ドラフトを知ると野球がもっと楽しくなる

どのチームが「人」を育て強くなるのか

広島~得意のドラフトで、来シーズンはペナント奪還

●最終戦に勝ちきれず、V4どころか逆転でCS進出を逃した

 チーム初の3連覇を果たし、悲願の日本一に臨んだシーズン。今年は開幕から波に乗れずにスタートは躓いたが、4月中旬から怒涛の連勝街道をひた走り、5月には首位に立ち4連覇も見えた。しかし交流戦が大きな落とし穴となり、まさかの5勝12敗1分で最下位に沈むと、リーグ再開後も5割維持がやっとで、優勝争いに絡むことができなかった。

 しかも勝てばCS進出が決まった最終戦を落とし、阪神がまさかの6連勝で逆転でCS進出を決めた。結果、4年ぶりのBクラスへ転落し、緒方監督が辞任した。今思えば、CS進出を込める大事な試合に、緊張感の欠けた引退試合を行う必要があったのか悔やまれる。

 今年はチームの主軸“タナキクマル”の丸佳浩がFAで巨人へ移籍し、田中広輔は不振にあえいだ。さらに夏場に好調を維持していたバティスタのドーピング違反での出場停止も重なり、攻撃力が一気に落ちた。チーム打率.254は昨年を大きく下回り、本塁打数と盗塁数も減少、得点は100点以上も落ちた。

 一方で投手陣は、チーム防御率は大きく改善したものの、得点力不足で勝ちに繋がらなかった。昨年盤石だった中継ぎ・抑えも、ジャクソンの退団や、クローザー中崎翔太の不振もあり、勝ちパターンが決まらず、逆転される試合も目立った。

【9/28現在のチーム成績 ※( )は昨年の成績】

 防御率…3.68②(4.12③)打率….254③(.262③)

 本塁打…140④(175②)盗塁81③(95①)

 得点…591④(721①)失点601④(651④)得失点差▲10(+70)

 

●若い投手陣の逸材が並ぶ!心配なのはFAでの主力の流失

 広島の平均年齢26.7歳は、育成主眼のチームだけあって若いチームだ。特に投手は26.2歳で日本ハムと並んで最も若い投手陣で、今年の成績から来シーズンに向けても期待が持てる。

 今年は丸の抜けた穴がとにかく大きかった。昨年39本塁打、10盗塁の3番打者の流失が、そのままチームの成績に直結してしまった。そのなかで鈴木誠也が大奮闘し首位打者を獲得、西川龍馬もレギュラーを掴み.297で打撃10傑に名を連ねた。

 このほか、正捕手の曾澤翼とタナキクマル菊池涼介規定打席に達したものの、先述した田中以外に、松山竜平野間峻祥も成績を落とし、昨年6名いた規定打席到達者が4名に減ってしまった。

 野間の穴は西川で埋められたが、丸と田中広、松山と一気に空いた4つの穴を埋めることは、いくら育成の広島でもカバーすることができなかった。 

 投手陣ではジョンソンが昨年と同じ11勝を上げ、最後まで防御率のタイトル争いを続け、エースの大瀬良大地は、昨年より防御率が1点弱後退したが、11勝は十分に役目を果たした。他に九里亜蓮が8勝、ケガから復活した床田寛樹も7勝を上げるなど、先発陣は結果を残した。

 一方で抑えはフランスアの12セーブが最高で、昨年32セーブを上げた中崎は9セーブで中継ぎに回るなど、最後まで形にならなかった。フランスアが最多の67試合に登板、あとはレグナルトと楽天から移籍した菊池保則が50試合に登板し、主力が欠けたブルペン陣を支えた。

【広島の5年後の主力選手】

 投 手…野村祐輔・菊池保則・中村恭平・大瀬良大地・九里亜蓮・今村 猛

     一岡竜司中崎翔太・薮田和樹・岡田明丈・床田寛樹・アドゥワ誠

     遠藤淳志

 捕 手…磯村嘉孝・中村奨成

 内野手田中広輔安部友裕菊池涼介堂林翔太・三好 匠・西川龍馬

     曽根海成・小園海斗

 外野手…野間峻祥鈴木誠也

 

 5年後はポスト曾澤の育成が急務だが、それ以外は大きな心配はない。投手陣は大瀬良を軸に、野村、九里、床田、薮田、岡田と実績を残した若手もおり、今村と一岡、中崎が復活すれば抑えも安泰だ。アドゥワと遠藤は先発も中継ぎもできる。

 野手では鈴木を軸に、菊池涼と田中がセンターラインを固め、ルーキー小園が成長し、堂林が復調すれば、安部や野間、西川と結果を残した選手がおり、大きく戦力が落ちることはない。

 ただ、そうはすんなり進まないのが広島で、FAでの移籍が囁かれているのが、投手では野村、野手で曾澤と菊池涼、田中も名前が出ている。“たられば”だが、ここが抜けるとチームは一気に戦力ダウンし、98年~12年の15年連続Bクラスの暗黒時代へ逆戻りする心配もある。

  

●年齢バランスは問題なし!育成の輩出スピードをあげたい

 さすがに育成の広島だけに、年齢バランスは悪くない。投手の空き年齢はなく、19歳と25歳が1名だけだが、あとの年代は2名以上おり、さすがの指名である。野手も問題なく、20歳~22歳の内外野がゼロだが、捕手の坂倉将吾が外野を守れ、大きなマイナスになっていない。

 心配なのはここ2年のドラフトである。2017年は12球団で唯一、その年に獲得した選手の一軍出場がなく、今年も1位の小園と、2位の島内颯太郎だけで、育成が重点は分かるが、あまりにも輩出のスピードが遅すぎる。

 育成重点または隠し球的な選手の上位指名など、広島のドラフトはいつも感心する。ただ自信は良いが、過信は禁物だ。「策士、策に溺れないよう」に、目に見える形での成果も必要だと思う。

【広島の補強ポイント】

 投 手…即戦力投手と将来を担うエース候補

 捕 手…ポスト曾澤または中村奨のライバル

 内野手…二遊間の即戦力(特に菊池流失に備えた二塁手

 外野手…走攻守兼ね備えた即戦力

 

 2年連続で高校生野手を1位指名し、16年1位の矢崎拓也も出てくる気配がない。今年は、広島のかつてのお家芸である、即戦力の社会人投手指名が、06年以来あるかもしれない。

 社会人ナンバーワンは、左腕の河野竜生(JFE西日本・投手)で、外れ1位では獲得できないと言われるほど評価が上がってきている。150キロの本格派・宮川哲(東芝・投手)は、経験豊富な右腕で間違いなく即戦力になれる。

 また、大学ナンバーワンの森下暢仁(明大・投手)や、高校BIG4のなかでは完成度一番の奥川恭伸(星稜高・投手)、地元の西純矢(創志学園高・投手)に加え、令和の怪物・佐々木朗希(大船渡高・投手)など、最後まで1位指名の選択に悩みそうだ。

 昨年は野手中心のドラフトだったので、上位指名は投手に集中するかもしれない。広島は投手でも、走攻守揃ったアスリート型の選手の指名が基本だ。そうなるとUー18で指名打者もこなした浅田将太(有明高・投手)は、広島の理想的な選手と言える。

 このほかにも高校生投手の上位候候補では、井上広輝(日大三高・投手)宮城大弥(興南高・投手)は、2位までには間違いなく消える選手で、鈴木寛人(霞ケ浦高・投手)も高く評価している。

 即戦力投手では、吉田大喜(日体大・投手)望月大希(創価大・投手)、左腕の坂本裕哉(立命大・投手)は、森下に次ぐ評価を得ている。社会人ではともにJR東日本太田龍は先発、西田光汰は中継ぎ・抑え候補で、西田はデビューも早そうだ。

 野手に行くなら二遊間の補強が最優先で、小深田大翔(大阪ガス内野手はどらも守れるヒットメーカー、遠藤成(東海大相模高・内野手は、投手と遊撃手をこなし広島が好むアスリート型選手だ。柳町達(慶大・外野手)は走攻守揃った外野の即戦力で、鈴木しかレギュラーのいない外野陣の補強に繋がる。

 3位以降の中位では、高校生なら投手に絞って良い。落合秀市(和歌山東高・投手)に、地元の谷岡颯太(武田高・投手)は、最速152キロの右の本格派。技巧派左腕の林優樹(近江高・投手)も、将来のエースが期待できる楽しみな選手だ。また林勇希(菰野高・投手)は、実兄(広島・育成)が今オフに戦力外になったが、兄の悔しさを晴らしたい。

 即戦力なら、年齢バランスを考えるなら、大卒と大卒→社会人投手(左腕ならベスト)、高卒→社会人3年目の内外野手を獲得できれば、年齢バランスがさらに良くなる。あとはポスト曾澤の即戦力捕手や、二遊間の強化を図りたい。

 この条件に見合う投手では、伊勢大夢(明大・投手)や左腕の橋本侑樹(大商大・投手)は、即戦力候補だが伸びしろもある。隠し球的な選手が松田亘哲(名古屋大・投手)で、大学から硬式野球に取り組み、140キロ後半を投げるまで成長した左腕だ。

 社会人投手では、都市対抗優勝投手の本田健一郎(JFE東日本・投手)、150キロの速球派・小又圭甫(NTT東日本・投手)、安定感抜群の嘉陽宗一郎(トヨタ自動車・投手)は文句なしの即戦力だ。

 ポスト曾澤は、磯村と中村奨が候補だが、大学生なら強肩の小藤翼早大・捕手)、長打が魅力の保坂淳介(NTT東日本、総合力の高い小林遼(JX-ENEOS・捕手)は、捕手陣の層をさらに厚くする。

 野手では、諸見里匠(日本通運内野手土谷恵介(鷺宮製作所内野手は、走攻守揃った即戦力で、小豆澤誠(JX-ENEOS内野手は守備だけで飯を食っていける選手だ。

 最後に広島が好む投手×野手の二刀流アスリート型選手を紹介すると、高校生なら小林珠維(東海大札幌高・投手)は高校通算30本塁打スラッガーサンドゥ・シャーンタヒル(津田高・外野手)は、抜群の身体能力に恵まれポテンシャルが高い。

 大学生では菅田大介(奈良学園大・外野手)は、リーグ戦で投手としても活躍し、身体能力は抜群だ。社会人でも下石涼太(トヨタ自動車内野手は、大学時代に野手に転向した選手で、広角に打てる打撃センスはまだ伸びしろがある。

 

【広島のドラフトを勝手にシミュレーション】

 1位…河野 竜生(JFE西日本・投手)…制球力抜群の150キロ左腕

 2位…宮川  哲(東芝・投手)…力のあるストレートが武器の本格派

 3位…鈴木 寛人(霞ケ浦高・投手)…長身から投げ下ろす威力ある速球

 4位…諸見里 匠(日本通運内野手)…遊撃守備に絶対的自信を持つ

 5位…谷岡 颯太(武田高・投手)…3年間で球速20キロもアップした素質

 6位…小林  遼(JX-ENEOS・捕手)…経験豊富な巧みなリードと強肩

 7位…サンドゥ・シャーンタヒル(津田高・外野手)…伸びしろ十分の未完の大器

 

 育成主体に進めてきたが、今年は主力と控えの差を痛感したシーズンになった。育成も大事だが、今年は即戦力の上位指名でチーム力をアップさせたい。FAでの移籍を想定するなど難しいドラフトになるが、そこはドラフト巧者の広島。今年もアッと言わせる指名の期待している。