久 ブセニッツ 宋家豪 高梨雄平 酒居知史
寺岡寛治 久保裕也 津留崎大成 瀧中瞭太
・抑え…森原康平 シャギワ
●野手陣~鈴木大の加入で打線は厚みを増した!強打の中軸は健在で課題は機動力
先述したが昨年は、浅村とブラッシュの加入が大きかった。浅村はチームでただ一人全試合に出場し、33本塁打92打点と移籍1年目から存分に力を発揮した。ブラッシュも日本野球への順応を見せ、浅村と同じ33本塁打で95打点を上げ、後半戦は4番に座った。この2人が中軸を固めたことで、ウィーラーを下位打線で起用することができた。
茂木が攻撃的1番にはまり、島内宏明(明大~11年⑥)はあらゆる打順で役割をこなし、銀次(盛岡中央高~05年高③)も巧打者ぶりを発揮し3割を残した。ルーキーの辰巳は打撃は発展途上だが、“超”がつく外野守備と俊足で何度もチームを救った。嬉しい誤算は、同じルーキーの渡邊の活躍で、一時期得点圏打率5割の負強さが光った。
一方で本当に誤算だったのは、新人王の田中和の不振で、まさか打率.188でシーズンを終えるとは夢にも思わなかった。レギュラー不在だったのが捕手で、開幕スタメンの嶋基宏(国学院大~06年大社③)は出場機会が減少し、オフにヤクルトへ移籍。堀内謙伍(静岡高~13年④)と太田光(大商大~18年②)の若手が台頭するも、ともに決め手を欠けた。
【19年シーズン結果(試合数/打席数)】※☆は規定打席クリア
捕 手…堀内謙伍(65/140)嶋 基宏(57/131)太田 光(55/112)
内野手…☆茂木栄五郎(141/648)☆浅村栄斗(143/635)☆銀次(139/590)
☆ウィーラー(117/472)渡邊佳明(77/245)藤田一也(61/136)
外野手…☆島内宏明(133/585)☆ブラッシュ(128/527)辰巳涼介(124/369)
田中和基(59/193)オコエ瑠偉(52/122)和田 恋(31/113)
下水流昂(50/101)
【昨年の開幕時スタメン】 【昨年の後半戦スタメン】
1)田中和基⑧ 1)茂木栄五郎⑥
2)茂木栄五郎⑥ 2)下水流昂⑨
3)浅村栄斗④ 3)島内宏明⑦
4)島内宏明⑦ 4)浅村栄斗④
5)ウィーラー⑤ 5)ブラッシュDH
6)銀次③ 6)銀次③
7)ブラッシュDH 7)ウィーラー⑤
8)嶋 基宏② 8)堀内謙伍②
9)オコエ瑠偉⑨ 9)辰巳涼介⑧
【今シーズン予想~打順】 【今シーズン予想~守備】
1)小深田大翔⑥ 捕 手)太田 光(堀内謙伍)
3)浅村栄斗④ 二塁手)浅村栄斗(山崎幹史)
5)島内宏明⑦ 遊撃手)小深田大翔(茂木栄五郎)
7)ウィーラーDH 中堅手)辰巳涼介(田中和基)
9)辰巳涼介⑧ D H)ウィーラー(ロメロ)
打線は昨年よりもさらにレベルアップした。茂木が体調不良で調整が遅れているが、それ以上にルーキー小深田の存在が頼もしい。茂木には打力では劣るが、俊足の小深田が一番にハマれば機動力は格段とアップし、高い守備力は茂木が復帰したあとでも遊撃で使いたい。
昨年は二番打者が決まらず、唯一上位打線では苦労したが、鈴木大が入ることで課題が解消された。中軸は浅村~ブラッシュ~島内と並び、銀次とウィーラーに続く下位打線は息つくヒマもないほど怖く、ここに茂木が戻ってくれば隙のない打線になる。
課題は正捕手で、今年も太田と堀内の争いになる。ともに守備、打撃とも課題があり、暫くは併用しながらの起用になり、どちらが正捕手争いを制するかは今年の注目の一つだ。遊撃に小深田が入ることで、二塁・浅村と中堅・辰巳のセンターラインが強化されており、一日でも早い正捕手の確立が急がれる。
控えとレギュラーの差も課題の一つだが、外野には田中が控え、内野ではオープン戦で結果を出した山崎幹史(国学院大~17年③)に、ロメロはレギュラークラスの選手で、育成と補強が相なって控えの層は厚くなった。
このほかにも、鉄壁の守備をほこるベテランの藤田一也(近大~04年横④)に内外野守れる渡邊、小技も使える下水流昂(ホンダ~12年広④)にパンチ力のある和田恋(高知高~13年②)など、勝負強い打者が揃っている。
若手では守備と走塁に定評のある村林一輝(大塚高~17年⑦)に、昨季ファームでチーム最多の14本塁打を放った内田靖人(常総学院高~13年②)は、持ち前の打力で一軍に喰い込みたい。高卒ルーキーながら、黒川史陽(智弁和歌山高~19年②)はキャンプから一軍に帯同し評価が高い。あとは迷走中のオコエだろう…本人曰く「見えた目指すべき選手像」を実践するシーズンにしてもらいたい。
【今シーズンの開幕一軍候補】
捕 手…太田 光 堀内謙伍(山下斐紹 足立祐一)
山崎幹史 藤田一也 渡邊佳明(茂木栄五郎 村林一輝 黒川史陽)
外野手…島内宏明 辰巳涼介 ブラッシュ
和田 恋 田中和基 下水流昂(オコエ瑠偉 ロメロ 小郷裕哉)
今年注目の若手では、投手では鈴木翔天(富士大~18年⑧)に注目している。一昨年のドラフトでは故障で評価が分かれ8位指名。入団後も腰痛で、ファームでも2試合登板に留まったが、秋季キャンプでは潜在能力の高さを見せ評価を上げた。故障さえなければ上位指名もあったポテンシャルの持ち主で、今年の一軍デビューに期待している。
野手では楽しみなのは、やはり山崎幹史だろう。とにかく内野はライバルが多く、茂木に今年は鈴木大に即戦力の小深田も加わった。まずはセールスポイントの小技や盗塁技術などで一軍定着をはかり、オープン戦での成長を見せた好調な打撃を維持してレギュラー争いに加わりたい。