ドラフトを知ると野球がもっと楽しくなる

どのチームが「人」を育て強くなるのか

DeNA~育成に本腰を入れて、万年Bクラスからの抜け出せるか?

 大洋~横浜~そしてDeNAとチームが変わっても、なぜか根っこは変わることなく万年Bクラスという言葉が当てはまるほど成績が低迷している。60年の初優勝から、次の優勝まで38年かかり、そして既に21年が経過している。98年の優勝のあとは何とか3年連続の3位でAクラスを維持したが、02年以降はBクラスが定位置になった。

 昨シーズンまでAクラスは、05年と16~17年、19年の4回のみで、最下位は08年~12年の5年連続を含め10回を数える。ようやくここ最近は上位争いができるようになったが、いまだ黄金時代と呼ばれる時期は一度もなく、ファンも1~2年くらいのAクラスでは安心できない。

 その要因の一つとして、D℮NAもよく監督が変わるチームだ。それもタイプや考えかた(戦略)が違う監督を並べるものだから、チーム方針が都度変わる。93年に球団名がホエールズからベイスターズに変わってからの監督を見てみると、93年~95年の近藤昭仁から始まり、96年~97年が大矢明彦、98年~00年は権藤博、01年~02年に森祇晶に変わり、03年~04年には生え抜きの山下大輔が務めた。その後も05年~06年が牛島和彦、07年~09年に大矢明彦が二度目の就任、10年~11年の尾花高夫のあとに親会社がDeNAに変わり、12年~15年が中畑清、16年からラミレス監督が指揮を執り、なんと第一次別当薫監督(68年~72年)以来5シーズン目を迎える。

 93年から実に10名…DeNAになってからは中畑4年、ラミレス5年と長くなってはいるが、それまでは2年平均で長くて3年である。自由奔放で選手の自主性を重んじる権藤から、管理野球の森への交代も驚いたし、かつてのチームのスター選手で、期待を一身に集めた生え抜きの山下を2年で見切りをつけたのも驚いた。

 これほど短命監督が続けば、就任直後から成績を求められるわけで、必然的に即戦力志向のドラフトになる。結果、将来性のある選手をじっくり育成するが後回しになり、チームの戦力は上がるはずもない。 

 

●ドラフトの成功率は高いが、なぜかチームの成績は低迷…

 ドラフト上手とは言えないが、成功している選手が少ない訳ではない。ここ10年で74名指名は全体でも2番目に多く、セ・リーグでは唯一70名を超える。うち成功した選手は15名で、率にして20.3%は全体でも西武に次いで2番目に高い。

 顔ぶれを見てみると、投手では三嶋一輝(法大~12年②)に井納翔一(NTT東日本~12年③)、三上朋也(JX-ENEOS~13年④)に、14年~18年の大卒1位投手の山崎康晃、今永昇太、濱口遥大、東克樹、上茶谷大河がすべて成功し、育成でも砂田毅樹(明桜高~13年育①)がいる。

 野手では桑原将志福知山成美高~11年④)に宮崎敏郎(セガサミー~12年⑥)、倉本寿彦(日本新薬~14年③)、柴田竜拓(国学院大~15年③)、戸柱恭孝(NTT西日本~15年④)、神里和毅(日本生命~17年②)が並ぶ。これだけのメンバーがいて、なぜ勝てないのか不思議である。

 その要因が、成功選手の活躍が続かないことだ。例えば一昨年は先発投手が総崩れになり、ルーキーの東が勝ち頭の11勝を上げた。昨シーズンは今永は復調したものの、東が故障で4勝止まり、ルーキーイヤーに10勝を上げた濱口も4勝→6勝で成績が安定しない。中継ぎ陣も一昨年大車輪の活躍をした砂田は70試合から16試合に減少、三上も65試合から6試合と激減している。

 野手でもレギュラーは宮崎だけで、桑原と倉本、戸柱はかつてのレギュラー候補になってしまい出場試合数が減っている。桑原は127試合から72試合で打率1割台…倉本もあっさり大和(樟南高~05年神高④)にポジションを奪われ85試合→24試合、戸柱も25試合→45試合では、出番が増えたとは言えない。昨シーズンは神里が初めて規定打席に達したが、1~2年の活躍ではレギュラーとは呼べない。

 18年に規定打席に達したのは筒香と宮崎、ソトとロペスで、リーグ最小の4名だったが、昨シーズンこの4名に神里と大和が加わり、結果成績も4位から2位へ上がった。レギュラーを獲るには当然本人の努力があってこそだが、苦労してレギュラーを獲得した選手を監督が我慢して使い続け、主力選手に育成することも大事だ。

 その代表例が筒香嘉智(横浜高~09年①)で、中畑が監督に就任すると1年目から筒香を我慢強く起用し続け、12年に規定打席に達すると14年からは主力選手としての活躍は周知の通りである。今シーズンは筒香がメジャー移籍し、宮崎も大和も30歳を超え、20歳代後半の桑原や倉本、柴田の活躍は必要で、ラミレス監督の起用に注目したい。 

【過去10年のドラフト1位指名選手

 10年⑥ 須田 幸太(JFE東日本・投手)   高⓪大③社⑤(投手⑤野手③)

 11年⑥ 北方 悠誠(唐津商高・投手)   高⑧大⓪社①(投手④野手⑤)

 12年⑥ 白崎 浩之(駒大・内野手)    高⓪大②社④(投手③野手③)

 13年⑤ 柿田 裕太(日本生命・投手)   高①大②社③(投手④野手②)

 14年⑤ 山崎 康晃(亜大・投手)     高②大③社②(投手④野手③)

 15年⑥ 今永 昇太(駒大・投手)     高②大③社②(投手④野手③)

 16年③ 濵口 遥大(神奈川大・投手)   高③大⑤社①(投手⑥野手③)

 17年③ 東  克樹(立命大・投手)    高②大②社⑤(投手⑤野手④)

 18年④ 上茶谷大河(東洋大・投手)    高③大②社①(投手④野手②)

 19年② 森  敬斗(桐蔭学園高・内野手) 高④大③社⓪(投手③野手④)

 

  ベイスターズのドラフトはかつてはチャレンジしていた。特に97年の谷口邦幸(町野高~97年①)から01年の秦裕二智弁学園高~01年①)まで5年連続で高校生を1位指名し、内川聖一(大分工高~00年①)をはじめ高校生野手3名も含む。ただ、積極的な指名にも係わらず戦力になったのは内川だけだったのは残念だった。

 その反動ではないが、希望枠~自由枠になると大卒・社会人の即戦力指名になり、統一ドラフトになってからは、09年の筒香から13年の松井裕樹楽天)以外は、17年まではすべて大学生投手の指名になっている。ただクジ運が滅法悪く、ここ10年で3勝8敗で1位入札選手はすべて外している。

 また、DeNA以前からの悪しき伝統ではないが、1位指名選手在籍の短さがある。直近10年でも須田は8年、北方は高卒ながら3年、柿田は即戦力ながら一軍登板ゼロで4年で退団である。白崎もオリックスへトレードされ、既に4名がチームを去っており、これは12球団で最も多い。

 このことはいまに始まったことではなく、大洋時代の右田一彦(電電九州~81年①)は2年でロッテへ移籍、大畑徹(大商大~82年①)と森大輔三菱自動車川崎~03年自)は北方と同じく3年で退団している。右田から柿田まで、ドラフト1位選手の5年以内の退団または移籍は12名を数え、3人に1人は5年以内にチームを去っている計算になる。

 いくらクジ運が悪いとはいえ、1年間チームが戦略を練った1位指名選手を短期間で見切りをつけるようでは、フロントもスカウト、そして現場もチーム強化に本気で取り組んでいるようには思えない。育成とそれに対する我慢、いま一番求められていることかもしれない。そうでなければ、DeNAのドラフト戦略は無いに等しい。

 

●ホームラン頼みの大味な打線が改善するも、投手が勤続疲労で続々リタイヤ

 一昨年はリーグ1位の本塁打を放つも、チーム打率と得点は最下位で効率の良くない打線だったが、昨シーズン改善を見せた。チーム本塁打は181本から163本に減少してリーグ3位だったが、得点は逆にリーグ3位の596点まで上がった。

 ソトが43本塁打本塁打王、ロペスと筒香を合わせた3名で103本塁打と、中軸が破壊力を見せた。前半大不振だった宮崎も後半復調し、神里と大和が規定打席に達し、打線が安定感を増した。

 正捕手不在も伊藤光明徳義塾高~07年オ高③)が頭一つ抜け出し、乙坂智(横浜高~11年⑤)や佐野恵太(明大~16年⑨)が出場機会を増やしレギュラー候補に名乗りを上げた。巨人から移籍した中井大介宇治山田商高~07年巨高③)も、要所でチームを救う活躍を見せた。

 しかしチーム打率は相変わらず低くリーグ5位の.248、盗塁は12球団最下位の40盗塁で、筒香が抜けロペスも今年は37歳になり、昨シーズンのようにこの打線を維持できるかが大きな課題になる。

 投手陣は、今永が13勝に防御率3位とエースにふさわしい投球を見せ、7勝を上げた上茶谷もローテーションを1年守り、大貫晋一(新日鉄住金鹿島~18年③)も6勝を上げ及第点の成績だった。ルーキーは奮闘したにもかかわらず、若手と中堅は結果を残せず一昨年の新人王の東は4勝、濱口や平良拳太郎(北山高~13年巨⑤)も好不調の波が大きく、ベテランの井納翔一(NTT東日本~12年⑦)も4勝と先発陣の駒不足が露呈した。

 救援陣は山崎が61試合登板~30セーブで断トツのセーブ王、エスコバーと三嶋が70試合以上に登板しブルペンを支えた。ただ、リーグで70試合以上に登板したのはこの2名だけで、勤続疲労が心配だ。

 実際に一昨年活躍した三上に砂田、田中健二朗常葉菊川高~07年高①)は満足にシーズンを投げられず、パットンも22ホールドを上げたものの防御率5点台を精彩を欠き、先発以上に底上げが必要な状態だ。

 結果、チーム防御率はリーグ5位の3.93、2位ながら得失点差は▲15で投手陣の整備は打線以上に緊急課題と言える。

 

●地元のスター候補・森を単独で獲得!上位は即戦力、下位で育成の得意のパターン

 DeNAのドラフトはチャレンジしないと述べたが、一昨年は筒香以来の高校生野手で小園海斗(広島)を指名した。そして昨年、同じ遊撃手で地元の森を指名し、長年これといったレギュラーのいなかった遊撃強化を続けたのは評価できる。

 2~3位は即戦力の大学生投手を並べ、下位は高校生3名に大学生1名と、この間の流れで上位に即戦力、下位で育成のパターンは変わらなかった。また、00年以来19年振りに社会人指名がなかったのは、育成に重点を置いた姿勢を感じた。

 
1位~森  敬斗(桐蔭学園高・内野手)6

 当初は進学かプロか五分五分だったが、U-18終了後にプロ入りを表明した。そのU-18では不動の一番打者として全試合にフル出場し、本職は遊撃手だが、チーム事情から慣れない中堅も難なくこなした。

 最大の魅力は身体能力の高さで、遠投120メートルの強肩に、50メートル5秒9の超がつく俊足だ。一塁到達タイムが4.0秒台、二盗タイムで3.37秒を叩き出したこともあり脚だけで相手チームに十分脅威を与えられる。

 あとは打撃だが、こちらも申し分なく、勝負強い打撃にパンチ力もあり、ラミレス監督から5ツールプレーヤーで、OBの石井琢朗のような選手になれると言わしめたのは決して大げさな表現ではない。現在、レギュラーの大和は今年で33歳を迎え、脚のある選手も神里の15盗塁がチーム最多の状況を考えれば、レギュラー獲得のチャンスは早く訪れることが予想される。

2位~坂本 裕哉(立命大・投手)20

 中央では決して目立つ投手ではなかったが、各球団がリストアップしていた実力派の左腕だ。無駄のないフォームから148キロのストレートを軸に安定感のある左腕で、2年春から主戦を務め、4年春のリーグ戦で5勝、驚異的な防御率0.84でMVPを獲得している。

 プロでももちろん先発の即戦力を期待されており、今永や濱口、そして大学の先輩の東に続き、さらに先発左腕が厚みを増した。昨シーズンは先発の駒不足で、ブルペンデーも用いらなければならない状況から期待値は高まる。

3位~伊勢 大夢(明大・投手)13

 九州学院高(熊本)時代から注目されていた投手で、大学でさらなる成長を遂げた。どうしても同僚の森下暢仁(広島)に注目が集まるなか、Wエースとして先発だけでなはくロングリリーフも務めた。

 スリークオーター気味のフォームから、最速151キロのストレートを投げ込むパワーピッチャーでシンカーとスライダーが武器だ。大学でも適性を見せたが、先発・中継ぎどちらでもいける。中継ぎも駒不足で、特定の投手が登板過多で勤続疲労を起こしているチーム状況から考えると、現時点では中継ぎがベストだと思う。

4位~東妻 純平(智弁和歌山高・捕手)57

 高校から捕手へ転向し、高校通算34本塁打を聞けば、打撃力がウリだと思うがそうではない。評価されているのは高い守備力で、監督の元阪神の捕手・中谷仁智弁和歌山高~97年①)の下で英才教育を受け技術を培った。さらに名捕手の条件である肩も遠投125メートルの強肩で、二塁送球1.8秒台を記録したこともある。

 昨年の益子京右(青藍泰斗高~18年⑤)に続き、2年連続の高卒捕手指名になり、将来の正捕手候補として競争環境は整った。兄はロッテ投手の東妻勇輔で、兄弟対決や兄弟バッテリーなど、いつか実現してほしい。

5位~田部 隼人(開星高・内野手)55

 俊足巧打の森とは違い、恵まれた体格からの長打力が魅力の大型遊撃手で、一言で言うとスケールの大きい選手だ。昨夏の島根大会でも2本塁打を放ち、チームを準優勝にお導いた。

 長打力のある打線と言っても、そのうち約半分はソトとロペスの両外国人で、筒香もMLBに移籍し、将来の和製大砲候補の育成は必須である。また、右の内野手に限るとスラッガータイプは伊藤裕季也(立正大~18年②)しかおらず、まずはファームで定位置を獲得して、将来のクリーンアップ候補に名乗りを上げたい。

6位~蝦名 達夫(青森大・外野手)61
 中央では無名で、ドラフトの隠し球選手として名前が挙がった選手で、4年時の活躍で本指名にこぎつけた。まさに未完の大学生で、化ければとんでもない選手になる可能性を秘めている。

 恵まれた体格から放たれる長打力が魅力で、逆方向にも強い打球を打てるバットコントロールに長けている。また、50メートル6.0秒の俊足で、守備や送球も問題ない。今の外野陣にはいないタイプで、走塁と守備で出番が早いかもしれない。今後の成長に注目したい選手の一人だ。

7位~浅田 将汰(有明高・投手)54

 早くからドラフト上位候補に名前が上がり、個人的にはここまで順位が落ちたのが意外だった。1年秋からエースとして活躍し、最速149キロのストレートに角度のあるカーブやスライダー、チェンジアップに見るものがあり、甲子園未出場ながらU-18に選出された。

 何よりも評価されているのがメンタル面の強さで、強豪校にも臆することない強気な性格に、コンディションの悪い状況でも集中力を切らさないなど、まさにプロ向き。7位という下位指名も、浅田ならむしろ発奮材料になることだろう。

 

  育成指名は当初はテーブルについたものの、結果指名することなく終えた。指名順位が9番目でその前に欲しい選手が指名されたことが推察される。

 正直、投手の勤続疲労、野手はレギュラーの高齢化、そして筒香の移籍など、昨年よりも条件は厳しい…。それゆえに育成にじっくり腰を据えて行う時期を迎えている。投手なら飯塚悟史(日本文理高~14年⑦)や京山将弥(近江高~16年④)、阪口皓亮(北海高~17年③)。野手でも伊藤に関根大気(東邦高~13年⑤)、細川成也(明秀日立高~16年⑤)の若手選手の起用、そしてブレイクに期待したい。そのチャンスがいまのDeNAにはある。