西武と言えば、かつては12球団隋逸のドラフトの名手で、80~90年代はリーグ優勝12回、Bクラスは僅かに1回の常勝軍団だった。しかし、93年の逆指名ドラフト以降、そのドラフト巧者ぶりが影を潜め、01年以降はリーグ優勝2回、Bクラスは6回と低迷の時期を迎えた。
ただ、着実にドラフト上位指名選手が主力に育ち、ついに昨年10年振りのリーグ優勝を果たすと、見事今年連覇を果たした。年齢構成とポジションごとのバランスがきちんと取れているのはさすがで、ドラフトを活用し、常に上位争いできるノウハウが継続されている。
●1位指名は投手偏重も、3位指名の野手に全日本レベルが並ぶ
直近10年のドラフトの指名人数は65名。指名の割合は高校生と大学生がともに32%、社会人は28%で、全体平均的に獲得している。独立リーグからの獲得がもっとも多く、今年も3名獲得し8%と積極的だ。ちなみに高校生指名32%は2番目に少ない。
ポジション別では投手の指名が61%と多く、1位指名を見ても野手は13年の森のみで投手偏重になっている。抽選で外したが12年の東浜巨(ソフトバンク)、17年の田嶋大樹(オリックス)、そして今年の佐々木朗希(ロッテ)と本当に1位は投手が最近の定石になっており、かつての西武のドラフトを知っている者からすると、サプライズに欠け寂しい限りだ。
特に直近5年では指名人数37名中、投手が25名で実に7割弱を占め、投手陣の弱さが明白な課題で納得はできる。しかし獲得人数の割には残念ながら成果が出ておらず、益々投手偏重に拍車をかける事態に陥ってしまっている。
こうなると必然的に野手は下位指名になるので、迫力のない打線になるところだが、とんでもない打線が出来上がった。特に3位指名が素晴らしく、10年~秋山翔吾(八戸大・外野手)、12年~金子侑司(立命館大・外野手)、14年~外崎修汰(富士大・内野手)、16年~源田壮亮(トヨタ自動車・内野手)と錚々たる選手が並び、楽天に移籍した浅村栄斗(08年~大阪桐蔭高・内野手)も3位指名で、主力どころか全日本クラスの選手が並んでいる。
【過去10年のドラフト1位指名選手】
10年② 大石 達也(早大・投手)※引退 高①大③社②(投手③野手③)
11年③ 十亀 剣(JR東日本・投手) 高②大①社②(投手②野手③)
12年② 増田 達至(NTT西日本・投手) 高②大①社②(投手④野手①)
13年② 森 友哉(大阪桐蔭高・捕手) 高②大②社③(投手③野手④)
14年⑤ 高橋 光成(前橋育英高・投手) 高③大②社⓪(投手③野手②)
15年④ 多和田真三郎(富士大・投手) 高②大⑤社③(投手⑧野手②)
16年④ 今井 達也(作新学院高・投手) 高②大②社②(投手④野手②)
17年② 斎藤 大将(明大・投手) 高③大②社①(投手④野手②)
18年① 松本 航(日体大・投手) 高②大③社②(投手④野手③)
19年① 宮川 哲(東芝・投手) 高②大⓪社⑥(投手⑤野手③)
西武はFAでの選手流失が18名と最も多く、直近10年でも10年~土肥義弘(投手→MLB)と細川亨(捕手→ソフトバンク)、11年~許銘傑(投手→オリックス)と帆足和幸(投手→ソフトバンク)、12年~中島裕之(内野手→MLB)、13年~片岡治大(内野手→巨人)と涌井秀章(投手→ロッテ)、15年~脇谷亮太(内野手→巨人)、16年~岸孝之(投手→楽天)、17年~野上亮磨(投手→巨人)、18年~炭谷銀仁朗(捕手→巨人)に先述した浅村と12名を数え、今年も秋山のFA移籍が確実で5年連続となる。
ここまで主力が流失すれば、とてもリーグ優勝などは難しいと思うが、それを補っているのが断トツのドラフトの成功率で5人に1人が確実に主力に成長している。
投手では十亀に増田、多和田、松本航が基準値をクリアし、高橋光と今井も若干不足したが成功といえ、1位選手で成功していないのは10年の大石と17年の齋藤大くらいだ。さらに牧田和久(日本通運~10年②)、野田昇吾(西濃運輸~15年③)、平井克典(ホンダ鈴鹿~15年⑤)と社会人投手も結果を残している。
野手では森のほかに秋山、金子侑、外崎、源田の3位組に、山川穂高(富士大~13年②)が成功だ。それにしても天性の長距離打者の森と山川、俊足巧打の秋山と外崎、超がつく俊足の金子侑、プロが認める堅守の源田など、タイプの違う選手が主力になっており、スカウトセンスの秀逸さにただただ脱帽するしかない。
課題はやはりFAの主力の流失防止か…毎年、シーズンオフに主力がいなくなるストーブリーグはファンにはたまったものではない。一昨年引退した松井稼頭央、今年は松坂大輔とかつてチームを去った選手が戻ってきており、この潮目が変わるきっかけになると良いが…。
●強力打線でリーグ連覇も、CSは完敗で2年連続で涙…
今年も超強力打線が健在だった。チーム打率.265、得点数756点、盗塁数134個は12球団最多の数字である。森が首位打者、山川が本塁打王、中村剛也(大阪桐蔭高~01年②)は打点王、金子侑が盗塁王、秋山が最多安打と打撃タイトルを総ナメにした。
とにかく今年はけが人もなく、源田と外崎、36歳のベテラン栗山巧(育英高~01年③)と最多の8名が規定打席をクリアし、木村文和(埼玉栄高~06高①)もわずかに2打席不足しただけでレギュラー9名が一年機能した。
一方で投手陣のチーム防御率4.35は、2年連続リーグ最下位で4点台は西武とヤクルトしかいない。エースの菊池雄星(花巻東高~09年①)がメジャー移籍し、昨年最多勝の多和田はケガで早々と離脱し1勝に終わった。その投手陣を救ったのが新外国人ニールで、11連勝を含むチーム最多の12勝、ルーキー松本航が7勝を上げ、新戦力が菊池と多和田の穴を埋めた。
リリーフ陣では平井が歴代2位の81試合に登板し、クローザーの増田が復活。昨年まで一軍登板のなかった平良海馬(八重山商工高~17年④)が、後半戦だけで26試合に登板するなど新戦力が台頭したが枚数は不足している。
エース菊池とキャプテンで打点王だった浅村の流失で、連覇は難しいと思われたが、負け越しした月は一度もなく、8月の夏場から貯金14と終盤猛追をかけソフトバンクを捉えた。チーム別では、ソフトバンクと楽天の上位チームには負け越ししたものの、ロッテから貯金8、オリックスには貯金9と、カモのチームから確実に勝ち星を重ねていった。ただ、CSでは課題の投手陣が打ち込まれ、逆にソフトバンクのぶ厚い投手陣の前に自慢の打線が機能せず、2年連続で日本シリーズ出場を逃した。
課題を埋めるべく今オフは、メジャーからNPBに復帰する牧田獲得に動いたが、楽天との競争に負け、秋山の移籍に備え、久しぶりにFAに参戦し福田秀平(ソフトバンク)獲得に動いたが実らなかった。
確かに投手陣の整備は最優先課題だが、攻撃陣も課題を抱え、レギュラーと控えの差がありすぎる。捕手の岡田雅利(大阪ガス~14年⑥)は別格として、内野では佐藤龍世(富士大~19年⑦)の52試合、外野では愛斗(花咲徳栄高~16年④)の42試合が最多で、差があるなんてものではない。
内外野を守れる新外国人のスパンジェンバーグや、阪神から内野の森越祐人を獲得したのは若手の伸び悩みが要因で、ファームで盗塁王を獲得した山野辺翔(三菱自動車岡崎~19年③)等がレギュラーを脅かす存在にならないと連覇は厳しい。
●課題の投手陣の補強優先が理解できるが…野手はレギュラーを脅かすホープ不在
2年連続のCS敗退がよほど響いたのか、今年は例年以上に投手主体で、指名人数8名中5名、しかも1~3位の上位3名に即戦力投手を並べた。
この間の西武は、競合を避けるらしくないドラフトが続いていた。昨年は大豊作の高校生野手に目もくれず松本の単独指名、17年も清宮(日本ハム)にいかずに田嶋を指名し、外したあとも安田(ロッテ)や村上(ヤクルト)にいかず斎藤大を指名した。
戦略的には間違いではないが、西武らしくないな…と釈然としないドラフトで、今年も即戦力の森下(広島)だろうなと思っていたので、正直、佐々木(ロッテ)指名公言は驚いた。ただ、久々に素質豊かなスター選手に競合覚悟で臨んだ姿勢は評価できた。
1位~宮川 哲(東芝・投手)15
その佐々木を外して指名したのは、即戦力投手の宮川で、両リーグの覇者・巨人と競合のなか獲得できた。宮川は上武大時代にも上位指名が有力視されていた選手で、まさかの指名漏れから社会人で腕を磨き、1位指名にまで成長した。
154キロのストレートにカットボールとフォーク、カーブが武器の奪三振率の高い投手で、課題のスタミナを克服し先発ローテの一角に喰い込みみたい。一方で中継ぎなら間違いなく即戦力で間違いなく投手陣のプラスになる。
西武の先発陣は、32歳の十亀と31歳のニールの下は、26歳の多和田まで空白があり、23歳の松本に22歳の高橋、今井は21歳と若い投手が並び、ここに24歳の宮川が加われば先発の層が厚くなる。
2位~浜屋 将太(三菱日立パワーシステムズ・投手)20
浜屋は社会人で伸びた投手で、最速148キロのストレートにスライダーが武器だ。先発・中継ぎのどちらでもいける万能型で、2位とは言え指名順位は24番目で、どの球団も欲しがる即戦力左腕でよくここまで残っていたと思う。
左腕の先発候補は、復活を目指すベテランの内海哲也(東京ガス~巨人04年自)と榎田大樹(東京ガス~阪神11年①)に新外国人のノリンで、中継ぎには野田のほかに小川龍也(千葉英和高~中日10年②)と佐野泰雄(平成国際大~15年②)がおり、左の先発が不足しているチーム事情から、ここは先発で育てるほうが良いと思う。
3位~松岡 洸希(BC武蔵・投手)47
驚くことに高校卒業後に本格的に投手を始め、前楽天の片山博視コーチの助言でサイドスローに転向した選手で年齢は19歳。経験の浅い選手がドラフト3位指名されるのだから、伸びしろは十分なのだろう。148キロのストレートとキレのあるスライダーが武器で、奪三振率の高く中継ぎに適性がありそうだ。
同じ中継ぎで1歳上に今年ブレイクした平良や、同じ独立リーグ出身の伊藤翔(四国IL徳島~17年③)もおり、同い年は同郷で地元埼玉の渡邊勇太朗(浦和学院高~18年②)で、若手が切磋琢磨できる良い競争環境が整った。
1年秋からスイッチヒッターに取り組んだ俊足の遊撃手で、ポテンシャルの高さはこの肩書だけで十分に伝わる。1年から遊撃のレギュラーで守備も巧く、広角に打ち分ける打撃に、主将まで務めたのだから将来の主力選手になる可能性は十分だ。
西武のレギュラーで一番若いのは森の25歳で、内野は源田の26歳だ。先述したように野手の若手が伸び悩んでいるなか、レギュラー獲得の可能性は十分ある。心配なのは走攻守に優れているが故に、かえって特徴のない器用貧乏にならないようにセールスポイントを磨いてほしい。守備なら源田、脚なら金子侑と手本になる選手に恵まれている。
5位~柘植 世那(ホンダ鈴鹿・捕手)37
昨年はホンダ鈴鹿からドラフト候補が5人もいたが、残念ながらいずれも指名漏れ。そのなかの一人が柘植で、今年は事前のドラフト候補でも名前がなく、悪いがすっかり忘れていたところの指名で名前が呼ばれたときは驚いた。
社会人選手とは言え、高卒4年目で今年の大学生選手と同い年。健大高崎高(群馬)時代から打てる捕手として注目され、遠投110メートルの強肩だ。森の下は、19歳の牧野翔矢(遊学館高~18年⑤)まで空いており、森と岡田以外は一軍レベルには程遠く、空き年齢と不足するポジションを埋める良い指名で、出番は早いかもしれない。
6位~井上 広輝(日大三高・投手)41
物事に“たら、れば”は禁物だが、ケガがなければ間違いなく上位で消えていた選手だ。同性で阪神2位の井上広大(履正社高)や、巨人4位の井上温大(前橋商)がおり、中継を観ていて「井上」とコールされるたびに「来たか」と思っていたところ、西武が6位指名できたのはある意味幸運だったと思う。
最速152キロのストレートと緩急をつけた投球が持ち味で、誰もが認めるポテンシャルの高さは、6位ながら背番号41に期待の高さが伝わる。これで西武は6年連続の高校生投手の指名になり、空き年齢を生まないバランスの取れた指名は見事と言える。
7位~上間 永遠(四国IL徳島・投手)64
3位指名の松岡と同様、19歳の若い投手だ。最速148キロのストレートに、カーブやスライダー、フォークを武器にする本格派で、四国アイランドリーグでは先発を務めた。現在は残念ながら肘に故障を抱えているが、そのことを圧してでも指名したのは潜在能力の高さと、四国リーグでの実績の高さだろう。
西武はこの10年間で、独立リーグからD℮NAと並んでもっとも多い5名を本指名しており、投手転向わずかな松岡や、故障のケアも含む上間が活躍することで、独立リーグの意義が益々高まり、野球そのものの底辺の拡大に繋がると思う。
8位~岸 潤一郎(四国IL徳島・外野手)68
あの名門・明徳義塾高(高知)で、1年生で4番を打つ岸の出現には驚いた。その後は4番エースで春夏4度の甲子園で活躍し、誰もがプロでの活躍を想像したが、ケガで大学を中退…一時は完全に野球から離れた。
しかし独立リーグで再チャレンジし外野手へ転向し、四国リーグ盗塁王の実績を引っ提げてプロ入りが叶った。今シーズンは遊撃手のコンバートされ結果を出し、やはりさすがの野球センスである。多少の遠回りをしたとは言え、まだ22歳で高橋光や愛斗と同い年、外野のレギュラーはいずれも30歳を超えるなかチャンスは十二分にある。
育成指名
育成指名は、出井敏博(神奈川大・投手)ただ一人で、闘志を前面に打ち出す投球スタイルが武器の本格派で、早めに結果を出し支配下登録を勝ち取りたい。
さすがにドラフト巧者であって、投手中心にはなったがバランスの良い指名だった。ただ、ウェーバーで3位指名はもっとも早い25番目で、投手ではリリーバーのソフトバンク3位の津森宥紀(東北福祉大)や、不足する左腕で阪神3位の及川雅貴(横浜高)、野手でもポスト秋山でロッテ3位の高部瑛斗(国士館大)が残っており、3~5位指名は順位が高い印象を受けた。
一方で、ドラフト巧者ながら、最近は冒険心のないドラフトが続いていたので、佐々木の1位指名や松岡の3位指名などは、かつての西武のドラフトが戻ってきたのかな…と思わせ、そうやってみると今年のドラフトは成功だったのかなと思う。