ドラフトを知ると野球がもっと楽しくなる

どのチームが「人」を育て強くなるのか

オリックス~12球団で最も優勝から遠ざかっており、Bクラスが定位置

 1996年…オリックスが最後に優勝した年で、あれから23年が経過した。ヒトに例えれば23歳は、大学を卒業して社会人になる年齢で、多くの若者はオリックスの優勝を見たことがない。既に四半世紀弱が経過したが、低迷から抜け出す糸口は見えない。

 最後に優勝した96年は、まだイチローが在籍しており、前年には阪神大震災が起こっている。「頑張ろう神戸」を合言葉に、神戸復興に向けた大きな希望の光になった。同じパ・リーグで次に優勝から遠ざかっているのはロッテの14年、セ・リーグでは横浜の21年で、オリックスは12球団で最も優勝から遠ざかっているチームだ。

 それだけではなく内容も悪い。優勝した96年からの23シーズンで、Aクラスは97年~99年、08年、14年のわずかに5回で、最下位はリーグ最多の8回を数える。2000年代はBクラスが完全に定位置で、単純に10年間に一度しかAクラスがない。さすがにここまで低迷すると、チーム戦略が変わってもよさそうなものだが、頑固なのか、伝統なのか、組織風土なのか…なかなかチェンジもチャレンジも感じられないのが残念…というかつくづく不思議なチームだと思う。

 

●社会人指名に傾倒し、なぜか高校生が大成しないチーム

 オリックスのドラフトの特徴を3つ挙げると、①社会人指名が中心、②高校生選手が育たない風土、③加えて高校生の1位指名が大成しないが挙げられる。

 まず直近10年の指名人数は75名と、これは12球団最多の獲得人数で、ドラフトには積極的な姿勢が窺える。その内訳だが、社会人指名が44%と断トツの1位で、次に多いヤクルトが30%なので突出している。独立リーグと合わせると48%で、指名の半分が社会人である。そのなかでも社会人野手の指名が多く14名おり、最も少ない日本ハムはゼロ、ソフトバンクも1名しかおらず、いかにオリックスが社会人指名に傾倒しているのが分かる。

 じゃあ高校生が少ないかというとそうでもなく、高校生指名は36%と西武よりも多い。結果、しわ寄せは大学生に寄っており、大学生指名が16%と最も低く、バランスは決して良くない。社会人指名が悪い訳ではないが、チームの長年の低迷を考えれば見直しが必要で、中々そこに踏み切らない理由が分からない。

 2つ目は高校生がとにかく育たない。先に述べたように、別に高校生を指名していない訳ではなく、単純に育たないのが不思議だ。イチロー愛工大名電高~91年④)のような不世出なスーパースターがいるが、イチロー以外に平成の30年間でレギュラーを獲得したのは、日高剛九州国際大高~95年③)とT-岡田こと岡田貴弘履正社高~05年高①)のみで、投手の主力も平井正史宇和島東高~93年①)と西勇輝菰野高~06年③)しかいない。平井はリリーバーだったので、先発投手に限定すれば西しかおらず、西は星野伸之旭川工高~83年⑤)以来の成功になり、この状況を見るだけで背筋が寒くなる。

 社会人指名が多いので、何か小さくまとまっているような気がする。良く言えば大人のチームと言えるが、反面、自由奔放な高校生が育ちにくい土壌なのか、育てるノウハウがないのか、ここのジレンマは解消したいところだ。そう思うとイチロー仰木彬という男がいなければ、そのまま埋もれていたのかもしれない…。

 最後は、とにかく高校生1位指名が大成しない。これは前身の阪急ブレーブス時代からの悪しき伝統で、そのなかでも投手潰しは確率が高い。成功したのは何と平井のみで、あとは死屍累々の暗黒の歴史だ。少し古いが、阪急時代に榎田健一郎(PL学園高~82年①)や野中徹博(中京高~83年①)という超高校級を獲得しているが、この完成度の高い2人の投手を、どうやって潰すことができたのか不思議である。

 近年でも嘉勢敏弘北陽高~94年①)や今村文昭(九州学院高~95年①)はわずかに3勝で、嘉勢は野手へ転向した。4球団が競合した川口知哉(平安高~97年①)は、誰が見ても将来のエース候補だったが、7年間の在籍でわずか9試合登板で勝ち星なし、甲斐拓哉(東海大三高~08年①)に至っては一軍登板なしででプロを去った。

 中日のときにも述べたが、低迷するには低迷するなりのプロセスがある。オリックスには長きにわたる複数の課題があり、その課題を一つひとつ解消していかなければ、低迷の出口が見えることはない。

【過去10年のドラフト1位指名選手

 10年⑤ 後藤 駿太(前橋商高・外野手)    高③大⓪社②(投手①野手④)

 11年④ 安達 了一(東芝内野手)    高①大⓪社⑦(投手②野手⑥)

 12年⑥ 松葉 貴大(大体大・投手)    高①大③社②(投手④野手②)

 13年⑤ 吉田 一将(JR東日本・投手)  高④大⓪社④(投手④野手④)

 14年② 山崎 福也(明大・投手)     高④大①社④(投手⑥野手③)

 15年⑤ 吉田 正尚(青学大・外野手)   高②大②社⑥(投手⑥野手④)

 16年⑥ 山岡 泰輔(東京ガス・投手)   高④大②社③(投手⑦野手②)

 17年④ 田嶋 大樹(JR東日本・投手)  高③大⓪社⑤(投手③野手⑤)

 18年④ 太田  椋(天理高・内野手)   高②大②社③(投手③野手④)

 19年⑥ 宮城 大弥(興南高・投手)    高③大②社⓪(投手③野手②)

 

  マイナスの話ばかりで申し訳ないが、オリックスはクジ運も良くない。直近10年のクジは1勝9敗で、クジの弱さもさることながら、外した選手に大物が多い。10年は山田哲人(ヤクルト)を3回目の抽選で外し、11年の高橋周平(中日)、12年の藤浪晋太郎阪神)と松永昴大(ロッテ)を外している。ようやく17年の田嶋の獲得で連敗は止まったが、今年も2回抽選を外している。

 そのせいか、13年~16年に4年間は単独指名を続けた。単独指名は消極的だとの意見もあるが、有力選手をあえて外して単独指名に行くのだから、これは勇気のいることで、失敗したときのダメージは大きく、スカウトは相当のリスクを背負っている。しかし、その勇気とチーム強化は別だ。エースの山岡と全日本のクリーンアップの吉田正の獲得で面目を保っているが、やはり競合を恐れては強いチームは作れない。

 ただ、この2~3年はオリックスの変化を感じ取れる。外れはしたものの、18年は小園海斗(広島)、19年は石川昴弥(中日)を入札指名している。もし2人とも成功していれば、チームとして初めて2年連続で高卒野手を1位指名したことになり、チーム変革の意思や姿勢を感じ取れた。

 そんななか、昨シーズンは高校生選手の成長を感じる一年になった。投手では山本由伸(都城高~16年④)が、弱冠21歳で最高防御率のタイトルを獲得し、同い年の榊原翼(浦和学院高~16年育①)もローテーション投手に成長した。

 野手では若月健矢(花咲徳栄高~13年③)が正捕手になり、宗佑磨(横浜隼人高~14年②)は打撃、佐野皓大(大分高~14年③)は脚で存在感を見せ、西浦颯大(明徳義塾高~17年⑥)は堅守でチームを何度も救った。山本と若月以外はまだ主力ではないが、これまでのオリックスにない高卒選手の勢いを感じる。

 

●山岡と山本のWエースを抱えるも、安定感の欠く救援陣と貧打線で最下位独走

 一昨年の4位から、今年は16年以来の最下位で、5年連続のBクラスに沈んだ。低迷の最大の要因は打線で、チーム打率.242、総得点544点はリーグ最下位、本塁打102本は5位と、数字が深刻さを表している。唯一、盗塁数122はリーグ2位だが、いくら走ってもそのランナーを返すことできず、得点能力に乏しい打線になった。

 18年シーズン、規定打席に達したのは吉田正と安達、ロメロの3人だけで最も少なかったが、昨シーズンは何と吉田正と福田周平(NTT東日本~17年③)の2人だけで、さらに数を減らした。西武が最多の8名、楽天が6名、ロッテと日本ハムが5名、ソフトバンクが4名なので、2年続けてレギュラーが確立できなかった。

 この2人に次いだのが、若月と大城滉二(立大~15年③)、中川圭太(東洋大~18年⑦)で、大城も中川も中軸を担ったが、ともに長打力に欠けた。中軸を期待された外国人選手も、ロメロは出れば打つが、とにかくケガが多く離脱を繰り返し、マレーロは最後まで調子が上がらなかった。活躍間違いなしと言われた新外国人のメネセスも低打率のなかケガで離脱…終いにはドーピング違反で退団してしまった。急遽、中日からモヤを獲得したものの、打線を活気づけるところまではいかなかった。

 結果、吉田正以外に怖い打者がおらず、外国人を除けば小島脩平(住友金属鹿島~11年⑦)と杉本裕太郎(JR西日本~15年⑩)の4本が最高では、正直泣けてくる…。全試合出場した吉田正が、万が一離脱なんてしようなものなら、それこそ目も当てられない。T-岡田の復活や若手の台頭がないと厳しい。

 投手陣はチーム防御率4.05と低いが、先発陣には大きな期待が持てる。もはやWエースと呼べる、山岡と山本がとび抜けて凄い。山岡は千賀(ソフトバンク)に次ぐ170回を投げ13勝を上げ、負け数はわずかに4敗とゲームメークに長けて、最高勝率のタイトルを獲得した。

 山本は強力打線のパ・リーグで、なんと1.95という驚異的な防御率をたたき出した。143回を投げ自責点は31、被本塁打がわずかに8本と、いま一番得点するのが難しい投手の一人と言える。全日本のエースクラスを2人抱えているのは心強い。

 さらにK-鈴木こと鈴木康平(日立製作所~17年②)が、102回1/3を投げ4勝、ケガで途中離脱したものの榊原や田嶋と楽しみな投手が多く、アルバースやプレミア12で注目を浴びた張奕(日本経大~16年育①)を加えれば、先発陣には駒が揃ってきた。

 心配なのが救援陣で、守護神の増井浩俊東芝~09年日⑤)が防御率4.83と安定感を欠きクローザーを外され、代役はディクソンが務めた。ディクソンは後半18セーブとまずまずの結果を残したが、防御率3点台で代役感は否めない。本来なら吉田一や近藤大亮(パナソニック~15年②)、澤田圭佑(立大~16年⑧)等がチャンスを掴んでほしいが、いずれも防御率3~4点台では候補にすら上がらなかった。

 ひとり気を吐いたのがベテランの海田智行(日本生命~11年④)で、チーム最多の55試合に登板し防御率1.84、23HPを上げた。しかしこのチャンスを掴むような若手投手も見当たらず、充実した先発陣とは裏腹に救援陣は厳しいのが現状だ。

 

●11年振りに社会人指名なし、育成指名8名で変化の兆しを感じさせるドラフト

 19年ドラフトは最後まで1位指名が読めなかったが、将来の4番候補の石川(中日)を指名した。残念ながら石川を外すと、すかさず即戦力左腕の河野(日本ハム)を指名したが抽選で連敗、最後の最後で宮城を獲得した。さすがに1位を2回も外すとドラフト戦略が大きく狂うが、全体的に見るとバランスが取れ、よくリカバリーしたと思う。

 ただ、オリックスは年齢構成に偏りがあり、野手は23歳に5名、26歳に4名いるが、24~25歳はゼロだ。また、捕手も24歳の若月が何とチーム最年少で、今年は高校・大学に捕手が豊作だっただけに指名スルーは残念だった。

 大きく変わったのが育成選手を最多の8名指名したことだ。榊原や張奕の活躍、神戸文也(立正大~16年育③)も支配下に登録され19試合に登板。漆原大晟(新潟医療福祉大~18年育①)はファームのセーブ王で、育成に自信を持ちチームの方針転換しようとする意思を感じた。

 
1位~宮城 大弥(興南高・投手)13

 外れ外れ1位の指名だが、当初から上位候補に名前のあった宮城を獲得した。オリックスの高校生投手指名は、08年の甲斐以来11年振りの1位指名になった。宮城は最速149キロのサウスポーで、ストレートと鋭い変化球が武器の左の本格派だ。内角を攻める強気の投球にフィールディングも良く総合力の高い投手だ。

 また、U-15とU-18のそれぞれの世代で日本代表に選ばれており、着実に成長のステップを駆け上がっている。実際、U-18でも「困ったら宮城」くらいフル回転していた姿が印象的で、それだけ信頼を得ていたのだろう。

 宮城はまだ成長過程で、将来は当然先発候補としての育成になると思うが、ワンポイントやショートリリーフなら出番が早そうだ。ただ、中継ぎの層が薄いから、経験を積ませるため等の理由で中途半端な起用をするのではなく、しっかり先発として育成し、高校生1位潰しのジンクスを覆してほしい。

2位~紅林弘太郎(駿河総合高・内野手)24

 中央では無名だが、早くからその潜在能力の高さを評価されていた大型内野手で、1位で石川を外したあとの紅林指名は納得できる。身長186センチの大型選手で、高校通算40本塁打に加え、強肩で打撃以上に守備も評価されており、石川に引けを取らない将来の主軸候補だ。

 同じ遊撃には昨年1位の大田に、その大田より一軍デビューの早かった宜保翔(未来沖縄高~18年⑤)がおり、この3人のレギュラー争いに注目したい。安達が盤石だけないだけに、出番は思う以上に早いかもしれない。

3位~村西 良太(近大・投手)22

 高校時代はまったく無名だったが、名門大学で才能が一気に開花し、大学3年からはチームの主力を担った。サイドから最速152キロのストレートを投げ込み、いまのチームにはいないタイプの投手で、今ドラフトでは唯一の即戦力投手だけに、手薄な中継ぎ陣に加わりたい。

 背番号22と言えば、ヤクルトとの伝説の日本シリーズを戦ったときのリリーバー小林宏や、同じサイドハンドの抑え高津臣吾(ヤクルト)の番号で、チームの期待が顕れている。

4位~前 佑囲斗(津田学園高・投手)43

 昨年、春夏連続でチームを甲子園に導いたエースで、U-18の世界大会でも活躍した。その堂々たる体躯から、パワーピッチャーのような印象を受けるが、まとまりのある安定感のある投手だ。ただ、個人的には若干不満で、最速152キロのストレートがあるのだから、小さくまとまらずスケールの大きい投手になってほしい。

 かつてはイチローが、直近では山本も同じ4位入団である。しかも背番号は、山本がつけていた番号で、村西同様に背番号に期待が込められている。1位の宮城と左右の両エースを形成できる可能性のある楽しみな投手だ。

5位~勝俣 翔貴(国際武道大・内野手)0

 高校時代から4番投手で活躍し、高校U-18ではベストナインに選ばれる活躍を見せたが指名漏れ。大学では野手に専念し、スラッガーに成長し念願のプロ入りを決めた。しかし、引っ張り専門のプルヒッターに加え、三塁しか守れないのがネックだったのか、思ったよりは順位が上がらなかったのが率直な感想だ。

 ただ、高校時代から何かやってくれそうな雰囲気のある選手で、オリックス内野手に左打のスラッガーも三塁のレギュラーもいない。ルーキーながら西野真弘(JR東日本~14年⑦)と中川の正三塁手争いに参戦できる力は十分にある。 

育成指名

 育成指名1位は、佐藤一磨(横浜隼人高・投手)で、189センチの長身から最速148キロのストレートを投げ込む本格派で、宗に続き同校からの入団になった。

 2位の谷岡颯太(武田高・投手)は、激戦区・広島で公立校ながら強豪校を苦しめた右腕で、152キロのストレートを計測したところに素質の高さが窺える。

 続く3位も高校生で中田惟斗(大阪桐蔭高・投手)を指名した。独特の軌道を描くスライダーが武器で、現在のプロ野球を席捲する大阪桐蔭OBに続きたい。

 4位も高校生で、身体能力の高い平野大和(日章学園高・外野手)を指名。次の5位も高校生で、育成で上位5人に高校生を並べる指名は正直良い意味で驚いた。

 5位の鶴見凌也(常盤大高・捕手)は、二塁送球1.7秒の強肩で、若月の下がいないポジションだけに状況によっては支配下登録が早いかもしれない。

 6位で大学生の大下誠一郎(白鴎大内野手を指名した。小柄ながらパンチ力のある打撃の加え、守備力も高く強肩で育成6位とは言え期待のかかる選手だ。

 次も大学生で佐藤優悟(仙台大・外野手)を7位で指名した。強肩俊足で守備力に定評がある右の巧打者でオリックスには少ないタイプの選手だ。

 19年ドラフトで一番最後に指名されたのが松山真之(BC富山・投手)で、140キロを超えるストレートが武器で、19歳と若くこれからに期待が持てる。

 

  正直、今年のドラフトで短期間で一気に戦力が上がることはない。ただ、19年ドラフトは07年以来11年振りに社会人指名がない、かつてのオリックスからすれば画期的なドラフトになった。

 じっくり育成に舵を取り、数年後に優勝だけではなく、Aクラスを維持できるチーム作りを進めてほしい。ファンは23年も待っており、確実にチームが変わる姿勢が伝われば、あと数年くらいはどうってことないと思う。