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どのチームが「人」を育て強くなるのか

20年順位予想☆西武~秋山の抜けた穴は大きく、若手や新戦力の台頭がないと厳しい

 12球団ナンバーワンの破壊力をほこる“超”がつく強力打線で、昨年もリーグ最下位の防御率ながら、終盤にソフトバンクを抜き去り、2年連続のリーグ優勝を果たした。ただ、投手力の弱さは短期決戦では致命的で、これもまた2年連続でCS出場を逃してしまった。

 当然、今年はリーグ3連覇!そして悲願の日本一を達成したいところだが、最大の強みである強力打線から、主力中の主力である秋山翔吾(八戸大~10年③)が抜けた。一方で弱みである投手陣は、残念ながら底上げが進んでいない。

 そのためかオフは戦力補強に動いたが、FAで秋山の後任に打って付けだった福田秀平はロッテに、NPBに復帰した牧田和久は、西武に戻らず楽天への入団を決め、ライバルチームに欲しい選手を持っていかれた。結果、戦力補強もままならず「4位」予想とした。

 強みの打線だが、秋山がメジャーに移籍した穴は大きすぎる。不動のリードオフマンで、昨年も打率.303で最多安打のタイトルを獲得、20本塁打で長打力もある。俊足で守備も巧く、何といっても5年連続全試合出場するタフな選手で正直代わりはいない…。

 課題の投手陣はどうかと言うと、今年も質量ともに不足している。ドラフトで即戦力投手を獲得したが、現在のところ課題の解消になるほどの期待値はない。確かに常勝チークを形成するには強力打線が必要だが、防御率4点台の投手陣では打線への依存が高く、打線が不振に陥ると一気に弱みが膨らんでしまう。

【過去5年のチーム成績】

    順位   勝敗    打率 本塁打  盗塁   得点  防御率 失点 

 19年 1位 80勝62敗1分 .265  174本 134個  756点  4.35  695点

 18年 1位 88勝53敗2分 .273  196本 132個  792点  4.24  653点

 17年 2位 79勝61敗3分 .264  153本 129個  690点  3.53  560点  

 16年 4位 64勝76敗3分 .264  128本   97個  619点  3.85  618点

 15年 4位 69勝69敗5分 .263  136本   66個  631点  3.69  573点 

【過去5年のドラフトの主戦力】

 西武は若いチームで平均年齢26.6歳と、主力選手にも若い選手が多く一気にチーム力が落ちる心配がない。さらに主力選手のほとんどが1~3位の上位指名選手で、上位争いを継続できるチームを形成している。

 18年~松本 航(投手~日体大①)

 17年~なし

 16年~源田壮亮内野手トヨタ自動車③)平井克典(投手~ホンダ鈴鹿⑤)

 15年~多和田真三郎(投手~富士大①)野田昇吾(西濃運輸③)

 14年~外崎修汰(内野手~富士大③)

 高校生の主力選手が、最近では森友哉大阪桐蔭高~13年①)しかいないのが気がかりだが、今井達也(作新学院高~16年①)は3勝、高橋光成前橋育英高~14年①)は1勝基準値に不足しただけで、十分に成功と言える。結果、直近で戦力になっていない1位選手は斎藤大将(明大~17年①)のみで、スカウトセンスの高さに脱帽する。

 

●投手陣~着実に若手が成長してきているが、駒不足は否めず…新戦力に期待

 昨年はエースの菊池雄星花巻東高~09年①)がメジャー移籍し、一昨年最多勝の多和田が1勝のみと、先発陣は崩壊寸前だった。このピンチを救ったのがニールで、後半11連勝を含む12勝を挙げた。若手の高橋が2桁10勝、今井とルーキーの松本航も7勝、ベテランの十亀剣JR東日本~11年①)もシーズン中盤から先発に復帰して6勝を上げた。それぞれ防御率4点台と課題は残したが、粘り強い投球で打線の援護を待ちゲームを作った。

 リリーフ陣は平井の大車輪の活躍に尽きる。平井は歴代2位の81試合に登板し、決して本調子ではなくても力投を続けた。クローザーの増田達至(NTT西日本~12年①)も、防御率1.81、30セーブと見事復活を果たした。中継ぎでは小川龍也(千葉英和高~09年②)が55試合登板で奮闘、後半には弱冠20歳の平良海馬(八重山商工高~17年④)がすい星のように登場し、158キロのストレートを武器に26試合で8ホールドを記録し、楽しみな投手が出てきた。

 ただ、投手陣の駒不足は否めず、一昨年活躍したマーティンとヒースは、安定感を欠きオフに退団。FAの人的補償で移籍した内海哲也東京ガス~03年巨自)は登板なしと期待に応えられず、若手の台頭も平良以外は見当たらなかった。

【昨年の先発ローテーション】

 ・開幕時…多和田真三郎 今井達也 高橋光成 ニール 武隈祥太 本田圭佑

 ・後半戦…今井達也 十亀 剣 本田圭佑 高橋光成 多和田真三郎 ニール

【19年シーズン結果】※☆は規定投球回数クリア

 ・先発…今井達也(135回1/3)高橋光成(123回2/3)十亀 剣(102回)

       ニール(100回)本田圭佑(91回1/3)松本 航(85回1/3)

 ・救援…平井克典(81試合)増田達至(65試合)小川龍也 (55試合)

       佐野泰雄(44試合)マーティン(41試合)ヒース(34試合)

 開幕投手にはニールが指名され、2カード目の初戦は高橋が務め、今年はこの2人が中心になる。このほかに今井と松本航が開幕ローテーション当確で、ドラフト1位投手が主力に成長している。

 5~6番手には十亀、抜群の制球力で昨年6勝を挙げた本田圭佑東北学院大~15年⑥)が順当だが若い投手が多い。実績のある榎田大樹東京ガス~10年神③)や内海の両左腕、14年振りに復帰した松坂大輔(横浜高~98年①)も加わり、ベテランがローテの谷間を埋められれば枚数は揃ってくる。ただ、残念なことに多和田に復帰のメドが立たないのは厳しい。

 リリーフ陣は増田のクローザーは問題ないが、その前の継投が課題になる。平井の疲労がどこまで回復しているかで、確かに連投も厭わないが、昨年のような使いかたではなく、勝ちパターンで起用しパフォーマンスを上げたい。ここに若手の平良や左腕の小川、野田昇吾(西濃運輸~15年③)が加わってくる。

 西武の投手陣のカギを握るのが新戦力投手だ。そのなかで期待できるのが、ドラフト2位の浜屋将太(三菱日立PS~19年②)で、安定感抜群の投球を見せ、日に日に評価が高まっている。西武には現時点で先発左腕がおらず、浜屋が加わる可能性は高い。ドラフト1位の宮川哲(東芝~19年①)は、中継ぎ起用が有力だ。

 新外国人ではギャレットがオープン戦でも結果を出しており、156キロのストレートが武器のパワーピッチャーで、平井と並んでセットアッパー候補になる。外国人枠の関係で微妙だが、技巧派左腕のノリンも先発候補の一角で、投手で昨年ファームで目立った成績を挙げた選手もおらず新戦力への期待は大きい。

【今年度の予想】

 ・先発…ニール 高橋光成 今井達也 松本 航 十亀 剣  

       本田圭佑 ノリン 榎田大樹 松坂大輔 與座海人 浜屋将太

 ・中継…小川龍也 平良海馬 佐野泰雄 野田昇吾 宮川 哲 ギャレット 

       森脇亮介 國場 翼 武隈祥太 相内 誠

 ・抑え…増田達至  平井克典

 

●野手陣~秋山の穴を誰が、どう埋めるか…レギュラーを脅かす若手の成長も課題

 昨年はほぼレギュラー9人で戦い抜いた。1番~秋山は最多安打、3番~森友哉首位打者、4番~山川穂高(富士大~13年②)は本塁打王、6番~中村剛也大阪桐蔭高~01年②)が打点王、ラストバッターの金子侑司(立命大~12年③)が盗塁王とタイトルホルダーを5人も抱える。さらに鉄壁の守備を誇る源田、外崎は本塁打26本、打点96で移籍した浅村の穴を埋めた。正直、昨年は出来過ぎだと思う。レギュラー全員がケガなく1年機能し、浅村の穴は外崎で埋まり、ここ数年不振だった中村が復調し、栗山巧(育英高~01年④)も規定打席に達した。

 反面、若手は強固なレギュラー陣に風穴を開けることはできず、メヒアを除けば試合数では佐藤龍世(富士大~18年⑦)の52試合、打席数では岡田雅利(大阪ガス~13年⑥)の78が最高で、レギュラーと控えの差が開くばかりで厳しい。

【19年シーズン結果(試合数/打席数)】※☆は規定打席クリア

 捕 手…☆森 友哉(135/573)

 内野手…☆山川穂高(143/626)☆外崎修汰(143/621)☆源田壮亮(135/609)

       ☆中村剛也(135/557)メヒア(75/147)

 外野手…☆秋山翔吾(143/678)☆金子侑司(133/524)☆栗山 巧(123/486) 

     木村文和(130/441)  

【昨年の開幕時スタメン】 【昨年の後半戦スタメン】  

  1)金子侑司⑦      1)秋山翔吾⑧      

  2)源田壮亮⑥      2)源田壮亮⑥       

  3)秋山翔吾⑧           3)外崎修汰④    

  4)山川穂高③      4)山川穂高③      

  5)森 友哉②      5)森 友哉②      

  6)外崎修汰④      6)中村剛也⑤     

  7)栗山 巧DH       7)栗山 巧DH      

  8)中村剛也⑤      8)金子侑司⑨

  9)木村文紀⑨      9)鈴木将平⑦  

【今シーズン予想~打順】  【今シーズン予想~守備】

  1)スパンジェンバーグ⑦ 捕 手)森 友哉(岡田雅利) 

  2)源田壮亮⑥      一塁手山川穂高

  3)森 友哉②      二塁手)外崎修汰(山野辺翔)

  4)山川穂高③      三塁手中村剛也(佐藤龍世)

  5)外崎修汰④         遊撃手)源田壮亮永江恭平

  6)中村剛也⑤         左翼手)スパンジェンバーグ(川越誠司)

  7)栗山 巧DH       中堅手)金子侑司(鈴木将平)

  8)木村文紀⑨      右翼手)木村文紀(愛斗)

  9)金子侑司⑧      D H)栗山 巧(メヒア)     

     

 とにかく秋山の代わりをどうするかが最大の課題で、一番打者であれば金子と新外国人のスパンジェンバーグが候補になる。金子は昨年の開幕時も一番打者としてのスタートだったが、打率・出塁率ともに不振で定位置の9番に落ち着いた。スイッチヒッター盗塁王、一番打者としては適任だが、やはり打てないとどうしようもない。

 スパンジェンバーグは左打のアベレージヒッターで、長打力はそれほどでもないが、昨年は3Aで打率.309の成績を残しており、現時点ではスパンジェンバーグのほうが攻撃力は増すと思う。

 秋山の守っていた中堅には金子が入るので、左翼が空く。スパンジェンバーグは内外野守れるので、本職の二塁のカバーや中村を指名打者にして三塁でも使える。そうなると一番の候補は売り出し中の川越誠司(北海学園大~15年②)で、投手から野手へ転向し、昨年ファームで8本塁打、台湾のウィンターリーグでもMVPを獲得し、使ってみたくなる選手だ。このほかに打撃の確実性が増した愛斗(花咲徳栄高~15年④)、俊足の鈴木将平(静岡高~16年④)が候補になる。

 他のポジションは盤石と言える。二番~源田、三番~森、山川も今年は1年間4番を守りたい。5番~外崎、6番~中村までの並びは変わらない。7番の指名打者で栗山かメヒアがはまり、8番~木村文紀(埼玉栄高~06年高①)と怖いバッターが揃う。

 守備は78失策とリーグ最多だが、数字以上の脆さは感じない。外崎と源田の二遊間は鉄壁で、守備範囲の広い金子が中堅でセンターラインがしっかりしており、若手野手がレギュラー陣に割って入るハードルは高い。

 控えで面白いのが山野辺翔(三菱自動車岡崎~18年③)と佐藤龍世の2人で、山野辺はファームで12本塁打、29盗塁と脚力に加え長打力も兼ね備えている。佐藤は一発長打を秘めたスラッガーだが、とにかく明るくチームのムードメーカーの役割も果たしており、そこは熊代聖人(王子製紙~10年⑥)から学んでほしい。

 昨年のファームでは、西川愛也(花咲徳栄高~17年②)は広角に打てる巧打者、戸川大輔(北海高~14年育①)は守備を除けば打撃は一軍クラスで、虎視眈々とレギュラー陣を脅かす逸材が揃っている。

【今シーズンの開幕一軍候補】

 捕 手…森 友哉 岡田雅利(柘植世那)

 内野手山川穂高 外崎修汰 中村剛也 源田壮亮 メヒア

      山野辺翔 佐藤龍世(永江恭平 水口大地 森越祐人)

 外野手…金子侑司 スパンジェンバーグ 木村文紀 栗山 巧

       川越誠司 愛斗 鈴木将平(熊代聖人 岸潤一郎)  

 今年注目の若手では、投手では與座海人(岐阜経済大~17年⑤)がイチオシだ。肘の故障で一時期育成契約になり、トミージョン手術を経て昨年9月に復帰し支配下登録された。西武にはいないサブマリンで、駒不足の先発陣に喰い込めば面白い存在になる。

 野手では、阪神から移籍したベテラン森越祐人(名城大~10年中④)を応援したい。2度の戦力外通告を経て、昨年のトライアウトで合格した苦労人。本職の二遊間に加え外野も守れる守備職人で、まずは守備の控えでの出番になるが、一流打者ひしめく西武から学ぶことは大きく、最後のひと花を咲かせてほしい。