ドラフトを知ると野球がもっと楽しくなる

どのチームが「人」を育て強くなるのか

巨人~5年振りリーグ優勝も、ドラフトは迷走気味…本当に育成へシフトするのか

 かつてプロ野球は巨人を中心に回っていたと言える。TVでは毎日巨人戦が放映され、メディアも巨人のニュースばかり…まさしく巨人とその他11球団のような構図が、私は嫌で嫌でたまらなかった。私の住む札幌は尚更で、日本ハムが移転してくるまでは、道民の9割は巨人ファン。アンチ巨人の私は肩身の狭い思いを何度もした。

 そんな構図が変化をきたしたのが、04年に起きた球団再編問題である。時同じくして日本ハムが北海道へ移転し、仙台に楽天イーグルスが誕生し、プロ野球の裾野が広がった。このことをきっかけに、各チームが地域密着を掲げ、ファンサービスを強化することで、純粋に12球団のファンが増えた。巨人一極から、巨人が12分の1になることで、私が待ち焦がれた純然なプロ野球の構造に近づいた。まさしく「雨降って地固まる」である。

 先日、巨人の大スター王貞治氏が、16球団構の話しをした。日本の人口そののものが減少し、野球人口も減っているなかで、敢えてエクスパンション(拡張)することで、野球界を活性化しようとする姿勢は嬉しく大きく共感した。

 いまだに巨人が強くなければ、プロ野球人気が心配だと声高に叫ぶ旧世代の怪物のような人がいるがそんなことは決してない。実際に、巨人のV9が終わったあとのほうが観客動員数は伸びているし、18年は過去最高の観客動員数を記録した。

 かつて閑古鳥が鳴いていた南海ホークス時代の大阪球場、ロッテの川崎球場は、常に満員の福岡ヤフオクドームになり、12球団で最も熱い応援の千葉マリンスタジアムになった。かつて親父のコンテンツだったプロ野球が、まさしくボールパーク化して様々な年代のファンが楽しめるようにようになったことをむしろ歓迎すべきである。

 

●逆指名~自由枠でチームはスケールダウン…ここ数年は振り幅の大きく迷走気味

 その巨人だが、近年は低迷傾向だ。昨シーズン5年振りにリーグ制覇し、球団史上初の5年連続V逸は免れたが、日本シリーズではソフトバンクに歯が立たず、1勝もできずに敗退した。

 80年代は優勝5回に日本一2回でBクラスはなし。続く90年代は優勝3回で日本一は2回、Bクラス2回とやや陰りが見えた。再編問題に揺れた00年代は、優勝4回でここも日本一は2回でBクラスも2回、そして10年代は優勝4回で日本一1回、Bクラス1回、最下位は75年を最後にない。他チームから見ると羨ましい数字だが、それでも近年は圧倒的な強さを感じない。

 巨人の力強さの不足の要因の一つがドラフトで、08年に統一ドラフトになってから失敗が続いている。元々、ドラフト制度に反対だった巨人。さすがにもう悪法とは言ってはいないが、かつての指名順位抽選方式、入札抽選式、それこそ悪法だった逆指名~自由枠は、制度に反対だった巨人を何とか納得させる妥協の産物だった。

 ただ皮肉にも、巨人が熱望した逆指名と自由枠が巨人を弱くしたと私は思う。入札時代は原辰徳東海大~80年①)や松井秀喜(星稜高~92年①)を抽選のなか獲得し、何といっても高校生指名が凄い。

 主力選手を見ると、投手では槙原寛己(大府高~81年①)、斎藤雅樹(市川口高~82年①)、桑田真澄(PL学園高~85年①)、木田優夫日大明誠高~86年①)と1位指名にレジェンド級が並ぶ。野手でも、岡崎郁大分商高~79年③)に駒田徳広(桜井商高~80年②)、吉村禎章(PL学園高~81年③)に村田真一(滝川高~81年⑤)、川相昌弘(岡山南高~82年④)、元木大介(元上宮高~90年①)と見事にレギュラー選手が素質豊かな高校生で構成されている。

 特に私が小学生のときに、背番号50番トリオで槙原と駒田、吉村が出てきたときは衝撃的だった。強いチームというものは、こういった若手が次々と出てくるものなのだと子ども心に感心したのを憶えている。

 逆指名時代になると、投手では上原浩治(大体大~98年①)に高橋尚成東芝~99年①)、野手では仁志敏久日本生命~95年②)に高橋由伸(慶大~97年①)、二岡智宏(近大~98年②)、阿部慎之介(中大~00年①)が活躍するもすべて逆指名選手で、それ以外の主力は岡島秀樹(東山高~93年③)と清水隆行東洋大~95年③)しかいない。

 自由枠はもっと悲惨で、成功は内海哲也東京ガス~03年自)と亀井善行(中大~04年④)しかおらず、残念ながらスケール感も落ちている。

【過去10年のドラフト1位指名選手

 10年③ 澤村 拓一(中大・投手)       高②大②社⓪(投手④野手⓪)

 11年③ 松本 竜也(英明高・投手)    高③大①社③(投手⑥野手①)

 12年① 菅野 智之(東海大・投手)    高①大③社①(投手②野手③)

 13年① 小林 誠司(日本生命・捕手)   高④大⓪社①(投手②野手③)

 14年① 岡本 和真(智弁学園高・内野手) 高①大②社①(投手③野手①)

 15年② 桜井 俊貴(立命大・投手)    高②大⑤社①(投手④野手④)

 16年② 吉川 尚輝(中京学院大内野手) 高②大③社②(投手⑥野手①)

 17年④ 鍬原 拓也(中大・投手)     高①大③社④(投手①野手⑦)

 18年③ 高橋 優貴(八戸学院大・投手)  高⑤大①社⓪(投手④野手②)

 19年① 堀田 賢慎(青森山田高・投手)  高⑤大⓪社①(投手③野手③)

 

  直近10年で60名指名しているが、成功したのは澤村に菅野、田口麗斗(広島新庄高~13年③)で、高橋も1年目まずまずの成績を残した。野手では小林と岡本、大城卓三(NTT西日本~17年③)を合わてもわずか7名で、成功率11%はヤクルトに次いで低い。

 さすがにここ数年はいなくなったが、09年の長野久義(ホンダ~09年①)や菅野は、巨人入りを表明して長野は日本ハムとロッテ、菅野も日本ハム指名を拒否している。澤村も実質、逆指名みたいなもので、FA制度があるのだから、そんなに巨人に行きたいのなら、活躍して移籍すればよいものを、双方の身勝手な理由で制度を形骸化させるような姿勢は評価できないし、「変わってないな…」と思った。

 しかし菅野以降、巨人はおろか「この球団しかいかない」という選手を見かけなくなった。そこから巨人のドラフトが迷走し始める。とにかく振り幅が大きい。14年に高校生中心の指名になると、15~17年は即戦力中心。特に17年は小林というレギュラーがいながら、2~3位で社会人捕手、4~6位で大学・社会人内野手を指名する近年最悪のドラフトを展開した。そして18~19年はまた高校生主体に切り替え、高校生は10名、大学生と社会人が各1名と極端な育成路線になっている。

 結果、年齢構成が歪になり、26歳に8名、24歳に6名、19歳に7名と偏り、反面25歳は3名も野手はゼロ、23歳は3名、22歳は1名、20~21歳は各2名と、とにかくバランスが悪い。

 高校生指名も本当に素材のなかの素材型で、一昨年の横川凱(大阪桐蔭高~18年④)や松井義弥(折尾愛真高~18年⑤)などはまさしく0か100の選手で、林昌範市船橋高~00年⑦)を最後に高校生の下位指名から主力選手はおらず、本当に我慢して育成できるか注目していきたい。

 また、クジ運が悪すぎる。08年の大田泰示東海大相模高~08年①)を最後に、なんと抽選は10連敗中で、16年からは4年連続で1位指名を2度外しており、さすがにここまで外すと同情してしまう。

 

●強力打線が復活し5年振りにリーグ制覇!着実で世代交代の波が訪れている

 5年振りのリーグ優勝を果たした巨人。その原動力になったのは強力打線で、チーム打率.257はリーグ2位も、本塁打は1位の183点、盗塁も83個で2位、結果リーグ1位の得点663点を上げた。

 坂本勇人光星学院高~06年高②)が、MLBのように2番打者ながら40本塁打100打点を記録し、広島からFAで加入した丸佳浩(千葉経大高~)は3割には届かなかったものの27本塁打、ベテラン亀井が1番に定着。若き主砲の岡本も打率は落としたものの、31本塁打84打点を稼ぎ出し、1番から4番までがきっちり固定できた。

 このほか大城が巧打者振りを発揮し、若林晃弘(JX-ENEOS~17年⑦)も77試合に出場し経験を積んだ。増田大輝(四国IL徳島~15年育①)はチーム一番の15盗塁を記録し、山下航汰(健大高崎高~18年育①)はルーキーながらファームで首位打者になり、一軍で2安打を放ち、楽しみな若手が出てきた。

 一方で期待の外国人は不発で、ゲレーロは確実性に欠け退団、ビヤヌエバも不振で日本ハムへ移籍した。正捕手の小林は今年も低打率に苦しみ、期待の吉川やベテランの陽岱鋼(福岡一高~05年高①)は今年もケガで離脱。同じベテランの中島裕之(伊丹北高~00年⑤)も戦力になれず、確実に世代交代の波がチームの訪れており、若手の成長が急がれる。

 投手陣は菅野と山口俊(柳ケ浦高~05年高①)が先発陣を支えた。菅野は年間通じて本来の調子ではなかったが、それでも11勝を上げるのはさすがだった。山口は15勝で最多勝を獲得し、奪三振と勝率の3冠に輝いた。

 ほかにメルセデスと桜井が8勝、ルーキーの高橋も5勝、驚いたのは戸郷翔征(聖心ウルスラ高~18年⑥)で、高卒ルーキーが終盤戦で先発陣に加わり初勝利を上げるなど、来シーズンはFAで移籍の山口を欠くが楽しみな若手が揃ってきた。

 苦戦したのは救援陣で、抑えを期待されたクックがわずか6Sで離脱すると、中川皓大(東海大~15年⑦)が代役を務め67試合登板で21Sを上げ、終盤は途中加入のデラロサがクローザーを務めた。中継ぎは実績のある澤村と高木京介国学院大~11年④)に、田口と大竹寛浦和学院高~01年①)が先発から中継ぎに回り、駒不足を補った。

 

●今回も超育成型ドラフトで真価が問われる。結果が出るのは3~4年後

 19年ドラフトは佐々木(ロッテ)と奥川(ヤクルト)、森下(広島)指名で迷い、最後は奥川に入札したがヤクルトへ、さらに宮川(西武)まで外す始末で、4年連続で2度抽選を外し、クジの連敗は10まで伸びてしまった。

 ちなみに巨人が外した選手は、13年の石川歩(ロッテ)、14年の田中正義(ソフトバンク)に佐々木千隼(ロッテ)、17年の清宮幸太郎日本ハム)に村上宗隆(ヤクルト)、18年は根尾昴(中日)に辰巳涼介(楽天)で、有力選手に果敢にチャレンジしている姿勢は評価できる。それにしても誰か1人くらいは…と思ってしまう面々である。 

 
1位~堀田 賢慎(青森山田高・投手)32

 将来のエース候補の奥川のあとは、即戦力の宮川に切り替え、外れ外れで指名したのは高校生の堀田だった。堀田は夏くらいまでは無名だったが、急成長を見せ一気に評価を上げだ投手だ。高校入学時120キロそこそこのストレートが、3年時には151キロを放るのだからポテンシャルは計り知れない。

 まずフォームに変な癖がなく、均整の取れた体格の本格派で槙原のような将来性を感じ、将来のメジャー挑戦を公言するハートの強さも評価できる。昨年の戸郷のように後半戦には一軍登板の可能性は十分にある。

 堀田の1位指名は否定しない。上位で間違いなく消えていた選手で、将来のエース候補に違いないからだ。ただ、奥川のあとに宮川を指名したように、巨人が欲しかったのは計算できる即戦力投手であり、ポスト亀井を任せられる俊足の1番打者候補で、その意味で堀田が正解かだったかの判断が分かれるところだと思う。

2位~太田  龍(JR東日本・投手)33

 鹿児島のれいめい高時代は山本(オリックス)と梅野(ヤクルト)と並び九州BIG3と呼ばれ、社会人ながらまだまだ伸びしろを期待できる選手だ。190センチの恵まれた体格で、高校時代の体力の不安を社会人で解消し、最速153キロのストレートで三振を量産する選手に成長した。

 難しいのは起用法で、昨シーズンは先発だったが、一昨年は抑えを務め、タイプ的には短いイニングが向いているのかなと思う。ただ、まだ成長過程の投手で、巨人がどういった育成~起用をするのか注目したい。

3位~菊田 拡和(常総学院高・内野手)60

 高校通算58本塁打スラッガーで、ついたあだ名は「常総バレンティン」。背番号60に最近では中村剛也(西武)、古くは門田博光(南海)のようなスラッガーとしての期待を感じるが、セールスポイントは長打力一本だけに、育成が難しい選手であり、巨人がどこまで我慢できるかだと思う。

 プロでは高校時代の三塁でいくのか、一塁や外野にコンバートするか分からないが、岡本に加え、松井や山下など同じスラッガータイプがいるだけに切磋琢磨してクリーンアップを目指してほしい。

4位~井上 温大(前橋商高・投手)91

 天性ともいえる柔らかく、しなやかな腕の振りで最速144キロを投げ込み、球速以上に迫力を感じる左腕。クセのないフォームで大崩れしない安定感も魅力で、昨夏の群馬大会での決勝進出の原動力になった。

 昨年入団した横川や大江竜聖(二松学舎大高~16年⑥)と、年齢の近い高卒左腕がおり、井上の素質も申し分ない。この間巨人は、田口や中川など左腕投手が結果を出しており、ライバルにも良い手本にも恵まれている。将来の左の先発候補として、じっくり育成してほしい。

5位~山瀬慎之介(星稜高・捕手)67

 小学校時代から奥川(ヤクルト)とバッテリーを組み、チームでは主将として昨夏の甲子園での準優勝に導いた立役者だ。二塁送球1.8秒の強肩に加え、インサイドワークも素晴らしく、高校選抜にも選出された。

 巨人の捕手は23歳の岸田行倫(大阪ガス~17年②)が最年少で、年齢的にも良い指名になった。ディフェンス面は申し分ないだけに、打力を磨いてレギュラーの定着すれば10年が捕手が安泰になる。まずは奥川との対決、そして侍ジャパンで再びバッテリーを組む夢を実現する姿を見てみたい。

6位~伊藤 海斗(酒田南高・外野手)97
 正直、隠し球的な選手で、指名されたときは思わず「んっ、誰?」と思ったが、酒田南高のエースで4番なら納得の指名である。投手では最速140キロを投げるが、プロでは広角に打てる技術と、高校通算38本の長打力を活かし野手に専念する。そもそも巨人の右の外野手は陽のほかに3名しかおらず、意外に出番は早いかもしれない。

 それにしても山形県からの高校生指名が、12年の楽天・下妻貴宏(酒田南高~12年④)から始まり、この伊藤まで8年連続の指名は凄いことだと思う。この間の東北勢のレベルアップを改めて感じた。 

 

育成指名

 育成指名1位は、平間隼人(四国IL徳島・内野手で、四国リーグで断トツの盗塁王の俊足と堅実な内野守備で、育成選手ながら一軍キャンプスタートに選出された。

 2位も独立リーグ加藤壮太(BC武蔵・外野手)も、50メートル5秒8の俊足を活かした広い守備範囲にパンチ力のある打撃で身体能力抜群で、21歳の若さも魅力だ。

 

  期待できる選手が多いが、正直、今年のドラフトも成功とは言えない。ここ2年、大きく育成に舵を取ったが、どこまで素材型の選手を育成するかの手腕が問われる。また、育成選手の指名も12年以来2名で終わり、ここは不満が残る。

 FA戦線で圧倒的な成果を出していた巨人も、今オフは美馬はロッテに、鈴木は楽天に移籍と、獲得に乗り出した選手を逃した巨人。否応なしに育成を本格化させる分岐になる年になるかもしれない。