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どのチームが「人」を育て強くなるのか

大船渡高・佐々木投手の登板回避は歴史的英断

 毎年、話題になる高校野球の球数問題。今年は甲子園大会が始まる前に、クローズアップされた。

 話題の渦中は、大船渡高の剛腕・佐々木朗希投手の岩手大会の決勝戦の登板回避だ。結果、大船渡高は花巻東高に大敗し甲子園を逃した…佐々木を甲子園で観たい気持ちは私も理解するが、今回の国保監督の判断を私は支持する。

 将来、日本のエースになり得る選手を預かった責任は想像し難いほどのプレッシャーのなか、佐々木の将来性を優先した選択に歴史的な英断だと思う。

 なぜなら毎年のように球数への警鐘を鳴らされるが、結果として何年経っても解決策は見いだせていないからだ。 明確な指標も基準もないのであれば、当事者が判断するしかない。その判断が正しいかどうかは、周囲がとやかく言うものではない。

 

甲子園の光と影…将来の希望を失った事実に目を背けてはいけない
 今年で101回目を迎え、昭和53年の第60回大会から、47都道府県すべてが出場するようになり、夏の一大イベントである甲子園大会。
 選手のケアを第一に、球数制限などを設けているアメリカでは、炎天下のなか高校生が、連投で投げ続ける姿は常軌を逸しており、日本でも素質のある好投手ほど、予選や連投のない一~二回戦当たりの早い段階で負けてほしいというのは、スカウトの本音かもしれない。
 確かに、第68回大会(昭和61年)で初優勝したときの天理(奈良)の本橋雅央や第71回大会(平成3年)の準優勝高・沖縄水産大野倫は、このときの故障が原因で投手生命を絶たれた。
 特に、沖縄水産の大野は、私が見ていても痛々しく、正直、高校の部活動でここまで選手に無理をさせる必要があるのかと率直に思った。あとで知ったことで、県大会のときから右腕を疲労骨折していたと聞いて、本当に残念だった。

 昨年、TV取材で「後悔していないし、監督を恨むことなどない」と話し、大野は九州共立大に進学し、外野手で入団(巨人5位)したが大きな活躍はできなかった…率直に投手として見たかった。
 一方で本橋もある記事で、「状況がどうであれ、甲子園大会の決勝戦で投げないという選手はいないと思います」とコメントしていたが、このときの故障が原因で、プロはおろか草野球すらできない状態になってしまい、一方で悔恨の思いは消えないと話していた。

 大野も本橋も、地区予選のときにすでに故障を抱え、甲子園では故障を圧して投げた。やはり佐々木の登板回避はベストな判断だと思う。

 

球数制限よりも、ケアするのは連投
 昨年は球数制限の他に、複数投手制等もが言われていたが、球数制限以上に実現は難しい。昨夏、公立校では金足農(秋田)と高岡商(富山)、高知商の3校が初戦突破したが、いずれも1人エースで、私立高校ならまだしも公立校でエース格の投手を2~3人も確保するのは奇跡に等しい。
 仮に球数制限でドクターストップをかけても、強制はできないだろう。本人が投げられると言えば止める術はない。社会人野球のように、代表と同地区から戦力補強選手を指名するのも、基本部活動の高校野球では無理だろう。
 球数制限で、大会本部や主審から降板を告げられるのも野暮だし、実際に球数は何球にするか、一試合なのか、累積なのか、連投ではなく、イニングで継投または交代した場合はどうなのか等々、勝負ごとに関わることで、思うほど単純ではない。
 私案だが、投手の診断やアフターケアを大会本部主導できないだろうか。個々の選手で筋肉なども違うので画一的な方法とは言えないが、その筋の専門家による診断やケアで、第三者の意見が抑制の役割を果たすと思う。

 また、球数以上にキツイのが連投である。各校の初戦のみ甲子園で行い、二回戦以降は連投にならないよう近隣の京セラドームやほっともっとフィールド等で行い、ベスト8の試合から甲子園に戻り、準決勝、決勝をそれぞれ1日空けて行うなど、日程面での調整もやろうとすれば可能だ。

 話を戻すが、今年の甲子園大会は8月6日で、岩手大会の準決勝~決勝を2日続けて行う必要があったのだろうか?球数と並行して地方大会の日程調整が必要だと思う。
 色々な方法があると思うが、球数制限の意図は分かるし、必要性も十分に理解するが、勝ち負けを超え、選手ファーストの歴史的大英断でもしない限り、この問題を解決することはできない。

 

 最後に、佐々木投手がプロ入りを表明してくれた。こんな嬉しいことはない。今秋、どのチームのユニフォームに袖を通すか楽しみだ。佐々木の快投は、甲子園終了後のU-18まで取っておこう。

 すっかり影に隠れたが、花巻東高には西舘勇陽というプロ注目の好投手がいる。今年こそ、大優勝旗を東北にもたらすことを期待している。